本記事は、私が事務局をしている「観光地マーケティング研究会(http://cs-t.jp )」のMLに投稿したものです。(一部、アレンジしています)
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日本では、現在、VJCにおいて12市場を設定しています。
12という市場数は、かなりの数ですが、実際に、そうしたそれぞれの市場にあわせて地域単位で、個性的な集客構成を実現できているのでしょうか。
宿泊旅行統計も12市場別に、宿泊者数の統計値を出していますので、これを使って、整理をしてみたいと思います。
手法は、主成分分析を利用しました。主成分分析とは、複数の変数を、少数の合成変数に束ねてしまう分析手法です。
対象としたのは、国籍(地域)別・都道府県別の宿泊延べ人数。
結果として、12の市場が設定されているものの、実際の、集客構成としては2つの軸(合成変数)で、全体の95%の説明が出来てしまうことが解りました。
1つは、12市場全てが一体的になった合成変数による軸。これだけで、全体の86.6%を説明できてしまいます。非常に簡単に言えば、個別の国籍(地域) の比率の違いに注目せず、全体の外国人宿泊延べ人数のみで86.6%は説明可能という事になります。なお、この軸での最高得点は、当然ながら、東京都で、 6.1点。以下、大阪(1.6点)、北海道(1.2点)となります。
もう1つは、「香港・台湾・シンガポール」と「アメリカ・カナダ・イギリス・ドイツ・フランス」がトレードオフ、すなわち、「香港などが多いかわりに、アメリカなど欧米系が低い」か「アメリカなど欧米系が高いかわりに、香港などが低い」という軸。これが、全体に対して、8.5%の説明力を持っています。分析結果では、得点は香港系が強いとプラス、欧米系が強いとマイナスとなりますが、プラスで高いのは北海道(6.1点)、大阪(1.4点)、沖縄(0.3 点)などとなっています。一方、マイナスで高いのは東京(−1.7点)、京都(−1.4点)、広島(−0.5点)などとなっています。
この結果を総合すると、いろいろな事が言えます。
例えば、東京は、絶対的な外国人宿泊客数でダントツで、(香港系に弱いが)欧米系に強い。北海道は絶対的な外国人観光客数は東京都の差があるが、東京が弱い香港系が強い(逆に欧米系は弱い)。大阪も北海道と似た位置づけにある。などと、集客構成の傾向を相対的に比較することが出来ます。
次に、12市場にわけているが、現在の集客構成で見れば、「香港・台湾・シンガポール」は一つのグループを構成している。また、「アメリカ・カナダ・イギリス・ドイツ・フランス」も1つのグループを構成している。よって、それらの国は、セットで考えるべきだろう。(同時に、指標としては、「全数」と「香港系」「欧米系」の3つだけ抑えておけば良い)
さらに、両グループは、二者択一になる場合もある。などということも言えるでしょう。
さらに、全体の86.6%が、全体の集客数という1つの軸で説明が出来てしまうということは、まだまだ、都道府県レベルでは、集客構成がユニークな状態にはなっておらず、東京を頂点に日本という国で一つのディスティネーションになっている傾向が強いということも言えます。これは、日本という単位でマーケティングを実施する必要性を提示するとともに、全国が同じような集客構成になっているために、有事の際には、全体がこけてしまうという危険性も示している。と言えるかもしれません。
ただ、第2軸でプラスになっているのは、前述した以外に、福岡(0.28点)、千葉(0.23点)、長崎(0.22点)、山梨(0.22点)というように、地勢的に香港系に近いところだけでなく、早くから、それらの市場からの誘致に積極的に取り組んだ(北海道や山梨)地域が多いことがわかります。こうした地域は、東京という看板に頼らずに、比較的ユニークな集客構成を実現しているといえます。今後、第3軸、第4軸が強まってくると、日本としては、一種のインバウンド・ポートフォリオが確立できるかもしれません。
今回は、都道府県レベルで行いましたので、個別市町村や観光地における集客構成のユニークさは出てきません。(例えば、ニセコ:倶知安町のオーストラリア人などは見えない)
そうした分析の限界は、昨日の投稿(集客の国際化と地域の国際化の関係)と同様です。
私がお伝えしたいのは、数値情報と統計を活用することで、データの洪水に流されるのではなく、物事を単純化し、本質的な部分について考えやすくなるということです。もちろん、考えるのは「人間」です。ただ、その「考える」資料には、「正確で整理された情報」が必要だと思うのです。

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