観光振興の2つの目的

観光客集中に関する投稿でも述べたが、日本の場合、観光振興の目的が曖昧であることが多い。
これは、観光振興の現場である地域だけでなく、国等の政策立案や、研究領域でも同様である。

やや強引に区分すれば、観光振興の目的を経済振興に置く人と、文化振興に置く人に大別できる。経済と文化は、必ずしも対立概念ではないので、この区分はミッシー(MECE)ではないが、イメージとして捉えてもらいたい。

昨今の地方創生の文脈にある「観光振興」は、その政策の根幹が「人口縮小社会における地域振興」であり、その手段として観光が位置づけられているので、本来的には経済振興が主たる目的となる。
そこから派生したDMOに「稼ぐ」というミッションがことさらに付与されているのも、政策の背景を考えれば当然のことである。

他方、地域の社会的、文化的ステージをアップさせるための手段として観光を考えている人達も多い。
というか、国政的にはそうした観光のとらえ方の方が長い。例えば、木村尚三郎氏が2000年の観光政策審議会の中で発言したフレーズ「住んでよし訪れてよし」は、その後の観光庁のビジョンにも引き継がれ、各地の観光振興計画にも組み込まれている概念である。この概念は、地域づくりの延長線上に、観光客の来訪もあるというもので、「観光はまちづくりの総仕上げ」という提言とも重なる。

この2つの目的は、どちらが唯一無二の正解ということではないのだが、両者が対立的な構造となることも多い。そして、対立するとマジョリティである文化振興系が、マイノリティである経済振興系を排除する方向へ向かいやすい。

例えば、「山本幸三・地方創生相「学芸員はがん。一掃しないと」 発言に批判相次ぐ」という問題。山本大臣(当時)には、事実誤認もあったようだが、おそらく、山本氏は地方創生大臣として、観光による経済振興達成を強く意識していたが故の発言だったのだと思う。

人に対して「がん」呼ばわりは、擁護できる余地は無いが、課題提起自体は、それほどおかしなものではなかったと思っている。地域が観光で「稼ぐ」ためには、地域の産業を、観光消費を受け止められるような体質に組み替える必要があるからだ。

ほとんどの地域は、観光客向けのサービス消費に対応した事業が立地していない。何かしらの理由があって、観光客が来訪するようになると飲食や土産屋などが出来るが、それらの多くは域外の事業者である。なぜなら、土産品を作るのだって工場設備が必要だし、チェーン系の飲食店の法が出店ハードルが低いからだ。結果、観光客が来訪しても、経済的な振興にはほとんどつながらない。

こうした中、地域の歴史文化資産に対する造詣を持った学芸員という存在は、観光消費を創出し、かつ、それを地域内に伝播させるのに戦略的な意味をもっている。

ただ、こういう議論になると多くの場合、ゼロ・イチの極端な話に行ってしまう。
今回の例で言えば、文化資源を損耗させても観光消費を得るのか?といった指摘だ。そもそも、大臣が引用した大英博物館は、今でも世界を代表する博物館であることを考えれば、文化資源を損耗させてまで観光に「こびた」訳ではないことは自明だと思うのだが。

かつて、高度成長期に工場誘致が大きな反対を浴びた時期がある。工場がもたらす環境破壊への懸念のためだ。確かに、当時の工場は、環境面においていろいろな問題があったのは事実だろう。
ただ、現在ではどうか。
工場はとてもクリーンな存在となっており、環境問題とは無縁の存在となってきている。これは、自然と解決された訳ではなく、経済合理性の上で、様々な技術革新と企業側の努力によって確立されたものである。

我々が取り組まなければならないのは、ゼロ・イチの議論ではなく、地域社会への悪影響を抑えた上での観光による経済振興、または、観光による経済的効果が利息的に生まれるような文化振興というように、2つの目的を高次元で両立させる方策を考える事だろう。

観光客集中問題も、こうした意識を持たないと解決は難しいだろう。

どちらの目的が主になるのかというのは、それぞれの立場で考えれば良いと思うが、地域特性によって、概ね決まるだろう。

端的に言えば、それなりの宿泊客数を受け入れており、一定のサービス業集積がなされている地域は前者(経済振興)、その他の地域は後者(文化振興)となる。なぜなら、前者はサービス経済化の流れの中で、地域の経済構造を観光サービス業主体(観光サービス業が地域経済を牽引する)に組み替えていくことが期待できるのに対し、後者は、住民の生活や経済活動が地域の核としてありつづけるからだ。

市町村単位で、ざくっと比率を出すと、多分、前者は2割程度、後者は8割程度となろう。
その意味で、経済振興系がマイノリティであり、文化振興系がマジョリティというのは、そう非合理的な話では無い。

問題なのは、経済振興系と文化振興系をトレードオフのようにゼロイチで論じること。そして、本来、経済振興系が適切な地域に文化振興系を入れ込んだり、その逆(こちらの方がハレーションが大きい)をすることだろう。

 

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