観光消費は、大きく、宿泊、飲食、交通、買い物、そして、サービス購入の5分野に区分出来る。

多くの地域は、もともと「観光地」ではないため、観光需要に対応する商業サービスは乏しく、買い物、すなわち物販サービスへの注目が高まる事になる。

一方、観光の経済効果は、観光客数×単価×域内調達率の3つで決まる。

この内、客数と単価は、観光の振興度と直結しており、地域側の選択肢は乏しい。
※観光振興に成功すれば増えるし、そうでなければ伸び悩むということ。

これらの思索の結果、「域内調達率」を高めようという話が出てくる。

これは「地産地消」という考えた方とも親和性が高い。地産地消は、地域ならではの商品サービスを提供することが地域独自の魅力創造に繋がるという意味合いがあるが、地域で作った物(産した物)を、地域で消費するということは、域内調達率を高めることでもあるからだ。

「観光」によって訪れた人々に、それまで知られていなかったような地域特産品や、土産品を提供する事で、消費単価を確保すると共に、域内調達率を高め、経済効果を高めていく…というのが、基本戦略となる。

ただ、ここで考えて見て欲しい。
これだけ情報流通が進んだ社会において、「知られていなかった」が「魅力的」という製品はどこまであるのだろうか。
ネット普及以前のように、大手流通に乗らないと、最終顧客に届ける手段がないという時代では無い。
ECサービスが、ほぼ完全に普及し、かつ、(過労働が問題になっているとはいえ)物流も全国を網羅している社会において、「現地でなければ買えない」というものは、どういったものなのだろうか。

消費者の立場から考えれば、まず、それが「買うのに値する物か否か」。次に「ここで買うべき物か否か」という事になる。この2つが重なることで、はじめて、現地での購買動機が生まれる。

現地での「販売」にこだわるなら、地域での限定販売とする方法もあるが、そもそも「買うのに値する物」であるなら、その販売チャンネルを、細く不安定な「観光」に寄せる必要性は低い。普通にECに載せていく方が合理的である。

実態としては、「買うのに値するかどうかは微妙」という物を、「でも、ココでしか買えないなら、買っとくか」という意志決定に頼っているのではないか。

他方、6次産業化など、地域の産品を加工し、商品力を高めていくという取り組みもある。これは「地域産品を買うのに値するもの」にする取り組みと言えるだろう。
これは良いアプローチだと思うが、この場合の問題は、販売ロットだろう。当然ながら、加工出来るようにするには設備投資が必要となる。「観光」という販売チャンネルのみで、このロットを確保するのは難しく、ECや一般流通と併用するのが一般的だろう。

こう考えると、売れている物を「観光」を絡めて、更に売れるようにすることは出来ても、売れてない物を「観光」に絡めて売ろうとするのは難しいだろう。

また、実のところ、製品やサービスの販売か価格に占める「原材料費」の比率は、そう高くない。商品サービスの付加価値を創造しているのは、原材料ではなく、その加工やパッケージ、流通、そして、その販売や提供に関わる人々の接遇にある。

つまり、「原材料」に過度にこだわるのではなく、加工や流通という下流側での対応に注力することが有効である。経済のサービス化という点でも、これは理にかなった方向性である。

「観光」が持つ強みは、一定の購買意欲を持った顧客が、自ら地域に足を運んできてくれているということである。更に言えば、彼らは「物」ではなく、「買い物」という経験を求めている。

地域での「買い物費」を増やして行くには、「売るもの」から入るのではなく、良質な「買い物経験」を提供する場、空間、雰囲気を検討していく事が有効だろう。

そうやって、人が集まるようになれば、ロットも確保出来るようになり、「特産品」の販売チャンネルとしても有効になっていく。「特産品」にこだわるのは、それからでも遅くないのではないか。

 

Share