まとめの3では、「顧客」。つまりは、観光客、訪問客、ビジターについて考えて見ましょう。
まとめの1,2では、供給側の視点で書いてきましたが、当然ながら、需要と供給はセットの関係です。ホスピタリティ産業や地域の経営スタイルは、需要の特性とも大きな関係をもっています。こうした需要のことも考えないと、供給の事は解りません。
ここオーランドは、日本から見ると、地球の裏側になります。が、オーランドを中心に世界地図を眺めると「アメリカのメインランドと陸続き」「ニューヨークやワシントンといった大都市から1日で、自動車によるアクセスが可能」「南側には南米」「西側には、太平洋を挟んでEU」と、いわゆる「欧米」や南米の中で、ヘソのような立地であることが解ります。
もし、ウォルトが、グローバルな視点で、この地を選んだんだとすれば、その構想力には脱帽ですね。
ただ、そうは言っても、WDWの顧客の85%は、米国人です。当然ながら、圧倒的多数は、ドメスティックだということです。
なお、東京都では、外国人宿泊比率が20%に達しているので、むしろ、東京のホテルの方が国際化が進んでいるということになります。
ただ、米国人自体が、多国籍というか、多文化というか、皆が個性的なので、そうした比率以上に、「国際的」です。私自身、フロリダ州民特典の年間パスフォルダーですから、カウント上は、フロリダ州民扱いでしょう。
実際、WDWに限らず、人が集まる場所に行くと、様々な人種の人たちがあふれていますし、日本では違和感がある人たち(例:同性愛者、とっても太った人)も結構な頻度でみかけます。自動車なども、Eクラスくらいまでのベンツはバンバン走っている一方で、動いているのが不思議なくらい(実際、ハイウェイ路肩には故障車が止まっていることが多い)の古い車もバンバン走っている。こうした事をみていると、「人種」×「年齢」×「ライフステージ」×「生活習慣」×「宗教・文化」×「収入」×「性別」…というように、非常に沢山のパラメーターが存在していることがわかります。
さらに、日本と異なるのは、彼らは、そうした多様性の中で、それぞれに社会的なステータス、クラスに別れた行動規範をもっているということです。例えば、ショッピングモールは、クラスによって、客の雰囲気自体が違います。私などは、ウォルマートにも行けば、高級ブランドショップにも行きますが、これは、本来的には米国のスタイルでは「あり得ない」ことでしょう。実際、私が大学で、同僚の教授に「これからウォルマートに買い物に行く」と言ったら、露骨に変な顔をされました。
つまり、様々なパラメーターがあるだけでなく、それらのパラメーターの多くが、影響力を持つ因子として存在している訳です。
また、こうした市場環境においては「常識」というのものは通用しません。暗黙の了解というのも存在しえません。
必要な事項は明文化してきっちり示すことが必要となりますし、場合によっては、違反した場合の対応も示しておく必要があります。
例えば、年間パスフォルダー向けの特別割引が実施されるのですが、その適用店舗についての記述は以下のようになっています。
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Offer is valid only at select Walt Disney World® Resort stores. The Annual Passholder discount is not accepted at Walt Disney World® Resort Operating Participant locations, including but not limited to, China, Japan, and Morocco pavilions at World Showcase in Epcot®, Arribas Brothers, Basin, Basin White, Cirque du Soleil, Curl by Sammy Duval, Ghiradelli, House of Blues, Hoypoloi, LEGO Imagination Center, Magic Masters, Magnetron, Niki Bryan Spas, Orlando Harley Davidson Store, Planet Hollywood, Rainforest Cafe, Richard Petty Driving Experience, Rubio Balloon Arts, SD Watersports, Sosa Cigar, Starabillias, Sunglass Icon, Surrey Bike Rental, T-Rex Cafe Shop, Wyland Galleries, The Disney Store, Disney’s Character Premiere, Disney’s Character Warehouse and any other locations or kiosks that are not owned and operated by the owners of the Walt Disney World® Resort. Discount is not valid on purchases of ticket media, gift certificates, Disney gift cards, videos, DVDs and CDs, Disney Dollars, sundries, periodicals, digital and video cameras, disposable cameras, film, consumer electronics (e.g., CD players, TVs, DVD players), tobacco, alcohol, In-Park balloon vendors, Add-a-Dollar (Wildlife Conservation Fund), postage stamps, rentals (e.g. strollers, ECV, etc.), all Titleist and Cobra golf equipment, National brand fragrances, treatments and cosmetics, Personalization, Imaging and Photo Pass product, Lladro, Armani, Hummel, Swarovski Crystal, Walt Disney Classics Collection, other collectibles and select merchandise. May not be combined with any other discount, offer or promotion. Not valid on previous purchases.
