日常的に出てくるキーワードだけど、実は、その意味は解っていない。または、人に寄って解釈が異なるということは多くあります。

そのため、学術研究の世界では、研究に用いるキーワードを「定義」するところから始めるのが一般的です。

一方、コンサルタントの現場では、そういう定義をすることは「あまり」ありません。なぜなら、厳密に定義してしまうと、その語彙が誘発する効果を減じてしまう可能性があるからです。むしろ、厳密な意味はともかくとして、なんとなくインパクトがあって、説得力のありそうなキーワードを使う事で、企画提案のプレゼンスを上げようとする場合も少なくありません。

そうしたキーワードの一つに「戦略」があります。

観光振興計画より観光振興戦略といった方が立派そうだし、戦略的に取り組むといえば、しっかりと取り組むように見えます。

が、戦略とはなんなのか、計画と戦略って何が違うのかと聞かれると答えるのは難しいのではないでしょうか。

戦略という言葉の一般的な定義については、辞書を引けば出てきます

が、もともと軍事用語であったということもあり、この定義を観光の世界に持ち込んでも、なんだかよく解りません。

戦略とは何か

このように戦略とは何かというのは、なかなかに難しい命題なのですが、これを理解しておくと、いろいろなものの見方が変わってきます。

ので、ここでは私なりの戦略論を述べておこうと思います。

計画(軍事用語的には戦術)と戦略が決定的に異なるのは、問題対応型か目標駆動型かという点です。

例えば、少子化に伴う人口縮小が問題−>人口減少への対応が課題−>観光客誘致で市場確保というのは、問題対応型(解決型)のアプローチです。

これに対し、サービス経済社会で輝く地域になりたい−>ホスピタリティ産業の振興が課題−>観光客誘致に取り組むというのが、目標駆動型(ビジョン駆動型)です。

または、英語での面接がある−>スピーキング力を高めるのが課題−>外国人と交流しよう というのが問題対応型だとすれば、国際的な仕事をしたい−>多様な文化・価値観を知る事が課題−>外国人と交流しようは目標駆動型になります。

直面する問題を課題として捉えるのか、将来像から逆算することで課題を設定するのかという違いです。

※ちなみに「課題」とは、対応がもとめられる事項として設定する物で、問題そのものではありません。

先ほどの例でいえば、最終的には、どちらも同じ事に取り組むわけですが、問題対応型の場合、仮に課題が処理出来たとしても、その問題が解決できただけで、その先や拡がりがありません。これに対し、目標駆動型は、課題を処理する毎に目標へと近づいていくことになります。

戦略には資源と時間の概念がある

戦略は、ドラゴンクエストのようなRPGをイメージすると、より解りやすくなります。

「モンスターの居ない世界を取り戻したい」というのが、基本的な目標ですが、スタート時点の主人公は力も金も無く、仲間もいません。

そこで行うのは、持っている資金を武器や防具に替え、その装備と自身の能力で勝てる相手(スライム)に経験値と資金量を高めていくことです。そうやってレベルを上げていくことで、出来る事が拡がり、目標達成に近づいていきます。

プレイヤーは、どのように行動していけば、効率的にレベルアップをしていけるのか。先々、出てくる難敵への対応策を得る事が出来るのかということを考え、行動していきます。

ここで重要な事は、行動の結果によって、新たな行動のための資金や能力が得られる(または減じられる)ということです。一つ一つの行動が、次に取り得る行動を変えていくという入れ子構造にあるのです。

スタート時点で持っている資金は同じであっても、武器により多くの資金を投入するのか、防具にするのか、薬草などはどれ位買っておくのか、どこに行くのかといった判断によって、出来る事は連続的に変わっていきます。

例えば、強力な武具が揃っている街にたどり着くことが出来れば、可能性は広がります。が、レベルが低ければ、たどり着く前に闘いに敗れてしまうことになります。また、たどり着いたとしても、十分な資金をもっていなければ武具を買うことは出来ません。

自身の資金や能力から「出来ること」を考え、その出来ることの中から、武具の購入や、闘う相手の選択(出没場所の見極め)、訪問先の選択をおこなっていくことが、次の展開に繋がっていく訳です。

