現時点(2020年12月27日)、多くの地域で新型コロナの陽性確認者数は増大傾向にあります。
こうした事態が生じさせるフラストレーションやストレスは、膨大であり、その矛先は政治を含めた社会全体に向けられるようになっています。観光もその一つであり、GoToトラベル事業が一時休止となりました。
しかしながら、そもそも、どのような形でコロナ感染は拡大するのか。そこには、どういった変数が絡んでいるのかという整理はなされていないように思います。特定の視座と視野での議論が錯綜する中で、感染は拡大し、社会全体のフラストレーション/ストレスがたまり続けている状況にあると思うのです。
そこで、個人的に、感染拡大に関わる変数について整理をしてみました。ただ、私は、疫学系の専門家ではありませんので、事実誤認などがあるかもしれません。もし、そうした点があれば、ご指摘ください。
感染拡大ルート
ある「地域」を対象に、新型コロナ、COVID-19が拡大していく流れを考えると、以下の図のように整理できるでしょう。
まず、ウィルスは、人から人に移っていくものであるため、域外との人流が無ければ、持ち込まれることもありません。域外の人が来訪するか、域内の人が域外で感染し持ち帰るかの2つのパターンがあります。
持ち込まれたウィルス(V)は、感染力(W)の影響を受けながら、会食を始めとした「3密」を主体(X)に他者へと感染(Y)していきます。そして、他者へ感染したウィルスは新しい宿主の中で、ウィルスを増殖します。新型コロナは、無症状者も多く、潜伏期間も多いため、医療機関などで隔離されずに、地域内に再度、蓄積され(V系)、新しいループを形成していくことになります。
感染拡大を止めるには
この感染拡大ルート、ループ構造が正しいとしましょう。
ループの起点となるのは「地域内のウィルス総量(V)」ですが、いわゆる「清浄国」と言われるところは、鎖国や都市封鎖によって、域外からの移入(U)を徹底的に遮断し、さらに、広範なPCR検査によって潜伏する感染者(Z)をあぶり出すことで、起点を叩き、このループを止めています。
日本でも、これが出来ていれば…と思うところですが、世界のほぼ全ての国が、それに失敗していることを考えれば、それを望むのは難しかったと思います。また、仮に、清浄国となれても、いずれは、このループを回すことになることを考えれば、必ずしも最善策では無いのかもしれません(後述)。
起点を止められなければ、ループを回しながら、Vを下げていく、少なくても、増やさないようにしていくことが必要となります。
これに関わる変数は、とても多いですが、人類側で出来るのは、以下の3つです。
- ウィルスとの接触機会(X)、具体的には3蜜、現在なら会食を減らす
- 効果の高いワクチンを開発し、ウィルスを体内に取り込んでしまったとしても感染する確率(Y)を下げる。
- 広範なPCR検査を行い無症状者も含めて特定することで隔離されない感染者(Z)を下げる。
これまで、日本で対応してきたのは主に「1」。
一部、識者からは「3」が強く推奨されていましたが、その路線をとった韓国でも、日本と50歩100歩であることを考えれば、某国のように人権侵害レベルまで踏み込むのでなれけば、3の有効性は低いのかもしれません。また、3を強化すると、Vを下げることには繋がっても「無症状だけど陽性者」という人々が増えるので、医療サービス容量を圧迫することにもなります。こういう「○○をすると△△にアタリが出る」というのは、コロナ対応で随所に見られる問題です。
この12月に入り選択肢の一つとなってきたのは「2」。つまり、ワクチン接種です。1と2の組み合わせが上手く機能すれば、XからYにかけてのパスは詰まることに成り、ループの勢いを減じることが期待できます。
ワクチンの限界
ただ、有効なワクチンが出来たら、このループは止まるのかと言えば、そうはなりません。
ワクチンは「ウィルスを体内に取り込まない」という盾や鎧ではありません。ウィルスが体内に入ってくる事自体を防ぐわけではなく、入ってきても、抗体によってウィルスを撃退し、ウィルスに陣地を築かせない(発症させない)ことにあります。
抗体による攻撃は、必ずしも成功するわけではなく、ウィルスが陣地を築いてしまう確率も相当量あります。個々人の体調や免疫力などが関係することになるからです。
※それでも、初期攻撃が効く分、ワクチン摂取していれば、症状を軽減できるとされます。
要は、ワクチンは、発症確率を下げる効果はありますが、ゼロになる訳ではないということです。
となれば、ウィルスとの接触機会(X)の影響を強く受けます。仮に、ワクチンが感染確率(Y)を1/10としても、Xが10倍となれば、X-Yパスから生じる感染者は変わらないということになります。