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いやぁ。読んでられるか。と思いますが、これが、本文と同じ文字の大きさで、ダラダラと書いてあります。(ちなみに、これ、概ね、誕生日チケットの要件と同じです)
多様な。などという言葉では括れないくらい、様々な顧客が居る中で、製品やサービスを提供していくことの難しさが垣間見えます。
また、「差別」という点についても、神経質にならざるを得ません。フロリダは、特に、米国全体に比してマイノリティとされる人たちが多い(私も含めて)ところです。また、前述したような「少々違和感がある」人たちも少なくありません。
が、そうした人を、施設側が、それを理由に「差別」した、もしくは、「差別したと感じられた」場合、訴訟問題になりかねません。
これは、社内での従業員管理などでも同様で、例えば、社内昇進できなかった人が「自分は、女性だから昇進できなかった」とか「自分は、黒人だから差別された」という意義を申し立ててくる可能性はとても高い社会です。
そのため、様々な部分で合理的な理由が求められますし、意図的でなくても差別を助長するような事は避けることが必要となります。そのため、テーマパークのローラーコースターでも、「太った人」が乗れるようにする(限界はもちろんありますが)ことが必要ですし、場合によっては、車いすの搭乗も可能とする必要があります。(聞いた話では、アニマルキングダムのローラーコースターは、「太った人」が乗車できるように先頭車両を特別仕様に変更させられたとのこと)
一方で。リゾート地での休暇は、比較的、長期間でゆったりととります。この辺は、定量的な情報を持っていないので、口頭で聞いた話や私の観察でしかありませんが、各ホテルにプールがあり、かつ、そのプールが稼働している(日本人は、ほとんど利用しない)ことからも、確認できます。現地のガイドブックを見ても、「昼過ぎには、子供が疲れてしまいますから、ホテルに帰って、昼寝をしましょう」といった事が書いてありますし、開園時間直後は「がらがら」であることも、そうした傍証でしょう。
例えば、現在、ディズニーのバリュークラスのホテルでは、5泊したら、2泊無料というキャンペーンをしています。5泊で2泊。次元が違います。
そして、家族客の場合、家族の時間を非常に大切にします。これは「当たり前」とも思いますが、前述の「ホテルに帰って、昼寝しましょう」なんてこと、日本人ではなかなか難しいのが実情でしょう。(ハワイのレストランでは、その日に到着したであろう家族連れは1目で解ります。なぜなら、子供が食事中に撃沈しているから)
そもそも、オーランドに来ているのに、ホテルのプールで過ごすというあたりが、行動原理の違い、価値をおいているものの違いを感じさせます。
このように、多種多様な属性に市場が別れるだけでなく、それぞれの「休暇」「旅行」に関する意識も様々。こんな状況の中で、ビジネスを行っていく困難さは、想像を絶します。
思うに、米国でマーケティングが盛んなのは、こうした顧客構成に寄るところが大きいでしょう。市場をマスとして捉えては、誰にも指示されない製品、サービスしか作れませんからね。
ただ、こうした多様化は、日本でも確実に進展していますし、それこそ、今後の国際化を考えれば、避けては通れません。
顧客は一様ではない。そうした意識を強く持つことが必要では無いでしょうか。

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