http://diamond.jp/articles/-/101414


個人的にiPhoneの発表に「イノベーション」を感じたのは、4、5位まで。
その後は、改善(インプルーブメント)はされているけど、何か大きな変革(イノベーション)が起きているとは思いません。

この記事では、世界的な出荷台数が減速していることを指摘し、かつ、日本市場だけシェアが高いことから、そこに「部品」供給している日本メーカーはリスクを抱えているとしています。特に、日本市場のみで流通するような製品への提供はリスクが高いと。

ただ、これ論理矛盾があるように思うのですよね。

iPhoneは結果的に「高額スマホ」になっています。車で言えば、レクサスとかメルセデスみたいなもの。この市場は高単価ですが、顧客数には限界がある。

iPhoneが爆発的な市場拡大をしていた時期は、米国から、世界中に販路を拡大していた時期に重なります。iPhoneは新製品をだしていくとともに、様々な周波数、各国のレギュレーションに対応していき、5sとなる位には中国を含めてワンモデルで対応できるようになりました。
中国の人が、中国よりも早く新型が販売される日本でiPhoneを求め長蛇の列を作ったのもこの頃です(それまでは日本で購入しても中国では使えなかった)。

まさしく、以下を地で行ってわけです。

ただ、そうやって製品向上とともに、市場を拡大していったら、フロンティア市場がなくなってしまった。結果、市場規模の成長は鈍化します。

それまでは流通の問題で変えない人(市場)があったけど、世界中、誰でも買いたければ変えるようになったのだから当然。

つまり、市場規模拡大の鈍化は、iPhoneの製品価値の問題では無く、販路と市場規模の問題。

ちなみに、日本でiPhoneのシェアが異常に高いのは、日本人は「上のもの」を嗜好する傾向が高いからでしょうね。これは、各所で指摘されているので割愛。

アップルは、この市場状況を見て、より所得の低い人達に市場拡大をしようとします。それが5c。

でも、これはiPhone市場、最大の失敗作となります。私の息子の初めてのiPhoneは、この5cでしたが、世代的には古くなる私の5を使い、娘からも「5cは要らない」と言われていました。結果、その後の6世代は画面の大型化という高額路線を取ります。
5cをもっとちゃんと作っていれば、良かったのかもしれませんが、レクサスがカローラを作っても「安く」売ることは出来ないことを考えると、そもそも難しかったのだろうと思います。

いずれにしても、Appleは、低価格スマホへの対応をあきらめ、高額路線を選択します。この時点で、市場の成長率という点では早晩、限界が来ることは解っていたでしょう。

おそらく、iPhoneという商品は、Appleにとって現状のMacBookとかiMacのような立ち位置になっていくでしょう。
iPadなどが立ち上がり、iOSとして統合される方向になっても、これらの「パソコン市場」はWindowsと差別化されて生き残っています。
今後、爆発的な拡大は見込めませんが、正統進化をする限り、一定の顧客が買い換えしてくれる事になります。

むしろ、Appleにとって厳しいのは、Apple Watchがうまく立ち上がっていないことでしょう。かつてAppleは、iPodからiPhoneへの転換を行う事で、現在の地位を作っています。

iPhone市場が巨大だが、飽和状態になっている現在、iPhoneとは違う「何か」を生み出す必要があります。その先兵がApple Watchだったと思うのです。
iPodからiPhoneへの転換時のキーコンテンツは音楽だった訳ですが、おそらく、Apple Watchはウェラブルの特性を活かした人体そのもの(健康、スポーツ)が想定されています。

今回の第2世代は、そこに強くフォーカスしていますが、iPodやiPhoneが出てきた時のようなわかりやすさがない。第1世代で100万円を超える商品をラインナップするとか、多分、Apple自体が解っていないのでしょうね。
iPadを持っているから、MacBookがシンプルにノートPCを追求できるように、関連する新興市場を抑えられるかどうかは、既存製品の運命にも関わってきます。

いまやスマホは、ウェラブルな演算装置となってきていますから、今後のIoT社会において核となります。ただ、「穴を開けたいのであって、ドリルが欲しいわけではない」と言われるように、IoTが伸びれば伸びるほど、顧客がやりたいことは変わっていきます。そこにキャッチアップするためには、iPhoneではなく、その周辺機器の方が重要でしょう。

Appleの問題は、iPhoneをイノベーションできないことではなく、iPhoneに変わる(補完する)製品を提示できていないことだと思います。

冒頭に引用したコラムでは、部品メーカーのリスクにも触れていますが、そもそも、日本には既に完成品メーカーがほとんど無い状態なのですから、自分の技術をより高く買ってくれるところを選択するというのは、合理的な理由だと思います。
仮に、競争力ある技術を持っているのであれば、取引先を変えていけば良い訳ですから。

ただ、成長率が厳しくても日産やホンダに部品供給するのと、成長率を見越してタタモーターに部品供給するのと、どちらが良いかという判断のような気がします。

また、スイカ搭載をもってガラパゴスだぁと言っていますが、前述したように、iPhone5世代までは、iPhoneは国別どころか電話会社向けにバリエーションされていました。これは、各社が使っている周波数が違うためです。iPhone6世代になって、やっと1機種でほぼ全世界を網羅できるようにあった(ので、Appleストアでの販売を開始した)わけで、バリエーションがあるのは、そう珍しいことではありません。

さらに、かつては、日本は技適マークを刻印しないと日本で携帯電話が使えなかったので、日本向けのiPhoneは(現在より、ずっと市場規模が小さいにも関わらず)全て別途刻印されていました。
確かに、ハードレベルで日本版を出したのは初めての対応ですが、かつてソフトバンク版、au版と別けて供給していたAppleからすれば、些末な話でしかないのだろうと思います。

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