さらに、現在、開発されているワクチンに、体内でのウィルス増殖を抑制する効果があるのかは判然としていません。現時点でわかっているのは摂取者の発症確率を下げるということだけだからです。仮に、ウィルス増殖の抑制効果は無い(弱い)場合、いわゆる無症状者と同様の状態となり、Zを増やしてしまう可能性もあります。
ワクチンは、個人レベルにおいて発症を抑制する効果は大いに期待できますが、社会全体のループに与える影響は限定的でしょう。
感染力による影響も大きい
実際、ループを大きく左右するのは、人類が左右できない「感染力(W)」です。
以下で整理したように、第3波は、気温低下と乾燥が大きな影響を及ぼしていることは否定できません。我々がX-Y−Zパスについて、「出来ること」に取り組んでいたとしても、その前工程となるWがドンと上がってしまえば、ループは太くなってしまいます。
さらに、「変異」によって、ウィルス自体が感染力を高めてきたという指摘もされています。
ウィルスそのものの感染力が「高い」という意味を、私は理解できていませんが、人の体から出ている状態での生命力が高い(=感染力を維持している時間が長い)ということなのかもしれません。
※ご存じの方、教えて下さい。
いずれにしても、感染力(W)は、環境によって大きく変わり得るものだということになります。
ワクチンが出来てもすぐには「元には戻らない」
このように考えると、ワクチンが出来たら「全て解決」ということは、必ずしもなりません。
それは、先行してワクチンが開発されているインフルエンザの事例が示すとおりです。COVID-19対抗のインフルエンザは、インフルエンザ・ワクチンよりも効果が高いとされますが、感染確率がゼロになるわけでは有りません。
仮に、ワクチンによってYが1/10になっても、XやWが10倍になってしまったら、トータルは変わりません。
Wは人類では制御できませんから、我々としては、ワクチンによってYを下げつつ、Xについても、大きく緩めず…という対応策が必要となるでしょう。特にWが高まる冬季については、現在と同じようにX、すなわち、3蜜対策をしっかりと行うことが求めれるように思います。
もっとも、感染者1人が、他者に1人以上、移さなければループは小さくなっていきます。現在、感染拡大しているとはいえ、2W前の数値との比は、1.3〜1.5という程度。感染の急拡大時でも2.0〜3.0程度です。XとYを併用すれば、確実にループを小さくしていくことは出来、その繰り返しによって起点となるVは小さくなっていきます。
そうやって、Vが十分に小さくなれば、Xをある程度、緩めても問題ないでしょう。
他方、Wが強まる時期(冬季)や、何らかの理由でVが大きくなれば、Xを強める必要性を高める必要があります。
すなわち、ワクチンが出来ても、おそらくは数年に渡ってハンマー&ダンスを反復していく必要があるのだろうと思います。
移入の問題
こうした整理が正しいとして、観光で槍玉にあがる「域外からの移入(U)」はどのように位置づけられるのでしょうか。
前述したように、ループは、U−Vパスが形成されなければ始まりません。その意味で、地域間の移動を抑制することは、ループの抑制効果があるでしょう。
ただ、Z-Vパスが太い状態において、U-Vパスだけを閉じたとしても、ループはほとんど変化しません。言い方を変えれば、地域内に一定のウィルス量(V)が存在していたら、ループは回ってしまいます。これを回さないためには、接触機会(X)を低減するしかありません。
そうなると、取れる選択肢は以下の2つ。
- 域外との交流を遮断してU-Vパスも閉じ、かつ、接触機会(X)も抑制する。
- 接触機会(X)を徹底的に抑制する。
このことは、いわゆる「清浄国」において、ワクチン接種が進んだとしても、直ちに国を開けることは出来ないということにもなります。清浄国では、必要が無いためにXに対する対応が弱いですが、国を開けることでVが増えたら、ループは回ってしまうからです。
結局は、全世界からVが大きく減少するまで国を閉じるか、徐々に開きつつX、Yによって感染を抑制しながらループを小さくしていくかの2択となります。
既に知られているように接触機会(X)は、経済問題とトレードオフの関係にあります。両者のバランスを取るには、人と人との接触において、感染症対策のレベルを上げることが求められます。
地域住民の日常生活から生じる行動、旅行者の行動。どちらが、より感染リスクが高いのかは、千差万別であり容易には整理できません。旅行に出たときこそ「気をつける」人も居るでしょうし、「羽目を外す」人も居るからです。
ただ、「旅行に行ったら、どんちゃん騒ぎ」という観光に対するステレオタイプは、既に実態を示していないことは、共有されるべきでしょう。
