衆議院選挙もたけなわですが。
どの陣営も、産業政策については「見えていない」だなぁと思っています。
…あくまでも、個人的な見解ですが。
2006年から2015年の10年間、リーマンショックを挟んで、GDPはプラス方向に振れています。
この振れ方は、「いざなぎ景気超え」とされながら、実感に乏しいものとも言われ、それがいわゆるアベノミクスに対する評価を別けるものともなっています。特に地方部では「アベノミクスの恩恵が回ってきていない」という声も大きいようです。
では、なぜ、そういう事になるのか。
一つは、プラス方向とは言え、絶対的な数値でいえば、リーマンショックの調整をやっと出来た(リーマンショックの前の水準に戻った)だけだという事実があるでしょう。
ただ、私が注視しているのは「地方部での経済構造転換の遅れ」です。
2015年現在、我が国のGDPの構成は第1次産業が1.1%、第2次産業が28.9%、そして第3次産業が70.0%となっています。つまり、全体としてはサービス業が日本の経済を構成しているわけです。これは、サービス経済化という国際的な潮流に沿ったものです。
次の図は、この10年で生産額が大きく変化した産業をピックアップし、その推移をみたものです。これを見ると、製造業が大きく変動する中(10年間では5%減)、不動産業がやや増加(8%増)、専門科学技術・業務支援がリーマンショックの調整後、上昇している(10年間で10%増)といったことが解ります。
特に注目されるのは、保険衛生が一貫して増大している(24%増)一方で、金融・保険(22%減)と宿泊・飲食(8%減)は減少傾向にあるということです。
金融保険については、リーマンショックの影響を未だに回復できていないことが解ります。
ピックアップした産業別に、雇用者数(就業者から自営業者や家族を除いたもの)の推移をみてみると、製造業が一貫して人数を減らす(10年間で10%減)一方で、保健衛生(=医療・福祉)が急激かつ直線的に増大(10年で40%増)しています。
また、宿泊・飲食、不動産業、専門科学技術・業務支援もそれぞれ、増加(10%程度)しています。金融保険は雇用者数を変化させていません。
このように製造業が生産額は大きく変動するものの、一貫して、雇用者数を減少させているのに対し、保健衛生(医療福祉)は、生産額の増大以上に雇用者数を増大させています。宿泊・飲食は、生産額が減っているのに雇用者数が増えており、金融保険は2割以上生産額が減っているのに雇用者数は横這いです。
その結果、保険衛生(医療福祉)、宿泊・飲食、金融保険は、この10年間で、雇用者一人当たりの生産額を12〜23%減少させることとなっています。
あらためて、この10年間を切り取ると、以下の事が指摘できます。
- GDPは製造業の動きに大きく左右される。
- サービス業では、不動産や専門科学技術・業務支援が堅調だが、最も存在感をあげているのは保健衛生(医療福祉)。
- その他の金融や宿泊・飲食は、生産額が低下している。
- 雇用面では、保健衛生や宿泊・飲食、金融保険が生産額推移以上の雇用者を取り込んでいる。
端的に言えば、サービス経済化の中にあるにも関わらず、「単体での変化量が大きいため」に製造業がGDPに与える影響は無視し得ない状況の中で、景気に関係無く保健衛生の規模が拡大し、総体としてサービス経済化が進んでいるという状況です。
本来、サービス経済において、金融保険は、重要な位置づけになるはずですが、これが低迷したままであるという事の影響は大きいでしょう。ただ、金融保険は、極端な話、東京にだけあれば良いので、地方創生という点ではあまり関係ありません。
地方創生の視点でより重要なことは、保健衛生と宿泊・飲食の存在です。
これらは「人が人にサービス提供する」というホスピタリティ産業の一種です。ホスピタリティ産業は、雇用や取引が地域調達されやすい地域密着産業ですが、地域住民だけでなく、来訪者も対象市場と出来る(旅行会社や交通機関を主体とする観光産業と重なる部分がある)のが特徴です。
つまり、地域密着産業でありながら、競争力さえあれば、域外から需要を呼び込むが可能、言い方を変えれば、来訪者を呼び込むことで市場規模を拡大できるのがホスピタリティ産業です。
これは、人口縮小社会における地方創生として、注目される特性です。
地方創生の初期に、観光とCCRCが注目されたのは、この可能性が故と言えるでしょう。
ただ、産業として見ると、保健衛生と宿泊飲食には、大きな違いがあります。
それは、保健衛生は官製ビジネスであり、宿泊飲食は苛烈な民間ビジネスであるということです。
保健衛生の多くは、国によって価格や供給量が決定され、それは社会保険制度と密接な関係性をもっています。そのため、事実上、対象者は住民票のある住民に限定され、サービス内容による差別化も出来ません。それによって従業員に支払える給与水準も自ずと決まります。事業者としては、施設の立地場所、デザインといった事くらいしか、他社との差別化はできません。
※そもそも、供給量が限定されるため、競争自体が起きないようにされていますが…。
つまり、日本の保健衛生は、制度的に「域外需要」を柔軟に取り込めるようにはなっていないし、収益構造も固定的で「大きく儲ける」ことは難しい(普通にやれば「大きく損する」ことも無い)。
CCRCが、ほとんど話題に上らなくなったのは、当然の帰結でしょう。
これに対し、宿泊飲食は、その多くを「不要不急」の需要に依存する純粋な民間事業であり、競争は苛烈。当然、総量規制などというものも無い。
で、問題なのは両産業が「同じような人材」を求めるということにあります。
両産業とも「人と接する」事が必要であり、対人スキル(ヒューマン・スキル)が重要となるからです。
しかも、この「対人スキル」、個々人の資質に強く影響するため、他のスキルのように後天的に育成する事が難しい。
そのため、労働力のパイを大幅に増大させることが難しく、人手不足が生じやすい構造にあります。
職場としての安定性は保健衛生の方が高いことを考えれば、宿泊飲食は人手確保は容易ではない。生産額を増大できない状態では、なおさらでしょう。
つまり、経済成長の点で言えば、サービス産業、特に地方においては、域外需要を取り込む宿泊飲食の振興は注目される。しかしながら、地域では保健衛生が、「ほぼ自動的に」拡大する事によって、サービス経済化は観光系ではなく福祉系へと拡がっていく。福祉系は安定的だが、民間的なダイナニズムは無いため、地域経済拡大には繋がらない…ということになる。
つまり、このままでは地方部はサービス経済化という「変化」に対応不全となっていく。
私は、これが地方を覆う閉塞感ではないかと思っています。
この対策については、別項で。