GoToトラベル・キャンペーンは、コロナ禍、第3波の原因とされ「税金で感染拡大させるのか」とか「税金の無駄遣いだ」という声も少なく有りません。

前者については、第3波の主因は気象環境と私は考えていますが、人の移動や、観光による「気の緩み」が、感染拡大と無関係とは言えず、一定の影響があることは否めません。ただ、その「一定」の規模については、今後の検証を待つ必要があるでしょう。

ただ、現実的に、新幹線や航空機などでの集団感染が確認されておらず、宿泊施設の感染症対策も十分に展開していることを考えれば、旅行が殊更に感染拡大に繋がっているとは考えにくい。飲食については、リスクは相対的に高いが、「誰とどのような食事をするのか」ということが問題であって、場所が、旅行先であろうと居住地であろうと変わらないと考えることが出来ます。要は、旅行するか否かではなく、日々の行動の問題でしょう。

一方、後者については、なかなかに難しい問題です。個人の「遊び」に類する「旅行」実施を支援するということに違和感を覚える人も多いでしょうし、間接的な支援先である観光業についても「そんなに重要なものじゃない」と思っている人も少なくないからです。

これらについての議論もありますが、本稿では、単純に投入された税金は、砂漠に撒かれた水のように回収できないものなのかについて検討してみましょう。

GoToトラベルの波及効果イメージ

まず、GoToトラベルの補助金は、どのような消費を喚起し、それは、どういった波及効果をもたらしていくのかということについて整理してみましょう。

GoToトラベルは、50%補助(35%が旅行費用、15%が地域共通クーポン)です。そのため、補助額を100とすれば、その対象となる旅行費用は200となります。

ただ、宿泊のみを単品で手配している場合、往復の交通費は、100%自己負担として別途発生しますし、一泊当たり4万円(補助額2万円)を超える部分は100%自己負担となります。また、旅行に行くにあたりカバンを買ったり、途中でビールを飲んだりといった支出も発生します。これらは、補助対象外ですが、旅行に伴う支出となります。

この補助対象外支出が、いくらくらいになるかは判然としませんが、仮に50とすると、100の補助金投入から250の消費が生まれることになります。

さらに、観光消費による経済波及効果推計によれば、旅行消費額と生産波及効果の比は、概ね2。さらに、想像される付加価値は、旅行消費額と同等となっています。この比率を援用すれば、生産波及効果は500、付加価値は250と推計されます。

すなわち、経済波及効果という視点で見ると、100の補助金投入は5倍の生産波及と、2.5倍の付加価値を創造すると考えることが出来ます。

仮に、事業者に対する直接給付を選択した場合、100しか価値を産まないこととなります。需要側を支援するからこそ、高い波及効果を得ることが出来るわけです。

波及効果の行き先

これだけでも、とてもレバレッジが効いた施策であることが解りますが、その経済効果の多くは、地域内の幅広い事業者に拡がっているという点でも注目されます。

観光消費の正面に立つのは、宿泊施設や印象施設などですが、ここにモノやサービスを納入しているのは、農家であったり、リネン、クリーニング、花屋、酒屋など地域に立地する中小事業者となります。

コロナ禍が顕在化してきた春頃、各地で上がった悲鳴は「食材が流通しない」というものでした。食材というと、まず、A級の高級食材が話題になりましたが、例えば、久米島では、少し形の悪いエビは、築地などに送るのではなく、島内の居酒屋などで観光客に振る舞われていました。が、観光客が来なくなったことで、そうした食材が行き先を失ってしまいました。いわゆるA級品だけでなく、B級品についても、観光需要が大きな消費先になっていたことを示すものでした。

さらに、そこで働いている人たちも、地域密着の人が多く、取得した給料の使い先も、地域内となる傾向が高い(家計迂回効果)。つまり、表には見えにくくても、観光消費は、地域経済を支える燃料となっているのです。

