次に視察させていただいたのが「ウェルダネス・ロッジ」である。
http://disneyworld.disney.go.com/resorts/wilderness-lodge-resort/
グランド・フロディアンやコンテンポラリー、アニマルキングダム・ロッジなどと同じデラックスクラスのホテルである。
ディズニーのデラックスクラスのホテルは、600〜800室程度が一般的なサイズで、強烈なテーマを持った一棟型の建物形状となっていることが多い。
もっとも、アニマルキングダム・ロッジは倍の1,600室以上だし、フラッグシップであるグランド・フロディアンは分棟型であるから、この法則は絶対では無い。ただ、分棟型であっても、動線が、ホテルロビーを介した設計となっている事は変わりない。
バリュークラスとなるオールスターは5,800室、ポップセンチュリーは2,800室と室数が群を抜いており、かつ、細かく分棟されていて、自動車にて直接、それぞれの宿泊棟にアクセスできることを考えれば、その形態の違いは、明確だ。
ホテルロビーに動線が集中する、すなわち、ホテルに入るときも出るときもホテルロビーを使うことになるという設計は、テーマパークの造りと共通項が多い。多量の人が集まる施設の場合、出入り口を分散させた方が、本来は効率が良い。実際、ディズニーランド以前の遊園地は、各所に出入り口が用意されていることが一般的であった。現在でも野球場やサッカースタジアムなどを想定してみれば、解りやすいだろう。
ただ、敢えて、出入り口をしぼり込む事で、その空間、テーマパークに入ったと言う事を、様々に感じさせる、心理的にリセットさせることが可能となる。
ホテルでも同様である。ホテルロビーを作り込んだ上で、ホテルロビーに出入り口を集中させることで、ロビーを場面展開の場として、心理的なリセット効果を与えることが可能となるのである。
このウェルダネス・ロッジのロビーは、その典型例だ。
まず、ホテルの敷地に入ると、「植生」が変わる。私は、植物についての知識はほとんど無いが、明らかに通常のフロリダの植生とは異なり、高山系の雰囲気が漂う。ウェルダネス・ロッジは、イエローストーン国立公園にある「オールド・ファイスフル・イン」をモデルとしている。そうした雰囲気を、植生からも表現しているのである。

昨日投稿した、ツリーハウスでも書いたが、建物に着く前から、植栽を含む周辺環境の作り込みでジワジワと雰囲気を高めていく仕掛けをしているわけだ。
そして、ホテルに着くと、そこにはスモークされた二重の自動ドアが設置されている。エントランス部分のドアを二重化することは、外気が室内に過剰に入り込まないように、よく使われる手法(回転ドアの方が有効だが、危険性もある)であるが、おそらくは、そうした実用面だけでなく、外部から、内部への場面展開効果を狙っているのだと思う。
その暗めのエントランスを抜けると、6層吹き抜けという広大なロビーが現れる。あまりに広くて、うまく写真に収められなかったが、以下の写真で、雰囲気は伝わるのではないだろうか。狭めで暗めのエントランスから、こうした広大なロビーへと抜けることで、場面展開効果は強烈なものとなる。

さらに、そうした広大さに慣れてきてから、個々のディティールに目が向くようになると、随所に自然木(倒木を使ったとのこと)を使った柱(上図)、トーテムポール、または、暖炉といったものが配置されており、細かい部分もテーマ性を強調する形で作り込まれていることが解る。
例えば、暖炉は、グランドキャニオンの地層を表しているという懲りようである。

ロビーの奥には、泉があり、そこから川が流れ出している。その川はロビーから屋外へと通じ、せせらぎとなり、ホテルのメインプール方面へと流れていく。周囲の植栽は、山岳系のものとなっており、小鳥まで飛んでいる(写真中央、赤いのが鳥)。

こうした川の処理は、単に潤いをもたらすだけでなく、ホテル施設に立体的な動きを与えることにもなっている。フロリダは基本的にフラットであり、起伏に乏しい。大学の先生方の中には「山が見たい」という理由だけで、旅行をする人も少なくないくらいだ。
そうした起伏に乏しい地形の中で、山岳系のホテルを造るという矛盾を、この川の処理によって、解消しているわけだ。

実際には、たいしたレベル差ではないのだが、ロビーからプール方面を彫り込むことによって、まるで、ホテルが山岳の傾斜地に建っているかのような立体感が生まれている。いやはや、なんとも。
もっとも、そうした雰囲気をもったホテルであるため、プールは、ごく普通。子供には、物足りないかもしれない。
ただ、(私は見ることが出来なかったが)このプールの向こう側には、間欠泉が再現した設備が用意されており、プールサイドから、それを眺めることが出来るようになっていて、ココでしか出来ない体験を演出している。

室内は、ツリーハウス同様に、ウッドフレームを多用した造り。色合いは重厚感あるもので、その分、暗めでもある。
この辺は、好みだろう。

なお、このウェルダネス・ロッジは、アニマルキングダム・ロッジの設計者と同じ人らしい。実際、ロビーの作り方や、全体のデザイン・配色に共通項も多い。同じデラックスクラスではあるが、ホテルそのもののグレード感でいうと、こちらのウェルダネス・ロッジの方が高く感じる。ただ、アニマルキングダム・ロッジも、まさに、「ここ」でしか体験できないホテルであるし、動物が見れる、プールの造りなどから、より子供連れ家族に好適といえるだろう。
ディズニーのホテルは、各々に、かなり強烈な個性を持っているため、客を選ぶ傾向にある。例えば、フラッグシップのグランド・フロディアンは、最高級ではあるが、テーマは、古き良きアメリカであるため、日本人は、少々、違和感というか落ち着き感の無い印象を持つかもしれない。ディズニーのホテルを選ぶ場合には、単に価格で見るのではなく、そうしたテーマ性との相性も考える必要があるのではないだろうか。
そんな事を考えさせられた視察であった。

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