Discussion of Destination Branding.

オーランド181日目 〜旅行会社の取扱高を考えて見る

私が事務局を行っている「観光地マーケティング研究会」のMLにて、「今年は旅行会社が大変なことになっている」という話がありました。
私の知人からも、「今年はどうしようもない」という話が伝わってきます。
でも、「どのように大変なのか」というところは、全体の平均値を見ていても解らない。というのが、米国にて学んだ教訓(笑)ですので、もう少し、深掘りを行ってみました。
データは、観光庁が毎月発表している「主要旅行業者の旅行取り扱い状況速報」を使います。
対象とする事業者は、同速報に掲載の主要62社。対象期間は2008年7月〜2009年9月の15ヶ月間。

概況

旅行業者の取扱額は、2008年の夏頃から微減し初め、年末からガクンと急降下。その後、横ばいに転じたものの、5月以降に再度、急降下し、回復できないまま夏を迎えたものの9月には、前年同月並の水準に戻ってきているという状態にあります。
なお、こうした動きは、海外旅行も、国内旅行も同様ではありますが、海外旅行の方が極端な動きとなっています。
具体的には、この15ヶ月の間の月別増減率平均は、海外旅行が−18%(標準偏差:0.13)、国内旅行は-7%(標準偏差:0.06)と、海外旅行の方が、倍以上大きく落ち込み、かつ、その変動幅も大きくなっています。(例:2009年6月は海外旅行44%減に対し、国内旅行は15%減)

仮説

需要の全体量の推移でみれば、この1年は、大変厳しい状態にあったことが伺えますが、JTBも14社に分社化しているように、旅行会社は、特徴をもった経営が行われるようなっています。そのことは、こうした厳しい状況においても、異なった業績という形で、違いをみせるのではないでしょうか。つまり、全体平均が下がったといっても、その中で、強いところ、弱いところがでているのではないでしょうか。
特にネットが対応してきていることから、ネット部門は、厳しい状況のなかで検討しているのではないでしょうか。

検証方法

株価の推移について、各銘柄の値動きと株価全体の平均値動きとの関係をみる「β値」という考え方を利用し、全体平均に対する各社のβ値を算出します。β値とは、株価の全体平均が10%変化したときに、個別の株価がどれくらい変化するのかを指標化したものであり、β値が0.5ということは、5%変化する、β値が2の場合には20%変化するということを示します。これに、統計的な有意性(β値は、中身は単回帰)を加味しながら、各旅行会社と全体平均傾向との違いを検証します。
ただ、旅行業は、季節波動の激しい業種であることから、「対前月」「対前年同月」の2つの視点から整理を行いました。
対前年同月は、季節波動を廃し、年単位での需要変化との関係。対前月では、季節波動(旅行シーズンになったとき、オフ期になったとき、突発的な阻害要因が発生したときなど)の動き方がわかるものと考えています。

検証結果 〜海外旅行部門

シェアが高めの旅行会社の中で、最もβ値が高かったのは、JTBワールドバケーション(対象期シェア:10%/対象としている15ヶ月の月別シェアの平均値。以下、同じ)で対前月で1.8、対前年同月で1.0。この他、JTB系は、JTB首都圏(対象期シェア:6%)が、対前月1.4、対前年同月が1.1、JTBトラベランドが対前月1.7、対前年同月1.0と、対前年同月のβ値が1を少し上まわる結果となっています。
次いで、HIS(対象期シェア:12%)は、対前月では1.5、対前年同月では0.9。
そして、これらの会社(HISを含む)は、2007年から08年にかけても、対前月のβ値が大きめとなっています。
対前月のβ値が高いということは、月別の需要変化の変わり目に、それだけ強く両者が反応しているということを示していまが、2007年から08年にかけても、β値が高かったことを考えれば、昨年来の需要低下によって変動するようになったということではなく、もともと、通年を通したオンとオフの強弱がはっきりしている会社であると言えます。その上で、HISの対前年同月が1を切っていると言うことは、対前年同月平均ほどは減少していないことを示していますから、健闘していると言えるでしょう。一方で、JTB系は1強という水準ですから、オンオフに応じた月別の振れ幅が大きいものの、結果としては、全体平均と同様の減少傾向にあることを示しています。
対照的なのは、近畿日本ツーリスト(対象期シェア:7%)で、こちらは、対前月も対前年同月も1.0となっています。つまり、季節波動の推移も含め、全体平均に即した動きとなっています。また、日本旅行(対象期シェア:5%)も、近畿日本ツーリストとほぼ、同じ動きとなっています。これら2社は、主要旅行会社全体の動きを示す「平均的な旅行会社」と呼べるかも知れません。
なお、β値はその算出構造上、シェアの大きいところは、高くなっても不思議ではありませんが、対象期シェアが9%の阪急交通社は、対前月で0.2、対前年同月で0.3と低めであり、統計的にも有意性がない結果となりました。これは、市場が大きく減少するという平均値の動きだけでなく、季節波動の動きとも相関が低い、つまりは、独自の動きを示しています。結果として、今対象期において、同社は、毎月、統計的に見て0.4%ほど、シェアをアップさせており、例えば、08年8月には6%程度であったシェアを、09年8月には10%程度にまで高めています。なお、今対象期に有意にシェアをアップさせたのは、この他にはクラブツーリズム(今対象期シェア:2%)のみです。
「阪急交通社」は、昨年来の厳しい市場環境の中で、独自のポジションを築き検討してきていることが伺えます。
意外だったのは「I.JTB(対象期シェア:1%未満)」。これは、ネットに特化したJTB系列の旅行会社ですが、対前月で3.0、対前年同月で2.1と、非常に高いβ値になっています。ネットを使うと言うことで、リテラシーの高いユーザーが安定的に利用するようなイメージがありましたが、この結果だけをみると、季節波動も全体平均の増減にもとても敏感なピーキーな存在であることがわかります。
一方で、団体旅行、周遊型の阪急交通社が独自のポジションをつくって、厳しい市場環境に対応していることを考えると、海外旅行に関する限り、実は、もっと素人さんを大切にしたほうがよいのかもしれません。

