機中メモの第2弾です。
ビーチリゾートの構成要素
ハワイのリゾート開発を見ての感想を整理する前に、ビーチリゾートの構成要素について整理したい。
ビーチリゾートには、様々な施設が立地している。しかしながら、需要側の立場から、この中で必須といえる施設は、ホテル、レストラン、そしてプールの3点であろう。
付加的な施設(あったらより好ましいと思われるもの)は、モール、ゴルフ場、コンドミニアムなどが挙げられる。モールには、リゾートならではの買い物や飲食が楽しめるタイプとは別に、ローカルの食材などが入手できるスーパーマーケットなどがあればより、長期滞在に適したものとなろう。
一方、供給者側の立場から考えると、必須施設については、適地さえあれば、つくることは自体はそう難しいことではない。ただし、問題となるのは規模である。
規模が小さいと、よほどとんがった施設でなければ、情報の渦の中に埋もれてしまうため、人々を集めることは難しい。
一方、規模を大きくすると言うことは、それだけ多様な人々を集めなければならないことを意味している。そうなると、各種の付帯施設(付加的な施設)も整備していかなければならない。
ただ、これは投資額を増大させ事業者のリスクを高めることになる。また、一つの事業者が巨大なホテルを運営することも、需要が細分化され、変化も激しい現状ではリスクを高める要因となる。
地域側の視点ではどうか。大規模なリゾートが立地してくれる事は各種の波及効果を期待できるが、その事業者が経営不振になってしまえば逆に大きな負担を背負わされることになる。とはいえ、中小の事業者では、効果も限られ、また、乱開発などを招きやすい。
さて、ハワイの話をしよう。
プリンスビルリゾートやオアフ島のタートルベイリゾートは、一社による総合的な開発である。ホテル、プールはもちろん、ゴルフ場からコンドミニアムなど多様な施設を持つ。プリンスビルリゾートにいたっては単体でショッピングモールも有している。これらは投資額も巨大であり、何十年計画で進められ、途中でオーナーが変わることも珍しくない。
これに対し、マウイ島のワイレアや○○は、複数の事業者の複合体である。複合体といっても、それぞれは独立的に動いており、その上で、全体で一つのまとまりを持っている。
この手法の場合、需要側の立場であれば、「様々な付帯施設やサービスを利用できる」、事業者であれば「投資規模を限定できるから事業リスクを軽減できる」、地域側では「迅速で計画的な開発、さらに、多大な波及効果を得られる」という3方ともにハッピーとなる。
マーケティング的に言っても、ホテル5軒がバラバラに点在しているよりも、並んで立っている方が「集中」の力を発揮できるから、地域の特性が強く打ち出せ、効果的である。
この手の手法は、米国でも新しい手法であるが、形になってから20年は経っている。ではなぜ、15年前の日本では出来なかったのか…。
ここからは私の憶測を交えたものとなるが、いくつか指摘してみよう。
1.マスタープランを描く主体が無かった
複数のホテル群を効果的に立地させ、各種施設を組み合わせるには、そのベースとなるマスタープラン�が不可欠である。
しかしながら、ホテルレベルのプランを描けても、地区レベルのマスタープランを描ける主体が無かった。
2.囲い込みを志向した
80年代後半から90年代前半において、リゾート事業は「儲かる」商売と認識されていた。そのため、適地は出来るだけ独占的に支配したかった。`これは、リゾートとは関係の無い(経験、ノウハウを持たない)企業であるにかかわらず、事業の運営委託などを志向しなかった事からも類推できる。(最も、当時は運営を委託する、すなわち所有と経営の分離といった仕組みはほとんど出来ていなかったが)
3.市町村界の関係
(複合事業者による)集中的な開発を阻んだもう一つの理由が、「地域バランス」といった思想であったように思う。リゾート法に基づく各道府県の計画をみると、非常に広い範囲が設定されており、さらに、核となる重点整備地区も広域になっていることが多い。`これは、リゾート開発を「地域振興」の柱と考えた地方側が、「平等」に指定を受けることを望んだ結果であろう。`そのため、事業者も各市町村レベルとの対応を図り、整備計画が分散してしまった。`例えば、宮古島。ここには4市町あり、大規模なホテルは3つある。そして、その3つのホテルは3市町に分散している。もともと、リゾートブームの前から、下地町には前浜ビーチという長い白砂浜に面して、東急リゾートが立地していた。マウイ的に、この前浜エリアに集中的な投資を行っていれば、宮古島の印象は大きく異なったものとなっていたろう。
4.リゾートの全体像がイメージできていなかった
リゾートといっても千差万別である。例えば、同じハワイでもプリンスビルリゾートとワイレアは違うし、アメリカ本土でもアスペンとベイルは違う。それぞれ違ったモデルで組み立てられており、それらを支える周辺産業の裾野も広い。(例えば、ファイナンス、運営受託企業の存在、数値的なデータなど)
そうした事を理解する前に、表面的な事象だけを持ってきて、組み合わせてしまったのではないだろうか。
リゾート視察をすると、素直に「すばらしい」と思う。そして、元開発屋としては、「こんなのをつくってみたい」と思う。おそらくは、15年前に視察をした人々も同じ思いであったろう。ただ、なぜ、こういう空間が出来るのか、そこには何が流れているのか、を考えていくと、日本で行うことは課題ばかりであることに気づく。
その上で、日本でリゾートをつくっていくとしたら、何を大切にしなければならないのか。これは、今後のためにも教訓として整理しておくべき事だろう。
これは、自分のテーマとして、今後とも整理を続けていきたいが、現時点で言うのであれば、
・需要者の視点を持つ、すなわちマーケティング志向を持つ
・出来るだけマクロ的な視点で考える`の2点だろう。これは、リゾートに限らず、観光全般の基本ではないか。