本記事は、私が事務局をしている「観光地マーケティング研究会(http://cs-t.jp )」のMLに投稿したものです。(一部、アレンジしています)
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以下のコラムが目に付きました。
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0909/28/news038.html
ここで示されている
「宿泊業・飲食サービス」の250万円
と言う言葉は衝撃的です。業種別にみて、「電気・ガス・熱供給・水道業」の4割くらいしかない計算ですからねぇ。
同ページからは、ソースデータである国税庁のPDFが取得できるので、見てみると、確かに、「宿泊業・飲食サービス」の平均給与は業種別で最低位。
同資料では、「事業所の規模が小さい」「勤続年数が低い」「年齢が若い」と給与が下がる傾向にあると指摘されています。「宿泊業・飲食サービス」は、これらに、合致する傾向が高いとはいえ…。
国税庁のPDFでは、「(第17図)業種別の給与階級別構成割合」として、業種別に、給与額の構成割合がしめされています。
これをみると、「宿泊業・飲食サービス」では、200万円未満の給与所得者だけで過半数という驚愕すべき事実がわかります。
(ちなみに、平均額トップの「電気・ガス・熱供給・水道業」では、600万円以上だけで過半数です)
基本的に労働集約型産業であり、人手がかかること。(人数が必要)
パートや有期などの雇用形態の人が多いこと。
といった事はあるにしても、ここまで極端な違いが示されると、例えば、ホスピタリティ産業と言ってはみても、「大学卒の優秀な人材を雇用したい」といった企業側の想いをかなえるのは難しくなりますねぇ。
米国でも、現場スタッフの給与は、安価に抑えられていますから、こうした統計数値をとると似たような結果になると思います。(以前、どこかでデータを見たのですが、忘れてしまいました)
ただ、米国の場合、マネージャーとして優秀であれば、給与を伸ばしていける事が外形的に見えるため、それがモチベーションとなっています。が、日本の場合には、そうした部分も見えにくいですからねぇ。
産業界側としては、こうした一種の「ネガティブ情報」が出ている中で、大学生などに「やっぱり、ホスピタリティ産業は仕事もきついし、給与も安いし、とても就職する所じゃ無いなぁ」と思われないように、わかりやすい「キャリアパス」を見せて上げる事が重要ではないでしょうか。
なお、「低い人件費の人たちが多い」ということは、「経験値が無くても就労しやすい」ということの裏返しでもあり、社会的、政策的にみると、雇用を吸収し、失業率を低める事に適性の高い産業というように見ることも出来ます。実は、これと同様の研究結果は、ここオーランドのあるオレンジ郡を対象に経済波及効果を分析した調査(原、朝日、2009)でも明らかになっています。(観光産業は、他産業に比して、低所得者層への経済的な効果が高い)
もちろん、雇用を吸収したといっても、年収が200万円以下では、とうてい自立は出来ませんが、他産業を含めた転職を念頭に置いた経験値獲得や、ダブルインカム世帯における補完的な収入源などと考えれば、単純に給与水準だけが問題にはならないかもしれません。この辺は、地域が丁寧に対応して上げるべき課題かもしれません。
もちろん、構造的には、地域やホスピタリティ産業への「収入」、つまりは、観光消費額が増えないと駄目なわけです。
これについては、以前からブログにも書いているのですが、実は、平均給与額で1人の雇用を発生させようとしたら、年間で1,000万円強。営業日あたりで5万円以上の観光消費が必要です。
http://www.resort-jp.com/ppBlog17/index.php?UID=1120488102
参考:人件費比率) http://blog.sr-inada.jp/keiei/jinkenhiritsu.html
この水準を達成するのは、かなりのハードルです。
世間的には「マス・ツーリズム」への風当たりは強いですが、それなりの人数を集中的に呼び込むことができなければ、実は、まともな給与額で人を雇用することも出来ないという事は認識しておくべき事ではないでしょうか。

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