そうした視座に立脚すると、人が移動する、観光が問題なのではなく、その旅行者、観光客が訪問先で、どういった行動を取るのかということが問題だということになります。もちろん、U-Vパスの脅威はありますが、これも、その地域を訪れる旅行者が持ち込むパターンと、旅行先で、接触リスクの高い場所や行動をとった住民が持ち帰るパターンのどちらが確率が高いのかはわかりません。
少なくても、第3波については、気温低下と乾燥によって感染力(W)が上がり、それが、従前のXを凌駕してしまったことが主因と考えられます。ここにおいて、U-Vパスが与えた影響について精査されるべきですが、単純な移動量と、感染拡大に対する相関が確認できない以上、広域での移動について、過度なリスク設定を行う必要はないように思います。むしろ、議論されるべきことはX、そして、これからはX-Y−Zパスとなるでしょう。
治療薬の登場が重要
新型コロナを、過度に怖がりすぎだという意見もあります。実際、これまでのインフルエンザの方が感染者数も死者数も段違い。これは、海外でも同様です。
私も数値だけで言うと、そう思わなくも無いですが、治療におけるプロセスを考えると、異なる見解も出てきます。
インフルエンザの場合、既にワクチンも治療薬も確立されています。(例年であれば)それでも感染者や死者数が新型コロナより多いといのが、「新型コロナは大したことではない」という主要な論拠となっています。
ただ、治療薬が確立されている。ということは、医療現場において「感染確認したら投薬」というプロセスが展開できるということでもあります。我々が、インフルエンザにかかった場合を思い返せば、わかりますよね。
事実上、治療薬の数量には上限がありませんから、感染者は感染が確認されれば、誰でも、即時、投薬を受けることができます。インフルエンザの治療薬は、感染者自身の抵抗力を上乗せして、体内のウィルスを撃退してくれます。これで対応できない場合のみ、人工呼吸器へと展開し、呼吸器系を機械で代用しながら、回復を待つということになります。こうした時系列的な対応策は確立されており、医療が治療に大きく介入できます。
他方、新型コロナの場合、潜伏期間が長いにもかかわらず、軽症段階でカウンターを当てるような治療薬がありません。米国大統領クラスになれば、「抗体カクテル」の処方も受けられますが、多くの場合、「寝ている」ことが最も有効な治療法とされます。
が、ある時に、ドンと重症化する。重症化すると、治療薬が投与されますが、治療薬は基本的に他の疾病用に作られたものを流用しているため、インフルエンザとイレッサみたいなダイレクト感は乏しい(だからカクテル化するのですが)。さらに、人工呼吸器は、呼吸器への負担を減らすものであって、ウィルスを撃退するものではない(撃退するのは治療薬が底上げしている本人の抵抗力)。
つまり、治療と言っても、薬や外科手術といった攻勢をかけることは出来ず、運と本人の抵抗力に立脚した防衛戦を展開しているにすぎません。
「やれることは限定されているのに、負荷は大きい」というアンバランスは、医療機関に、大きな負荷をかけることになります。感染者に「治療薬」という武器を与える治療と、日々、被弾し怪我を負う患者に対して日々、後ろから施術する治療では、大きな違いがあるからです。
新型コロナが、インフルエンザと同様に扱えるようになるには、軽症段階からも投与可能な治療薬が確立されていくことではないかと、私は考えています。
誰かのせいにしないこと
こうした整理が正しいとすれば、感染拡大には、ともかく多様な要素が介在していることになります。
日々抱えるフラストレーション、ストレスの中で、誰かのせいにしたい気持ちになることは、仕方ないことですが、なにかしらの「点」を攻めても、それだけではループは変わりません。
現時点で、我々が対応できるのは、接触機会(X)を下げることですが、ワクチン摂取や、必要に応じたPCR検査によって、YやZも下げていくことが出来ます。
他方、Xを下げれば経済が低迷し、経済苦などによる自死が増える可能性もありますし、ワクチンによる副作用も皆無では有りません。さらに、進んで検査した結果、差別を受け、居場所を失うリスクだってあるでしょう。
これらに対応していくには、様々な社会規範、価値観、制度などを見直していくことが必要でしょう。
陽性確認者数が増大しているとはいえ、人口比でみれば、欧米の比ではありません。また、大都市圏を除けば、十分にループが制御できている地域も多くあります。やれば「出来る」という話でもあります。
「お願い」しかできない政府を批判する声も大きいですが、人々の行動こそがループの行く末につながることを考えれば、「お願い」こそが、最大の対策なのだと思います。
来年は、良い年としたいものです。