このように、持っている資源の配分を時間軸をもって考えて行くのが、戦略です。

これに対し、問題対応型の計画は、ドラクエの戦闘シーンのようなものです。一度、戦闘に入ってしまえば、投入出来る資源(武器や能力、人員)は固定されており、その戦闘中の成長もありません。もちろん戦い方にも寄りますが、その場所でその相手に戦端を開いた時点で、ほぼ、勝敗は決まっています。

ところで、人気ゲーム「モンスター・ハンター」では、実践での戦い方にフォーカスしています。そのため、超絶な操作能力を持っていれば、低レベルでも勝つことは不可能ではありませんし、仲間の協力を得て倒すことも可能です。
が、一応、ボスキャラはいるものの、ドラクエのような「世界を救う」といった目標があるわけではありません。

戦略的発想のドラクエと、戦術的発想のモンハンと考えておけば解りやすいですかね。

BSC(バランス・スコア・カード)

戦略的発想を企業経営に展開した代表的フレームが、BSC(バランス・スコア・カード)です。

企業経営を行う際の経営資源を財務、人材、プロセス、顧客の4つと置き、これら4つの経営資源は、具体的な問題解決に投入し、成果を得ていくことで、企業のパフォーマンスを高め、将来ビジョンに向かっていくという考え方になります。

目標駆動型、すなわち戦略的取り組みにおいて、具体的な問題解決は、ビジョン達成に向け対応すべき課題であるという構造が解ると思います。

なお、ドラクエでの戦闘シーンのように、個々の問題解決が出来るか否かは、投入可能な経営資源によってほぼ決まります。もちろん、現場で動く人々の努力や、他社との相対的な関係性によっても結果(成果)は異なりますが、「少数が多数に勝つ」というのは異常なことだと考えれば、納得出来る話です。

つまり、どの課題から対応していくのか、時間軸の中で、どういった順番で課題対応を行っていくことで、経営資源を強化し、対応可能な課題を増やしていくのかというのが、戦略の核となるわけです。

なお、地方創生以来、話題となるKPIは、このBSCから来ています。
BSCでは、4つの要素を高めていく事が基本となりますが、これらがどのように推移しているのかは捉えにくいのが実状です。そのため、各要素について、代表性をもって代替出来、かつ、定期的に計測できるような事項を見つけ、それを確認していくことが有効とされています。

これが、KPIの基本的な考えです。

つまり、KPI設定とは、その背景にBSCフレームを持った戦略があることが前提となります。

戦略を構成するもの

以上、ざっと見てきましたが、最後にあらためて、戦略を組み立てるのに必要な3つの要素をまとめておきます。

  1. 将来的に「こうなりたい」という目標像・ビジョン
  2. 自身が投入可能な経営資源(BSCの4つの視点)
  3. 現状から目標像にいたるシナリオ

 

行政系の計画で抜けがちなのは、実は、第2点目の「経営資源」です。

なんとなく、目指したいビジョンはある。そこに至るのに必要なこともイメージはある。が、そのイメージは、経営資源から発想したものではないので、いわゆる「机上の空論」となってしまう。

他方、実際の取り組みにおいては、補助金など外部資金に寄るところが多い。そうすると、その資金が持つ制約に縛られることになり、眼前の問題解決型の取り組みとなりやすい。

また、仮に戦略シナリオがあり、それと連動させて取り組みを行っていたとしても、それが経営資源の確保につながるような仕組みにつながらないと、外部資金が途絶えた(=補助金が無くなった)時に、その戦略は頓挫することになります。

3年後、5年後を意識し、経験値をあげるための取り組みと考えて行く事が、戦略的発想の第一歩となるのでは無いでしょうか。


【2018/06/29追記】

「出来ること」を積み上げていくことで、ビジョンを達成するという発想は、漫画「宇宙兄弟」で「夢のドア」として描かれたものが、個人的には「しっくり」きています。

参考:「人の人生にはいくつもの”夢のドア”がある」ブライアン・Jの言葉

戦略は、本来、ビジョンからのバックキャスティング(逆引き)で考える物ですが、ビジョンが明確であれば、そのビジョンに向けて、自分が出来ることを、ともかく積み重ねていくことでも良いのではないかと思います。

 

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