観光地マーケティングと地域づくり

観光地域づくり(観光まちづくり)というのは、現在、我が国の観光振興において大きな注目を集める分野の一つである。
しかしながら、「観光」と「地域づくり」というのは、推進組織の立場から見ると、本質的に一緒にはならないのではないかという疑問を感じている。
なぜなら、観光というのは観光客、来訪客がいなければ成立し得ないからである。観光は、鍵となる対象が「観光客」になるのに対し、地域づくりは、地域の住民、事業者となる。両者ともにハッピー、WIN-WINの関係となる事が望ましいが、何を持ってハッピー/WINと考えるのかについては様々な見方があるなど、実際問題として、その両立は容易ではない。
さらに、観光客・来訪客にとって、「地域」というのは、ディスティネーションによってその範囲は大きく異なっているのに対し、地域では、歴然とした単位があるということも観光と地域づくりを両立する際の障害となろう。
例えば、「軽井沢」を考えて見よう。軽井沢は、中軽とか旧軽、または、北軽井沢など、様々な名称で呼ばれるが、その範囲は非常に広く、市町村界はもちろんのこと、県境まで越えている(北軽井沢は群馬県)。観光客の多くは、自身が市町村界や県境を越えて居るとは意識せず、グレーター軽井沢を楽しんでいるのが実情だろう。
一方、こうしたグレーター軽井沢の物理的な大きさと、(東京近郊の高原型リゾートとして軽井沢と比較されることの多い)那須高原は、同様の広がりを持っている。ただし、那須高原の場合、北那須とか旧那須といった呼称は無く、全てが「那須高原」である。さらに、那須高原の「那須町」は、平成の大合併によって、温泉郷である塩原町までが合併され、那須塩原市となっている。市町村合併がなされたはいえ、観光ディスティネーションとして塩原温泉郷と、那須高原とは独立的と考えるべきだろう。
このように、観光客と住民とでは、好ましいと思う環境が異なっていることに加え、観光客が見る地域の単位と、地域が考える地域の単位は必ずしも一致しない。こうしたギャップが存在する中で、観光振興組織と、地域づくり組織を一体化することは問題があると思うのだ。
米国の場合、観光に関しては、DMO、すなわち、ディスティネーション・マーケティング・オーガニゼーションが担っている。これは、日本で言う観光協会に相当するが、ディスティネーション・マーケティングに特化し、地域づくり系に関わっては居ない点に大きな違いがある。このDMOが対象とする地域は、観光客から見たディスティネーションの範囲である点も指摘できる。
一方で、地域づくり系は、BID(ビジネス・インプルーブメント・ディストリクト)に代表される、エリア・マネジメント組織が担っている。こうしたBIDは、地域の行政と、地域の個別事業者および住民の間に挿入されるレイヤーのような存在であり、行政が提供する「平等」な行政サービスに、地域の自主的な取り組みを上乗せすることで、より質の高い地域環境を実現している。
このBID、エリアマネジメントは、地域コミュニティのサイズに応じて、自由に設定する事が可能である。
このように考えると、観光地域づくり、観光まちづくりは、観光客の誘致、集客に取り組むDMO(対象範囲は観光客が認知するディスティネーション・エリア)と、個別のコミュニティ単位で地域づくりに取り組むBIDという両輪によってこそ、成立しうるものなのではないだろうか。
しかしながら、現状、日本においては、そのどちらの組織も存在していない。これらの組織を、財政や人材面も含めて、どのように構築していくのかが今後の観光地活き作り、観光まちづくりにおいて重要なのではないだろうか。

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