私の居るUCFローゼンカレッジの隣には「ローゼンシングルクリーク」というホテルが立地している。
このホテルは、単なるホテルではなく、「コンベンションホテル」と称されるホテルである。
これは、「非常に大きなコンベンションセンター」を備えたホテルであり、ゴルフ場を備えたホテルであり、1,500室を超える大型ホテルでもある。

Home


本日、山口大学の一行と共に、1年ぶりに訪れてみたのだが、あいかわらず、そのスケール感には圧倒された。
さらに、このホテルは、昨年来の経済危機以降も「1人も従業員を首にしていない」。
稼働率はさすがに落ちているが、それでも、やっていけているのは、「現金で建てたこと」「投資額を徹底的に圧縮したこと」の2つがある。
開設は2006年9月。まだまだ、アメリカ経済は絶好調のころである。その際、ローゼン氏は、当時、当たり前であった「借り入れ」を行わず、自らの自己資金にて開発を行っている。これによって、財務において金利負担がなくなり、非常に軽くなっている。
さらに、自己資金での開発を実現するために、自らコンストラクションマネジメントを行い、徹底的にコスト削減を行った。ただ、安普請にはなっていない。高価な部材を使っているわけではないが、安っぽくない。絶妙なバランスを実現している。
これにより、近くにはリッツカールトンおよびJWマリオットが、あわせて1,000室程度の同様のホテルを展開しているのだが、ここの投資額(600億円)の約半額に押さえ込むことに成功した。
結果、他のホテルに対し、圧倒的な財務上の優位性をもつことになった。
そして、そのことを、周辺のホテルもしっている。
ローゼンは、オーランドのローカル資本である。ローカル資本の弱さは、「そこで収益をあげられないと死んでしまう」ということだ。これに対し、チェーン展開しているホテルは、その地域で収益をあげられなくても、他の地域で収益を上げられれば、全体としてやっていける。よって、マリオットなどのグローバルチェーンからすれば、意図的に「価格競争」をしかけることで、ローカル資本の体力を奪い、退場させることもできるのだ。
しかしながら、ローゼンの財務が非常に軽いことが周知されていれば、価格競争をしかけることは、自身も多大な出血を強いられることになることが自明となる。となれば、チェーンホテルだからこそ無駄な消耗戦に立ち入らず、その他の要素(差別化など)に取り組むことになる。これは、ローゼンの財務をさらに軽くすることに繋がる。
財務状況は全く異なるが、「不毛な価格競争」を回避した例が日本にもある。
ソフトバンクである。ソフトバンクは、他者の料金プランと比較できるプランをつくり、かつ、他者がそのプランを値下げした場合には、すぐに、それ以上の値下げをすることを保証した。
他者、特にドコモは、財務上、ソフトバンクよりもかなり裕福な状態にあり、シェアも大きい。よって、ドコモとしては、その気になれば、価格競争に突入し、ソフトバンクを破綻させることも可能だろう。しかしながら、ソフトバンクが「保証」を公言してしまうと、ドコモとしては、多大な出血を覚悟しなければならなくなる。つまり、ソフトバンクは、本来、自身の弱点である「財務」を、先に公言してしまうことで、争点にしないようにしてしまったのである。
ローゼンシングルクリークは、その規模は巨大で、「バブルの塔」という印象をうけるが、巨大であろうと、複合施設であろうと、結局は裏付けとなる経営力さえあれば、競争力を持てるのだという好例であろう。

Share