リーダーシップの講義をとっていることは、このブログでも何度か記しているが、このリーダーシップの講義をとることで感じたのは、事業を進めるのに必要な能力のあり方である。
人間の能力分野を古典的に区分すると「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」」「コンセプチュアルスキル」の3つに分けることができる。
それぞれのスキル、能力は独立したものであるが、一方で、相互に密接な関係も持っていて、補完し合うこともできれば、相乗効果を上げることもできる。例えば、対人対応が苦手な人(ヒューマンスキルが弱い)であっても、挨拶の仕方、声の出し方などを「テクニック」として理解し、練習すれば、補うことができるからだ。また、コンセプチュアルスキルについても、その意志決定や構想力の前提には、ちゃんとした正しい現状分析が必要であり、財務やマーケティング、または、統計分析などについてのテクニカルスキルは不可欠である。
ただ、全般的に言って、観光産業で考えれば、ヒューマンスキルは現場スタッフ、テクニカルスキルはマネージャークラス、そして、コンセプチュアルスキルはエグゼクティブクラスにおいてそれぞれ最も必要とされる能力というように整理することが出来るだろう。
では、リーダーに求められる能力は何なのだろう。
リーダーは、人によってはマネージャーと同様、または、経営者、すなわちエグゼクティブクラスと同様というように、その位置づけに対する解釈が異なると思うが、こちらでは、リーダーとは、組織を目指すべき方向に引っ張っていく役割を指す。つまり、変革者であって、管理者ではない。
その意味で、エグゼクティブクラスに近いが、役員でも「管理」を主業務とする役割もあるため、必ずしも経営者=リーダーではない。同様に、課長や部長という管理者はマネージャーではあるが、リーダーであるとは限らない。が、同時に、役員にもリーダーは居るし、マネージャーにもリーダーは存在する。職場によっては、現場スタッフの中でもリーダーは居るだろう。
すなわち、リーダーシップという概念は、「組織は常に環境変化に対応して、自ら変化していかなければならない」という考え方とセットであり、人々の「変化」への対応を促すために必要な能力なのである。
その能力、役割はいくつかの整理があるが、端的に整理すれば以下のようになる。
- 明快なビジョンを示すこと
- そのビジョンをスタッフに伝え、共感を得ること
- スタッフが、そのビジョンに向かって、スタッフ自身で歩んでいけるように支援すること
このリーダーシップは、先ほどの3つのスキル分野の全てにまたがる能力である。それだけにとても習得が大変な能力であるが、こちらでは「リーダーは生まれる物では無く、作る物だ」とされている。
日本では、リーダーシップは、ヒューマンスキルを主体として資質に依存するように感じられる部分が強い(そのため、生まれる物という意識が強い)が、こちらでは、能力を演繹的に分類したり、ベストプラクティスから共通項を見いだすなどして、その育成手法について検討し、その実践に取り組んでいる。
例えば、明快なビジョンとは何か。を考えるに当たっては、過去事例からベストプラクティスから共通項を抽出し、その構成要素、成功のポイントを分解していくことで明らかにしていくことが出来る。
実際に、そういった手法にて創造される「リーダー」がどの程度の人数になるかは解らないが、確率論で言えば、こうした取り組みが行われている社会と、そうでない社会では、結果として排出されるリーダーの人数は、確実に変わってくるだろう。
構造化し、移転できる普遍的なレベルに研究を高めることの意義が、こうした分野においても活かされている。そんな印象を持っている。