シェア獲得というマーケティング発想に対し、ブランディングでは支持者を増やすという発想になる。

結果的には、どちらも集客することが目的となるため、厳密な違いは無いし、実際に行う活動も重なる部分は大きいが、提供する「経験」のデザイン手法は大きく異なる。

マーケティング発想では市場から入るが、ブランディング発想では地域資源からも入れるからだ。

例えば、現在、インバウンド、特に中国市場が拡大している。
マーケティング発想では、この「好機」を活かし、いかに中国市場を獲得するかと考える事が重要となる。その結果、中国市場が好む「経験(商品サービス)」をデザインし、展開することが求められる。
これに対し、ブランディング発想では、中国市場云々の前に、自地域の核となる「経験」をデザインし、その経験に反応する(支持する)人達を拡げるというアプローチとなる。中国市場の中に、そうした人達がいればアプローチするし、いなければしない。

各地が目を付ける市場は、基本的に同じだから、提供する「経験」も似たようなものになる。となると差別化が難しくなり、最終的に価格戦略(要は値下げ)を展開する事になるというのが、多くのパターンだ。

この場合の「罠」は、真面目に市場調査をやればやるほど、科学的思考の帰結として、同じセグメントをターゲットとして選び、それに対応する「経験」が必要となることだ。
なお、ポジショニング情報を得て、相対性を考えターゲット設定できれば少し話は変わるが、現実的に地域レベルでポジショニングを検討できるだけの情報を得る事は難しい。

ブランディング発想では、まず、ユニークな「経験」を地域が組み立てることになる。
この際、ことさらユニークさを考えなくても、地域の歴史文化や自然環境、社会経済環境は多種多様であるから、そうした「背景」をふまえた「経験」を組み立てることが出来れば、その時点でユニークな存在となる。

もともとの「経験」がユニークなので、提供価値において競合は存在しない。また、マーケティング発想のようにシェアを争うのではなく、顧客の支持獲得となるため、競争の図式もかわる。端的に言えば、マーケティング発想の場合、相対性の問題なので、競合地域に対するネガティブ・キャンペーンも一つの形だが、ブランディング発想では、自地域の取り組みこそが全てとなる。

ちなみに、ストーリーづくり研究会では、この「背景」をオリジナルストーリー、「経験」を「経験可能ストーリー」として整理している。

問題は、ユニークな経験を支持してくれる市場セグメントがあるのか? あるとしても、そのセグメントにはどうアプローチすれば良いのか?という事になる。

実は、多くのブランディング発想型の観光振興がスタックしているのは、この部分を乗り越えられないことにある。

「この経験はすばらしい」と自画自賛してしまい、市場とのコミュニケーションを怠る事も多いし、仮に、コミュニケーションをしようとしても、ユニークであるが故に、普通のプロモーションではほとんど効果が出ないためだ。結果、「よい経験なのに…」と悩み続けることになる。

この対策については…続。

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