私は、別に、ナイトタイムエコノミーを専門に研究しているわけではないのですが、以前の投稿が予想以上に広がっているようで、いろいろ問い合わせを受けます。

先日も受けた質問に対する私なりの回答をまとめたので、共有しておきます。
なお、前投稿もあわせてお読みいただいた方が、私の立ち位置、見解は理解しやすいかと思います。

Qナイトタイムエコノミーの定義とは?観光客のみを対象?期間限定のイベントでもいい?

ナイトタイムの活動は、本来的には、観光客ではなく、住民のライフスタイルの一つ。

訪問先の住民のライフスタイルを、観光客も体験するというのがナイトタイムの楽しみでしょう。

ただ、観光客自身がナイトタイムの楽しみを持っている人にとって、訪問先にそういうものがない(選択肢がない)というのは不満を生み出す要因とはなります。そのため、その「期待」へ対応するという範囲で、観光客に特化した対応はありえます。

とはいえ、そういう需要をもった観光客(訪日客)だけを対象として、事業採算にのるような事業ができるかというと厳しいと思います。

住民自身がナイトタイムの活動を持っていない場合(日本がそうですが)、そのムーブメントをつくっていくために期間限定イベントを仕掛けるというのは否定はしませんが、そうそう習慣が変わるかといえば疑問です。

Q欧米でナイトタイムエコノミーが広がっているのはなぜ?どうやって始まった?

欧米において80から90年代に顕在化していたインナーシティ問題、つまり中心市街地の空洞化、スラム化の問題との関係があると考えています。

もともと、欧米では、家族、特にパートナーと「時間を過ごす」ことが重要ということであり、週末には子供対応をシッターにお願いして、夫婦でゆっくり食事したり、観劇したりという行動様式がありました。が、都市部の治安が悪くなると、これを実現するのも難しくなり、タクシーなどでレストランや劇場を自宅(ホテル)をドアツードアで繋ぐ動きしかできなくなりました。

が、都市部におけるエリアマネジメント(BID)の取り組みが進むことで、中心市街地が夜でも安全で、楽しい空間に変わってくると、観劇して、散策しながら夜景を楽しみ、飲食するといった楽しみが出てきます。

これがナイトタイムエコノミーの動きでしょう。

そのため、ナイトタイムエコノミーの取り組みは、アルコール提供のパーミットや治安維持と密接な関係をしています。

Q欧米での成功事例や取り組み事例は?

一定規模の都市の多くではエリアマネジメントの取り組みと連動する形で、少なからず、取り組まれている分野と認識しています。

一昔前であれば、「夜は危険」と言われていた都市の多くで、近年は、夜の街をほろ酔いで散策できるようになってきています。

NYCのタイムズスクエアも、その一つでしょうし、ロンドンもそうですね。

特に、イギリスはナイトタイムエコノミー(イブニングエコノミー)としていち早く概念化しています。

http://www.ourcwmtaf.wales/SharedFiles/Download.aspx?pageid=286&mid=613&fileid=53

それを移入する形で、シドニーが近年、取り組んでいます。

https://www.cityofsydney.nsw.gov.au/vision/sustainable-sydney-2030/business-and-economy/sydney-at-night/night-time-economy

Qナイトタイムエコノミーは具体的にどのような経済効果が出ている?

私の方で、整理したものはありません。

欧米の場合、(治安などの問題で)それまで営業できなかった夜間の営業が可能になることで、飲食店などは回転率が上がりますので、その効果はあるでしょう。

ただ、それらはエリアマネジメントという大きな枠組みからもたらされていることでもあるので、ナイトタイムエコノミー単体での効果がどうかというのは判断が難しいです。

また、繰り返しになりますが、需要の主体は地域住民ですから、仮に、ナイトタイムエコノミーによる経済効果が発生していても、観光消費の寄与分は限定されていると考えた方が自然だと思います。

他方、夜間であっても観光客が安心して集う事ができるようになると、ミュージカルとかオペラといった伝統的な文化活動を国際的な広がりをもったものに広げていくといった効果はあると思います。

Qナイトタイムエコノミーの問題点は?

夜が深けるほど、若者が活動主体になるため、そこにアルコールが加われば、自ずと問題は明確でしょう。

日本で言えば、渋谷のハロウィンは、好例かと。

また、一般的な地方都市では21時を過ぎれば、ほとんどの店舗は閉店してしまいますし、住民もいない場合が多いので、衆人環視がなくなった街区に、不特定多数の人々が行き来することによるトラブルも予想されます。

地域としては、こうしたマイナス面の対応に、治安対策が必要となりますし、朝になれば清掃活動なども必要にあります。こうしたコストを誰がどのように負担するかという問題はあります。

また、エネルギー面で見れば、夜間まで活動することが、無駄なエネルギー消費なのではないかという指摘もあるでしょう。

この点も商業的な都合のみで進めようとすると、トラブルの原因となると思います。

Q日本のこれまでの取り組みは?具体例は? 例えば、夜の工場見学や夏休み限定の夜の図書館ツアーなどは事例に入る?

ナイトタイムエコノミーの定義は唯一無二のものではないので、それぞれの地域が定めれば良いものだと思います。

ただ、前述のように、欧米でのナイトタイムエコノミーは、もともとのライフスタイルがあり、それが中心市街地問題と表裏一体で概念化されてきたものですから、その文脈からいえば、工場とか図書館ツアーは、ど真ん中とはならないですね。

Q日本ではナイトタイムエコノミーをめぐって何が足りていない?

前述のように、ナイトタイムエコノミーというのは、本来、住民のライフスタイルと一体的なものです。

訪日客のためだけに用意するということでは、体験に厚みや広がりを持たせることは難しい。

もともと、欧米ほど治安に神経質にならなくても良い日本の都市部においてナイトタイムの過ごし方が「飲みニケーション」くらいしかなかったということが、ナイトタイムエコノミー展開の最大の問題でしょう。

これは「働き方」の問題もあると思いますが、余暇時間を誰と過ごすのか/どうやって過ごすのかという問題の方が大きいと思います。近年、バズワード化されてきている「フラリーマン」などは、その象徴と言えます。

プレミアムフライデーの取り組みも、尻つぼみ状態ですが、制度がどうこうという以前に、業務でも家事でも無い「余暇時間」の過ごし方に対する姿勢の問題があるのではないでしょうか。

Q日本では今年11月に都内で「ナイトタイムサミット」が開かれるけど、どんなものになりそう?

詳細を把握していないので、なんともいえません。

ただ、繰り返しますが、ナイトタイムエコノミーを支える需要は、住民や観光客のライフスタイルなので、イベント的な取り組みによって盛り上がるのか?というのは疑問です。

数日間の単発イベントとするより、例えば、一定の場所に来れば、毎日、何かしらのプログラムを楽しめるという方が行動を習慣化するには良いのではと思います。

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