今日から、山口大学の先生と学生さんがUCFおよびフロリダの観光産業視察に来訪されます。
滞在期間は10日ほど。私も彼らの視察に同行して、ヒアリングをしてくる予定です。
さて、現在、ブランドマネジメントの講義をとっているのだが、出てくる言葉が、非常にCS分野に近いことに、今更ながら驚いている。
ブランドは、単純な質の話ではなく、精神的な相互作用が重要な領域であるが、米国では、それを科学的な視点から整理し、その効率的、効果的な創造方法が研究されている。そして、そのアプローチ手法が、今日のCSもそれに非常に近いということである。
例えば、CSでもブランドマネジメントでも、「期待感」は大きな要素である。さらに、ロイヤリティとブランドでは「信頼感」が共通要素としてあがってくる。ブランドは、その消費を行っている本人以外にも影響度をもっているが、これも、ロイヤリティの1つであるAttitudinal Loyaltyで生じるレコメンド、口コミと密接な関係があるといった事があげられるだろう。
この辺の詳細については、いずれ整理していきたいと思うが、消費者の立場からみても、米国は「ブランド」をうまく使っているなぁという印象がある。
例えば、マリオット。
マリオットは、リッツカールトンに代表される世界でもトップクラスに位置するラグジュアリーレベルから、一泊、一室、1万円以下が当たり前といった格安ホテルまでを、そのグループの中に有している。
http://en.wikipedia.org/wiki/Marriott_International
それぞれのサブ・ブランドの詳細は、上述のWIKIからたどってもらえればわかるが、マリオットの冠がついたブランドは、フラッグシップであるマリオットを頂点に、わかりやすい階層構造を有している。(ただし、リッツカールトンのように、独立性の高い外様ブランドは、マリオットの冠はかぶせていない。)
階層構造がはっきりしているということは、顧客は、その階層構造を理解してしまえば、それぞれのクラスやカテゴリを自然と理解できるということである。
ホテルのようなサービス商品と、自動車のような製品との違いの一つに「生産と消費が同時」「触れることが出来ない」といったことがある。つまり、サービスは「使ってみないとどんなものだかわからない」のだ。これは、人によって期待値を大きくぶれさせる原因となる。そして、そうした期待値のぶれは、CSやブランド形成に大きな影響を及ぼすことになる。
しかしながら、あらかじめ、クラス、カテゴリがブランドと結びついて明確になっていれば、その時点で、顧客の期待値は収束することになるだろう。マリオットで言えば、コートヤードに泊まる顧客が、JWマリオット並のサービスを期待してくることは「あり得ない」ということだ。
では、クラス、カテゴリが明確に示すことさえ出来れば、マリオットという名前などいらないのではないか?という話も出てくるが、ここでは、上位の「マリオット」というブランドがもたらすイメージ、具体的には「信頼感」が意味をもってくる。
コートヤードにByMarriottとつくことで、上位ブランドの「威光」が活用できることになり、同クラスの他ホテルよりも上位に立つことが出来るのである。
さらに、一般的に若年層は所得が低く、マリオットを使うことは難しいが、下位のブランドのホテルなら可能である。そして、その経験を通じて、マリオット・グループへのロイヤリティを高めていくことが出来れば、グループとして、その顧客の所得が増大しクラスアップしたとしても、その顧客を維持していくことにつながる。(参考:Ian Phau, Edith Cheong, 2009)
これに対し、日本のホテルは、名称とクラス、カテゴリが合致しないことが少なくない。
例えば、かつての全日空ホテルズ。ANAホテルとして、国際的な展開も行ったホテルチェーンであるが、2006年にインターコンチネンタルホテルズとの提携が決まり、それをもとに、ホテルのリブランドを実施している。そのリブランド後の名称をみてもらうとわかるのだが、かつては基本的に「全日空ホテル」として1つのブランドであったものが、インターコンチネンタル、クラウンプラザ、そして全日空ホテルの3ブランドに細分化されている。
