かつて、我が国には、「ワープロ専用機」なるものが存在していた。おそらくは、40代以上の人たちなら、よく知っていることであろう。
このワープロ専用機。90年代の半ばくらいまでは、パソコンなどよりも普及しているもので、私など「なんで、汎用機であるパソコンを使わないのだろう」と不思議に思っていた。
そのワープロ専用機。当初は、その名前が示すように、ワープロのみの機能を備え、その性能アップ、機能アップが続けられていた。Windows3.1が出てくるようになると、それに対抗するように、例えば、住所録DBをそなえて、はがきに印刷できるようになったり、お絵かき機能などを備えていったりするようになり、パソコンへの対抗が進められた。
が、結局、Windows95の登場によって、死滅することとなった。
そのWindows95は、それまでの3バージョンは決して、成功しているOSではなかった。IBMのOS2や、MAC-OSもそれなりのシェアをもっていたし、前身とも言えるDOSもまだ広く使われていた。
しかしながら、Windows95になり、爆発的な普及を見せた。これが、今日のMSの成功を決定づけている。
この背景には、前バージョンの3.0、3.1において、他のOSよりも、オープンであり、それによって、多くのファンや関係者を擁していたことがある。
こうした流れは、いくつかの示唆を与えてくれるだろう。
特に重要な事は、「囲い込み」は重要だが、それには順序と、やり方があるということだ。
当時のワープロ専用機は、その入力方式は各社オリジナルであり、その文書フォーマットも各社異なっていた。場合によっては、同じ会社であっても、文書のやり取りがまともに出来ないという事もあった。さらに、専用機であるが故に、他社が追加パッケージなどを出す事も難しい。
これは、顧客を他社にスイッチさせないということと、顧客が行う本製品関連の消費を全て管理することに繋がる。しかしながら、それは、新規購買者の急速な増大には繋がりにくい。なぜなら、その製品の情報が、そのメーカーと、顧客以外からは出てこないためである。企業レベルでは、他社は「囲い込まれた」製品には参入余地が無いから無視、もしくは、敵対することになるし、消費者レベルでは、「そのメーカーのその製品が提供する価値」に興味がある人しか感心をもたないためだ。
これに対し、MSは、3.0、3.1において、多くのプログラム開発パッケージを開発、プログラマーのコミュニティに安価に提供し、そのOSを、他社や多くの技術者に開放した。さらに、そのOSを搭載するハードウェアの製造もオープンにすることで、世界中のメーカーが参加できるようにした。
こうなると、そのプラットフォームが魅力的なものでありさえすれば、多くの「企業」がここに参加してくることになる。そこからは、様々な価値が創造されていく。そして、それらの価値に対応した様々な顧客がひきよせられてくるようになる。
このパワーは、自社で独自開発していく比ではない。
囲い込みを行うというのは、無理矢理、スイッチングバリアをつくって行うのではなく、むしろ、スイッチする必要が無いくらいに標準となり、かつ、多様な価値に対応できるような仕組みにしてしまうことが有効だということだ。
こうした取り組みを、一つの資本、企業が行う事は難しい。なぜなら、多大な費用と、多様性を担保することと標準性をもつことを両立することは非常に困難なとりくみであるからだ。現状で、それが出来ているのは、ディズニーくらいだろう。
一方で、プラットフォームを構築することも容易ではないが、小さく産んで大きく育てることが可能なアプローチであるため、まだ、多くの企業にとってチャンスであろう。
であれば、観光面でも、こうした取り組みを適用することは出来ないだろうか。

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