検証結果 〜国内旅行部門

国内旅行について見てみると、ジェイティービー(今対象期シェア:35%)、近畿日本ツーリスト(今対象期シェア:13%)は、それぞれ、対前月で約1.2、1.3、対前年同月で、1.0、1.1と、季節波動に少々強めの性向が出ている物の、海外旅行ほどではありません。ただ、対前月のβ値は、2007年から08年にかけての数値よりは減少しており、季節波動は収まる傾向にあります。
第3位となる日本旅行(今対象期シェア:12%)になると、対前月が0.8、対前年同月が1.2と、両者が逆転します。対前月のβ値は、2007年から08年にかけての数値とほぼ同じであることから、もともと、オンオフによる変動量が乏しい状態にあります。その上で、対前年同月が1.2になるということは、旅行市場全体の年単位の動きにより影響を受けやすい状態にあることを示しています。
一方、海外旅行で独自の動きを示した阪急交通社(今対象期シェア:6%)は、国内旅行部門においても独自の動きを示しており、対前月で0.6(10%有意)、対前年同月で0.4(5%有意)となっています。そして、シェアについても同様に、有意にそのシェアを伸ばしてきています。
同じように、β値が低い旅行会社としては農協観光(今対象期シェア:3%)が挙げられます。対前月では0、対前年同月でも0.5となっています。ただし、シェアは上がっていません。
また、「I.JTB(今対象期シェア:3%)」は、対前月で1.8、対前年同月で1.3と、どちらも、高めのβ値となっています。海外旅行ほどではないにしても、市場の動きに敏感に反応する存在であることがわかります。
この他、対前月の(有意であり)β値が高めなのは、郵船トラベル(2.3)、PTS(1.8)、フジトラベルサービス(1.7)など。これらの旅行会社は、季節波動や市場変動への反応が敏感な旅行会社と言えます。
また、対前年同月のβ値が高めなのは、KNTツーリスト(8.6)、JTB大阪(2.2)、東日観光(2.0)などが挙げられます。KNTツーリストや、JTB大阪などは、国内旅行が落ち込む前の2008年末くらいまでは、全体の対前年同月比平均を上回る水準で推移してきたものの、同月比平均が明らかな減少傾向に転じた2009年になると、ずずーと、平均以上に大きな減少をしてします。これらは、市場縮小の影響をもろに受けていると言えるでしょう。

まとめ

β値を元に、各旅行会社の状況を俯瞰してみましたが、思った以上に、旅行会社別の特徴が出てきたように感じています。
特に、阪急交通社の安定性は、意外でした。もちろん、阪急交通社も、対前年同月比で厳しい状況にあることにかわりありませんが、β値の低さが示すように、全体の傾向値がマイナスに転じるという逆境の中での強さが出ています。
また、I.JTBのように、ネット系の旅行会社は、HISなどよりも、需要変動にピーキーな存在であることも意外でした。本文中でも示しましたが、我々は、旅行者を勝手にリテラシーの高い人たちと思い込みすぎているのかもしれません。実は、もっと、「おまかせ」で「やすい」という従来型の旅行商品を好む人たちが実は、かなり居て、そうした人たちの需要はあまり変化しないということなのかもしれません。
海外旅行について、HISとJTBを比べると、JTBのほうが、よりピーキーな存在であることも感じました。これは、国内旅行においてJTBが、良くも悪くも「平均」であることとも対照的です。こうした傾向をみていると、需要がそれだけ変動しやすいと言うこともあるのでしょうが、何か大きな見落としがあるような印象があります。攻撃と防御が整合されていないというのか。
いずれにしても、本分析は、片手間で、さくさくとやってみたものなので、論点が定まらず、分析も浅い状態となっています。いずれ、機会を見て再整理したいと思います。

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