直接支給では、こうした幅広い業種に効果を及ぼすことは出来ません。

さらに、付加価値の高さも注目できます。付加価値は、その殆どが人件費となります。現在、雇用調整助成金として、休業者に対しては人件費相当の支援が出ていますが、GoToを通じて創造される付加価値≒人件費が無ければ、雇用調整助成金が更に必要となる可能性があるわけです。

つまり、「経済を支える」という前提にたてば、GoToの補助金として投入するか、雇用調整助成金として投入するかという違いということにもなります。どちらが、地域経済にとって建設的な取り組みであるかは、自明でしょう。

税収としても戻ってくる

それでも、観光産業だけが支援対象となることに釈然としない人々も居るかもしれません。自分たちは旅行にも行かないのに、この施策で作られた「借金」返済は、自分たちにも負わされるのは、おかしい…ということです。

ただ、これにも違う見方があります。

まず、前述したように、付加価値だけでも、補助金の2.5倍となりますから、雇用調整助成金を直接給付するよりも、効率が良いと考えることが出来ます。

さらに、生産波及効果が500あるということは、単純に言えば、取引過程において50の消費税が発生していることになります。さらに、付加価値は多くが人件費ですから、ここには所得税・住民税がかかってくることになります。実効税率を5%とすれば12.5。10%なら25となります。

つまり、投入した税金100に対し、60−70程度は、消費税や所得税・住民税で戻ってくるため、実質的には30−40程度の負担で、500の消費活動を生み出していることになります。しかも、産業が残れば、税収は次年度以降にも発生します。一方で、仮に、こうした支援が無く、バタバタと事業者が潰れてしまった場合、次年度以降の税収も激減することになります。そうなれば、むしろ、多くの借金を抱えることになるでしょう。

GoToが無くても発生していた需要もある

一方で、GoToトラベルが無くても、需要が発生していた可能性もあります。その場合、投入する税金は、個人の財布に入ってしまうことになり、無駄金なのではないかという指摘も出てきます。

現実問題として、発生した需要は、GoToトラベルが無ければ発生しなかったものなのか、GoToトラベルがあるから発生したのかということを切り分けることは、かなり困難です。そもそも旅行者自身が、意識をしていない部分もあるからです。そのため、これについては、通常年と今回で、旅行行動がどう変わったのかということを検証しないと見えてきません。

ただ、仮に、GoToトラベルが無くても発生していた需要だとしても、GoToトラベルの存在によって、宿泊単価が高くなったり、地域共通クーポンを利用した消費が顕在化したりと、消費行動を上乗せした部分は多く存在するでしょう。

また、期中ではありましたが、出張での利用や長期利用を制限したことによって、より、不要不急とされる「観光」需要の喚起に焦点が当てられてもいます。
※必要性が高く、緊急性も高い旅行は、GoToに関わりなく実施される。

さらに、前述のように、レバレッジが非常に高く、税収としての回収も見込めることを考えれば、この点を殊更に槍玉に上げる必要性は低いように思います。

ただ、10月、11月のように、利用が拡がっている状況においては、例えば、平日利用とか、連泊するといった方が、補助率が高まるような取り組みを行うなどの対応策は考えていっても良いでしょう。

平日の稼働を高めることや、連泊需要を作ることは、これまで志向されながらも、顕在化に至っていない需要だからです。せっかく、政府からの旅行支援としてのGoToがあるのですから、これを、かねてよりの懸案事項の解決に向けていくという考え方があってもよいでしょう。

観光の裾野の深さに対する認識

結局の所、GoToトラベルという施策を評価するか否かは、観光サービスクラスタが、地域にどれだけ根を張っているのかということに対する認識の違いによる部分が大きいのだと思います。

感染拡大と、旅行とは、完全に無縁とは言えない一方で、地域の観光サービスクラスタが崩壊してしまえば、地域経済は、甚大な被害を受けることになります。

また、観光は、その地域の文化や歴史、自然に対する思いを深めたり、人と人の繋がりを強化したりといった経済面以外の効果も内包しています。観光を止めるということは、そうした文化的な側面も遮断することになります。

感染拡大が続く中、難しい課題ではありますが、社会とのコミュニケーションを図りながら、観光のポジションを作っていきたいところです。

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