このことは、同じブランドの中に、インターコンチネンタルクラスからクラウンプラザクラス(およびそれ以下のクラス)が、混在していた事を示す好例だろう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%A8%E6%97%A5%E7%A9%BA%E3%83%9B%E3%83%86%E3%83%AB%E3%82%BA
同様のことは、プリンスホテルの再編後のリブランド(売却先でのリブランドを含む)でも、みることができる。
これでは、顧客側から、そのブランドに対して、信頼感やコミットメントを得ることは難しい。
なぜなら、例えば、自動車のクラウンに乗った人が、その品質に満足して、次もクラウンを買ってみたところ、名称はクラウンだが、中身はカローラであったり、エスティマであったりするのと同じだからだ。
ただ、それでも、ホテルの場合、その名称に、立地や、建物形状、料金水準などを加味して考えれば、顧客側がそのクラス、カテゴリをそれなりに認識できる可能性は高い。
これに対し、「旅館」は非常に難しい。それこそ、変数がありすぎて、外形的な情報だけでは、その中身がさっぱりわからないのが実情だろう。
そもそも、旅館の場合、クラスとかカテゴリという概念自体が非常に希薄である。さらに、人的サービスが作り出す価値が、ホテルより多い傾向にあるため、同じ建物、設備でも、人的サービスの内容が変化すると、その「宿泊経験」の中身は大きく変化する。
そのため、顧客や旅行代理店(特に海外)などからみると、その「価格」が高いのか、安いのかが判断できない…ということになる。そうなると、彼らは、リスクを回避するために、価格下落圧力を高めることになる。
このように価格と質との対応が不安定である事は、ホテル、旅館別に価格による満足度をみてみると明示できる。ホテルの場合、価格が変動しても満足度は安定的であるのに対し、旅館の場合は、価格によって満足度が変動しやすいのである。(参考:JTB宿泊白書)
ただし、ブランドマネジメントの観点から言えば、コモディティ的な製品、サービスでは、価格が主要な価値基準となるため、「安価であること」を主軸においた展開は、下位クラスにおいては、有効な取り組みではある。
例えば、日本では現在、「伊東園」「おおるり」「大江戸温泉物語」「湯快リゾート」などの安価なチェーンが出てきているが、これらは、基本的に、経営が困難になった旅館を引き取り、そこに統一的なオペレーションを導入することで、安価な宿泊料金を実現している。しかしながら、その引き取り対象の旅館は、かつては「高級」で売ったような施設から、ロケーションの非常に悪い施設まで、千差万別であるため、同じチェーンでありながら、対価格でみた経験価値は施設によって異なることになる。実際、2chなどでの書き込みをみていると、その評価は施設によって、大きな混乱がみられる。
チェーンとしての統一性を考えれば、本来なら、こうした混乱は、回避すべきだろうが、それでも、多くの人が集まっている事実を考えれば、絶対的な価格競争力を持つことで、派生する問題を解決してしまっているのだと考えられる。一企業の選択としては、これもあるだろう。
ただ、業界というか、旅館市場全体で考えると、こうした新興チェーンの存在は、旅館のクラスやカテゴリといったものをさらに、わかりにくくすることになろう。「目に見える」要素である立地や設備といったものがクラスレスの状態になってしまうからだ。
先ほどの車の例で言えば、クラウン、カローラ、エスティアは、それらを見れば、大きさも形も違うことが解る。そして、そこから価格や自動車としての特性、質を類推することが可能である。しかしながら、外見はクラウンだが、中身のエンジンやサスペンション、設備などはカローラクラスのような車が多く出てくるようになると、大きさや形が、車の価格や特性、質を表す指標ではなくなってしまう。これは、おそらく、それぞれの車の位置づけを曖昧な物にし、価格のみが評価されるような状態を招くだろう。これは、顧客にとって「値下げ」という形の恩恵をもたらすが、一方で、個別のニーズに対応するために、細分化されてきた自動車のクラスや、カテゴリも崩壊するため、自分の趣向になった自動車を選ぶことも出来なくなっていくだろう。
高付加価値を提供する旅館が、その価値をどのように、顧客に理解してもらうのか。難しい問題ですねぇ。