私が、観光においてマーケティングが必要だと思うのは、「外的環境が変化した」ためである。
マーケティング概念は、以前から存在しているが、その概念は、時代と共に変化してきている。
例えば、初期のマーケティングでは、顧客は「創造」するものであった。現在では「創造」と「維持」するものになっている。つまり、市場が飽和して、成熟して、新規市場というのが無くなったため、新規市場を開拓するのではなく、既存市場において一定量を確保しなければならなくなったわけである。
日本の観光市場は、60年代後半以降に開花する、バブル期までは新規市場の拡大。という状況にあった。具体的には70年代初めの家族客。70年代後半から女性客。80年代の若年グループ・カップル客。という感じである。
例えば、現在は未婚カップルが旅行に行っても誰もなんとも思わない時代であるが、こういうのが可能になったのは80年代である。
が、現代となっては、そういう新規市場が存在しない。すなわち、フロンティア市場が存在しない。
ちなみに、団塊の世代が注目されているが、中身の形態は夫婦旅行やグループ旅行、女性旅行であり、個人的には新規市場ではなく、既存市場が一時的に量的拡大を起こすだけと考えるべきではないかと思う。
観光において、マーケティング志向を持ち、ターゲッティングやポジショニングを意識しなければならないのは、まさに、こういうふうに環境が変化したためである。
バブル以前は、動きのあるセグメントをターゲットとすれば、そのセグメントの規模が拡大していく時代であったため、よほどひどい対応でなければどこでも恩恵を得ることが出来た。リゾート時のスキー場が好例であろう。
しかしながら、今は、対象とするターゲットはすでに「誰かのお客さん」となっている。よって、「お客さん」を得ると言うことは、どこかの地域から強奪してくることと同意である。
更に、その逆も真ですから、顧客の維持が出来なければ、どこかの地域に強奪されることになる。
更に言えば、競合相手は観光地だけではない。イオンなどのショッピングセンターや都市部の飲食施設、携帯電話などなど「自由時間」を対象としたものは皆、競合相手となっている。
実際、バブル崩壊度であっても、飲食はその市場規模を一貫して増加させてきている。(近年は横ばい)一方、観光では、宿泊観光旅行はずっと減少傾向となっている。
つまり、観光と飲食という比較でみれば、飲食に持って行かれているともいえる状況にある。
こういう状況において、観光振興を行うということは、かなりの覚悟。が必要であることは、自明であろう。