コロナ禍は、一定の収束が見えてきたが、ウィルスの撲滅が困難である以上、有効なワクチンが開発されるまで、持続的に感染症対策を続けていく必要がある。

仮に、新規の感染者が2週間や3週間、確認されなかったとしても、それは感染確認がなされていないに過ぎない。無症状者が8割を占め、体外に放出されたウィルスは数日以上(痕跡だけなら2週間以上)残存するとされているし、犬やネコなど他の動物への転移も確認されているからだ。

そもそも、ウィルスを撲滅できたのは、人類史上、天然痘しか存在しない。
他のウィルスは、広まる前に封じ込めが出来たパターン(SARSやMERS)か、持続的効果を持ったワクチンによって集団免疫が出来たか(はしか)、効果が持続しないワクチンand/or治療薬で対抗している(インフルエンザ)のいずれかのパターン。

新型コロナは、既に封じ込めに失敗しているから、後ろ2つの選択しかない。

どちらになるかは、ワクチンしだい。だが、最悪のケースは、ワクチン自体が開発できないということもある。

いずれにしても、新型コロナと一緒に社会生活を営んでいくことになるのは、ほぼ確定な状況となっている。

観光と感染症と社会

そこで、このタイミングで、4月の緊急事態宣言以降の状況について整理してみると、以下の事項が指摘できる。

  1. 地方部の医療サービス容量は極めて低いこと
  2. 域外からの来訪者に対する排外的な感情が現出したこと
  3. 一部の「感染上等」セグメントの存在
  4. 首長/行政の観光に対する造詣の低さ
  5. 国の限界

コロナ禍をどうみるのか?については、立場や考え方によって異なるが、私が落胆というか驚愕したのは、感染症に対する医療サービス容量が極端に低いことにある。3月下旬、「東京は数週間後のNYCだ」と散々、恐怖を煽る報道があったが、それをある種、追認せざるを得なかったのは、医療機関から「もう限界」というメッセージが発せられたことにある。

4月1日時点で、感染確認者の延べ数が都民人口に占める比率は0.004%。ピークアウトしたと見られる4月14日時点で0.017%である(いずれも退院、死亡者数を含む)。人口比で約6倍のドイツでは、ロックダウン解除の方向にあるが、現在でも1000人/日程度の新規感染確認者が出ている状態にある。これは東京都で言えば166人/日程度の新規感染確認者が出ているのと同じ状況だが、これは、ピーク時の数値と同程度である。PCR検査数の違いもあり、単純比較は出来ないが、「感染者」と確認されれば医療サービスの対象となることに変わりはないだろと考えれば、それだけドイツの医療サービス容量が大きいということだろう。

地方部においては、さらに深刻で、事実上、新型コロナの感染者が出ても対応できないというところも多い。

そうした医療サービス容量の小ささや、高齢者ほど重篤リスクが高まるという構造から、感染に対する恐怖心は、地方部ほど高まることになる。それは、排外的な意識醸成に繋がり、県外ナンバーに対する攻撃的な言動などに繋がってしまった。この背景には、マスメディアや一部首長の発言などがあるが、基本的に、コミュニティにおいて観光、域外との交流についてのわだかまりが現出したとも言えるだろう。

そうした「わだかまり」を更に加速させたのが、一部の「感染上等」とばかりに自粛に従わない人々の存在である。緊急事態宣言以降、多くの人々は行動自粛を行っていたが、一部、「自分勝手」と見られるような行動を取る人たちも存在していた。こうした人々は、罰則規定を持ったロックダウン状態の地域でも存在していることを考えれば、「仕方ない」話ではあるが、そうした人々の存在や言動をメディアが殊更に取り上げることで、社会的な分断が深まることになった。

こうした社会的分断の中で、明確な休業要請が出されていないにも関わらず、多くの宿泊施設は「営業自粛」を行うことになった。これは、事業者側が様々な状況を勘案してのものであるが、これに対する特別な対応を行った地方自治体は乏しい。約一ヶ月前に、私は以下の投稿をしているが、残念ながら、交付金を地域のホスピタリティ産業クラスタに対応した対策を行っている地域は少ない。

地方の医療サービス容量が限定される中、新型コロナの感染拡大は大きな脅威であるが、他方、感染が確認される述べ人数は、大きめに見積もっても人口比で0.1%以下。地域住民の99%以上の人々は無縁の世界である。感染症でも人は死亡するが、経済でも死者は出る。特に、宿泊事業者に対して春休みに引き続き「GWを捨てさせる」というのは、非常に大きな要請であったはずだが、それを飲み込んだ対応がなされたようには見えない。ホスピタリティ産業は集積されることで生産性が向上することや、顧客が持つイメージが重要であることを「認識」していれば、もう少し丁寧な対応がなされて良かっただろう。

地方自治体を後方支援する立場となる国についても、観光/ホスピタリティ領域に対する支援は十分とはいえない。コロナ禍によって、多くの産業が少なからず影響を受けているが、最も深刻で、かつ、先の見えない業種は、運輸を含む観光、そしてホスピタリティ産業であろう。これらの産業は、人口縮小社会において、また、サービス経済社会において、国の経済を牽引する役割が期待されてきたはずだ。しかしながら、春休み、GWという集客期を喪失した同産業に対する支援策は「他の産業」と何ら変わらない。これは、経産省(中小企業庁)は産業全般を見ており、観光・ホスピタリティ産業は「ワンオブゼム」だし、観光庁が所管する産業は旅行業であり、運送業は国交省、宿泊業は感染抑制を担う厚労省…と、産業サイドから観光・ホスピタリティをパッケージで俯瞰する組織が無いということと無縁ではないだろう。

糸を解きほぐすことが必要

このように、この一ヶ月は、感染拡大の抑制には効果があったが、観光・ホスピタリティ産業サイドについては、直接的な需要減以上に、様々な課題が発生した期間となってしまった。

6月以降(早ければ5月下旬から)、行動抑制は解除されていくことになるだろうが、単純に解除してしまえば、再度の感染拡大を引き起こす可能性は高い。仮にそうなってしまえば、地域が、観光・ホスピタリティ産業に向ける視線は、より厳しいものとなってしまうだろう。

一方で、体力的に、自粛モードを続けていくことの限界ともなってきている。期待されるのは公的な支援策であるが、これについても、大きな期待は難しい構造にある。この一ヶ月の経緯を見る限り、残念ながら、観光・ホスピタリティ産業の維持、存続は、政策的なプライオリティが低いことが露呈されてしまったからだ。

率直なところ、かなり厳しい状況にある。が、感染拡大が収まってくることで、改めて、冷静に意見を交わすこともできるようにもなるだろう。

いろいろと糸がこんがらかってしまっている状況にあるが、その糸をほぐしていくことが、必要と思う。

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