ちょっと気になったので、調べてみた。
日本が直面しているいろいろな閉塞感の原因は、少子化と、それに伴う高齢化にあるわけですが、なかなかその対策は進まない。というか、改善の兆しが見えない。
少子化対策として、今回の消費税増税を原資に、幼稚園などの無償化も進められることになっていますが、個人的には、ほとんど出生率には影響しないだろうなぁと思っている。
「なぜ、結婚しないのですか」とか「子供を作らないのですか」と聞けば、人は、それっぽい回答はする。その一つが経済要因であり、それに対応する政策が「無償化」となる。
ただ、アンケートというのは、実施者の仮説を検証するものであり、回答者自身も、必ずしも真実を答えるわけではない。これは嘘を答えるという訳ではなく、回答者自身が意識をしていない事項については、選択肢の並びに答えが誘導されるということだ。
「なぜ、結婚しないのですか」という質問に対する答えを、未婚者が常時考えている訳ではない。「結婚」自体を、自分ごととして考えたことが無い人も居るだろうし、考えている人でも、「結婚する理由/結婚しない理由」をロジカルに考えている人は少ないだろう。
回答者は、アンケート(やヒアリング)において、はじめて、その答えを出すことを求められるわけだが、結婚(や恋愛)は性的嗜好や家族関係、コンプレックスなど機微な部分に大きく影響する。こうした部分は、本人にとっても触れるのがはばかられる。自分自身の心と率直に向かい合うことは、多くの人にとって容易ではないからだ。
さらに、匿名であったとしても、回答する際には社会規範に沿おうとしたり、不快な事象からは離れようとする心理も生じる。
その時、質問項目に「経済的に厳しいから」という設問があれば、その選択確率は上がることになる。
これはアンケート調査において生じうるバイアスとして各種確認されている事項である。
経済要因が主因なのか?
仮に、経済要因が主因なのだとすれば、過去の婚姻数や出生数は、経済状況に連動することになってしかるべきである。
が、年代別の未婚率の推移をみると、男性はほぼ全ての年代で1975年頃から始まり、女性は20代は1980年位から、30代以降は1995年位から始まっている。
ここでまず気づくのは、男性は1975-1980年に「いきなり」結婚できなくなったのに対し、女性は、まず20代後半が1985−1990年頃に来て、その後、コーホート的に30代前半は1990−1995年、30代前半は1995−2000年に来ているということだ。
つまり、男性と女性とでは、未婚の理由が違う。
さらに景気との関係からみてみると、1970年代は、オイルショックもあったものの景気は循環しながら80年代後半のバブル景気へと日本経済はつながっていく。そして、バブル景気後、90年代後半から景気は深刻な状況となっていく。しかしながら、そうした景気動向と婚姻率は連動していない。
婚姻数や出生数で見ても同様である。男性の未婚率が増大する1975年頃から、婚姻数や出生数は大きく減少していく。出生数は一貫して減少傾向にあるのに対し、婚姻数はバブル後の90年代後半に上昇するが、これは第2次ベビーブーマーの人々が結婚適齢期となったためと考えられ、景気動向との連動性は判然としない。経済要因で説明しようとすると、オイルショックは1973年だから、景気が落ち込んだ時がピークであったことになるし、バブルのピーク時である80年代後半が低く、むしろバブル崩壊後の方が高いという矛盾も生じてしまう。
ちなみに男女雇用機会均等法に代表される女性の社会進出が原因だという指摘もあるが、20代女性の未婚率は1985年には顕在化しており、それを主因にするのも厳しい。
個人を主体とした社会への対応
こうした状況を素直にみれば、少子化の主因は1970年代に起きていたと考えるのが普通だろう。もちろん、半世紀近く前の状況と現在では、状況は大きく変わっているし、原因は経年の中で変化している可能性もあるが、婚姻数にしても出生数にしても、連続的になだらかに推移していることを考えれば、主因は大きく変化していないと考えることができる。
仮にそうであれば、今の人達にアンケートなどを行っても、本当の原因を浮き彫りには出来ない。
では、その頃に何が生じたのか。
婚姻関係に注目すると、ちょうどその頃に、恋愛結婚と見合い結婚の比率が逆転していることがわかる。
見合い結婚が1975年以降急減したということは、前述した「1975-1980年に、男性は全年代でいきなり未婚率が上がった」という状況とも符合する。当時、20代後半の女性の未婚率は20%代、30代以降では10%代であったから、見合い結婚が流行らなくなれば、男性は伴侶を見つけることはかなり厳しくなるからだ。
実際、この比率と婚姻数から、恋愛結婚と見合い結婚の絶対数を算出してみると、婚姻数の減少は、見合い結婚が減少したことによって生じていることがわかる。
少子化が始まった1970年代以降でも、恋愛結婚数は60万件をキープしている。これは、かなり意外な数値ではないだろうか。
恋愛結婚と見合い結婚は、必ずしもトレードオフ関係にはないだろうが、この結果を見る限り、婚姻数の低下、(生涯)未婚率の上昇は見合い結婚の減少と連動していると考えるのが適切だろう。
こうなると少子化の原因を「伝統的な家族観の崩壊」に求める人たちが出てくるが、このトレンドは変えがたいだろう。
とっくの昔に、結婚は「個人のもの」という価値観は広がっているし、現在の20代、30代のほとんどは、親も恋愛結婚となっているからだ。
半世紀も前に始まった社会意識の変化に抗うのではなく、個人主体の社会となっているという認識にたった対応をしなければ、少子化に対する根本的な対策とはなりえない。
現在でも「健闘している」恋愛結婚の婚姻数を、更に上乗せする事ができないと少子化へは対抗できないということだ。
その認識に立てば、おそらくは結婚という様式によらず(こだわらず)出産や育児を社会的に支援する仕組み、より端的に言えば、シングル・マザー/ファザーへの支援策、社会的な合意が少子化対策には有効となるだろう。
欧米諸国がそうであるように。
わかっているはず
ただ、ここまでの資料は、全て国の少子化関連WEBサイトから持ってきているように、おそらくは、関係者の人達は「わかっている」事実だろう。
しかしながら、婚姻と出産を分離する方向に社会制度や支援策が向かわないのは、政治的にも社会的にもそういう方向が是認されないからだろう。
欧米では結婚していないがパートナーとして一緒に生活していて、子供も居るという形態は珍しくないが、日本では異端視されてしまうのが現実だろう。
さらに、婚姻せずに子供を出産、育ている女性に対して、手厚いサポートを行った場合、「ずるい」とか「親の倫理がおかしい」という反応を示す人は少なくないだろう。
例えば、近年、大手アパレル流通会社の(前)社長が、女優と浮名を流していたが、社長には過去にも複数のパートナーが存在し、子供も複数居る。が、未だに未婚である。
資産家であるため、養育費は十分に支払っているようなので、子供達は社会的なサポートは受けてはいないが、これが、仮に普通の収入レベルの人であったらどうか。
おそらくは「結婚もしてくれない男性と付き合い、子供までもうけた女性が悪い。自己責任だ。」といった指摘がなされることになるだろう。
行政は、政治に支配される。
その政治は、社会意識に左右される。
そのため、仮に科学的に証明されている事象があったとしても、それが社会意識にそぐわないものであれば、政策として展開されることは難しい。
少子化対策は、そうした政策構造の断面を見るように感じる。