先日、ある温泉地に出張で訪れ、現地の方と意見交換する機会がありました。
その際、相手から「地域の多様な人たちが、ちょっとずつ、恩恵を享受できるような地域を目指したい」といった趣旨の発言がありました。
地域づくりという視点から考えると、ごく普通の考え方でもあり、昨今の地域経済の状況から目指すべき方向と言えますが、ふと、それは、具体的にはどんな感じなのだろうと思いました。
1人の雇用(フルタイム)を、いわゆる平均給与(年収400万円強)で実現するためには、就業日1日あたりで3~5万円くらいの売り上げが必要になります。
これは、分野別の消費単価が高い宿泊施設か、団体客などを安定的かつ多量に受け入れるような施設でないと達成は困難です。
実際問題として、本業界の給与水準が、他業界に比して低めになっていることは、以前、お知らせしたとおりです。
さらに、「人」という経営上のリスク要因を排する方向が、各所で見えています。
http://www.resort-jp.com/ppBlog17/index.php?UID=1270476776
企業側の人件費圧縮は、企業の立場では合理的な判断ですが、地域での「雇用」という視点で見れば喜ばしいことではありません。
ただ、一方で、タスクあたりの人件費単価が低減する傾向は観光産業に限らず、幅広い産業で生じている現象です。
すなわち、観光産業だけの取り組みで、こうした流れ、方向性を変えることは難しい。
むしろ、もともと人件費平均が安価な観光産業においては、低下圧力が他産業よりも強く出てくる事が懸念されます。
こうした状態をふまえ、それでも「地域の多様な人たちが、ちょっとずつ、恩恵を享受できるような地域を目指したい」するためには、どうすれば良いのでしょうか。
私は、ふと、Hリゾートが実践している「多能工」の取り組みが参考になるのでは無いかと思いました。
私は、この多能工の取り組みは、単体の事業者が行う取り組みとしては、問題も多い取り組みだと思っています。
http://www.resort-jp.com/ppBlog17/index.php?UID=1265754660
しかしながら、この考え方、取り組みを、地域という単位で考えることは出来るのではないかと。
仮に400万円の年収確保を目指す場合、地域において複数の「職」につき、100万円+100万円+200万円というように、複数の職から収入を確保するイメージです。
複職の組み合わせ方は、1日の中での分散(例:朝・昼・夕)、曜日による分散、または、季節による分散など、いろいろ考えられると思います。
その中の一翼を、観光産業が担うイメージです。これだと、既存の収入に「追加的な収入」が加わることになります。
現状でも、客室清掃や厨房などは、(農業など他の収入のある)地域の人達が兼業している場合も少なくありません。専業主婦のパートも、世帯レベルで考えれば、同様でしょう。
また、1企業内の多能工化ではなく、地域内での多能工とすることで、従業員の立場から言えば、自分の意志で複数の職を選択、安定性と収益性を組み合わせることが出来ますし、企業側も、高度な多能工に過度に依存する必要が無くなります。
端的に言えば、複職ですね。考えて見ると、農業などは、第2種兼業農家が一般的となっています。これは、農業を続ける意志はあるものの、農業だけでは十分な収益が得られない、安定的な収益とならないという背景があるとされています。
もしかしたら、「1つの職のみで、安定的で、かつ、十分な収入を得る」というのは、年功序列・終身雇用と同様に、高度成長期の社会が生み出した「常識」なのかもしれないなぁと。
ただ、現状、フリーターに代表されるように、主軸となる安定的な職が無いと、様々な点で社会的に不安定ですし、副業禁止規定を設定している企業も少なくありません。企業側のモラルが低ければ、良いように使われてしまう場合もあるでしょう。さらに、より現実的な問題として、地域内で、そうした「複職」を確保できるのかという問題もあるでしょう。
なので、そう簡単な話ではないと思いますが。意外に、こういう地域レベルでのワークシェアのような共同体づくりが、昨今の社会経済環境においては必要なのかも知れません。

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