「顧客志向」は今の世の中、当たり前の認識になっていると思うが、実際に顧客の立場で自らを捉え、位置づけるのには高度な客観性が必要であり、非常に困難な作業である。
観光振興の場合も同様であり、正直なところ、「顧客志向」で観光振興が出来ているケースはそう多くないのが実情だろう。この辺は、CS調査の実施状況やその反映状況などを見ていると明白である。(ひょんなことからOR学会で講演することになっている分野でもある)
特に「地域」レベルでは、CSどころか、基本的な観光統計すらままならない状態なのだから、あとは推して知るべし。である。
また、地域の場合には、いわゆる観光客などの顧客の他に、地域の住民という主体があり、地域の歴史や文化、自然環境、景観といった要素もある。これらは、企業的に考えれば経営の「リソース」であるが、一方で、社会的な立場から福祉の向上や維持保全も求められている。
現在の企業が、顧客からの支持によって規定され成立するとされる。つまり、企業自らが自身を位置づけることは出来ないという考え方だ。
この考え方を地域に当てはめると、見方によって顧客の種類が複数、存在すると整理できるのではないか。
1つは、観光分野においての顧客、すなわち、いわゆる「観光客」。このとき、住民や地域資源は観光客にサービス提供をするためのリソースと位置づけられる。
2つ目は、地域経営においての顧客、これは、つきつめれば住民に対して行う事業であるから、顧客は住民となる。
3つ目は、社会的な団体としての顧客。これは、国土保全や形成といった立場から、顧客は地域資源となる。
後者ほど、地域にとって普遍的なものであり、上位概念といえるが、問題は、これらの立場が複雑に絡み合うところにある。ここに、地域での観光振興の難しさ、切れ味の悪さが在るように思う。

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