観光は裾野の広い産業と言われる。各種の経済波及効果推計においても、その裾野の広がり、波及効果の大きさ(乗数)は、確認されている。
その中でも、昨今の社会経済環境においては、「雇用」は大きな関心事項の一つだろう。
ただ、この「雇用」 実際問題としては、とても難しい問題でもある。
昨今、「生産性向上」ということがよく言われるが、これは、簡単に言えば、投入した資本や労働量にたいして、どこまでの売り上げを上げることが出来たのか。ということになる。GDPが長らく横ばい傾向にあることに代表されるように、生産価値の総計が固定的である現状において、生産性向上の分子(付加価値)は、基本的に大きくならない。結果、生産性を向上するには、分母、すなわち、投入する資本や労働量を削減するということが、基本路線となる。
その中で、行われるのが、サービス業における最大のリスク要素でもある「人件費」の削減である。
例えば、売上高に占める、人件費比率は普通のホテルで30%が目安だが、帝国ホテルのような「人のサービス」が重要なデラックスクラスでは、40%くらいまで上がると言われている。一方、ビジネスホテルは20%程度といわれていたが、新興の東横インとかスーパーホテルは、さらに低く、東横インは5%という話もある。
一件の東横インは、概ね200室くらいで、稼働率が80%とされるため、売上高は、200室×365日×80%稼働×5,000円で、3億円。
この5%なら、1,500万円程度。年収を300万円とすれば、5人分。ただ、求人募集のWEBページなどを見ると、20〜30名程度は居るようである。仮に、WEBサイトの情報が正しいとすれば、300万円程度の社員が1名。残りは、50万円程度で20名強。という所なのかも知れない。
仮に、人件費比率が10%なら、3,000万円。300万円程度の「社員」が2名、残りが100万円程度とすれば26名となる。
とはいえ、例え、10%としても、以前のビジネスホテルの半分であり、その「生産性」は高い。
一方で、雇用効果の点で見れば、人数はそれなりでも、その実態はよい「雇用」とは言い難い状態だ。
概して、元気な事業者は、就労形態は、極限まで切り詰められている場合が多い。これは「人」は様々な点でリスク要素であるため、それを排除した結果であると言える。ただ、こうした行動の結果は、地域の立場から見れば、思ったほどの雇用(量と言うよりは質の点で)を生み出さないということに繋がっていく。
地域においては、そうした点を意識しておくことが必要だろう。

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