緊急事態宣言の解除後、一旦は低下した新型コロナの感染「確認」者数は、サイド、じわじわと増大傾向にあります。これは、欧米でも同様であり、新型コロナの怖さ、しつこさを示しています。

コロナ禍の中で感染拡大を抑え込みながら、経済活動も動かしていくということは、ある意味、全世界が挑戦している課題となっています。

観光分野も同様です。

観光に経済を依存している国や地域は、感染拡大が完全に抑え込めていなくても、この夏に向けて、国や地域を「開ける」選択を取り始めています。入国者に対して事前のPCR検査を義務付けるなどの対策を走らせることで、感染拡大のリスクを低下させようとしていますが、そもそも着地での感染拡大自体が収まっていないことも多く、前途は多難です。

とはいえ、春に続き、夏の需要を喪失すれば、観光産業は「もたない」というのは、どの国も地域も共通しており、この解決困難な問題への対応が模索されている状況にあります。

日本においては、6月、7月から多くの地域で、住民向けの旅行クーポン事業が動き、さらに、8月にはGoToキャンペーンの開始が予定されています。これによって、需要を戻していくことが企図されているわけですが、問題も少なくありません。

まず、重要な認識は、地域需要だけでは限界があるということです。

感染拡大が収まっている地域では、地域内の需要を回すことで、感染拡大リスクを抑えながら経済活動を動かしていくことが可能です。その意味で域内需要は非常に重要ですが、そもそも観光需要の規模は人数(人口)と所得レベルによって規定され、地方は、その双方が相対的に低位な状態にあります。

それを底上げするのが、各地で展開されている住民向け旅行クーポンですが、住民だけでによる市場増大に限界があることは明らかであり、短期的な底上げ効果にとどまることになります。

そこで期待されるのが、全国をカバーするGoToキャンペーンです。

GoToキャンペーンであれば、地域はより多くの需要を呼び込めるようになり、コロナ禍以前の水準を目指すことも可能となるためです。

一方で、広域需要の呼び込みは感染拡大リスクと直結します。特に、東京などで感染「確認」者数が増大している状況では、地域として、積極的に誘客キャンペーンを実施することははばかられるでしょう。

域外の需要を取り込まないと、観光産業の生存に必要な需要量を獲得できないが、不用意に取り込むと地域社会を感染リスクに晒す。観光産業/政策では、この問題を解決していく方策を検討することが求められます。

レスポンシブル・ツーリズム概念へ

この問題は、感染拡大を引き起こすリスクの低い人々を選択的に来訪を促すことが唯一の解決策となるのではないでしょうか。

私は2020年4月に、以下を投稿しています。

世界的に新型コロナの感染が拡大しているとはいえ、総体でみれば99%以上の人々は感染とは無縁の生活を送っています。その99%の中には、マスク着用やディスタンス確保など、しっかりと予防策を実践している人々が多く存在します。

無症状者も多いので「誰が感染者なのかわからない」という新型コロナですが、予防策を1W、2W単位で実践している人々が感染しているリスクは相当低いですし、また、万が一、感染していたとしても、来訪時に地域で感染を拡大させるリスクも低いと考えられます。

これは感染症に対する行動ですが、その対象が地域となった時にも「自分の行動を抑制することができる」と期待することができます。

これは、レスポンシブル・ツーリズム概念と重なります。

本来、レスポンシブル・ツーリズムの実践には、地域がしっかりとブランディングを行い、地域が何を目指し、何を避けたいのかというメッセージを顧客に打ち込むことが必要となります。

これには、相応の時間が必要となりますから、通常であれば、この夏の需要に対応することはできません。

GoToキャンペーンの仕組みを利用してできること

では、どうするのか。

ここで注目したいのは、「GoToキャンペーンは、基本的に、旅行会社主催のツアーを対象としている」ということです。

近年、旅行活動はFIT化が進み、顧客(観光客)の選択肢が大幅に増大、自由度が高まってきました。これは、顧客にとって大変、有意義ですが、他方、顧客の行動を外的に誘導することは困難ともなっています。

だからこそ、観光地ブランドが重要…ということになるわけですが、前述のように、これは時間をかけて取り組む必要があります。

が、今回、GoToキャンペーンは旅行会社経由となります。これは、パッケージだけでなく、バラ売り商品も含まれますが、いずれにしても、地域と顧客との間に旅行会社が介在する構造となります。

旅行会社は、旅行前から顧客にアプローチすることが可能な存在です。この機能を活かすことができないでしょうか。

まず、地域側では以下のメッセージを出します。

  • 私達は、豊かな観光活動を復活させたいと思っています。
  • そのためには、私達と皆さんで、一緒になって感染拡大防止に向けた取り組むことが必要です。
  • そこで、私達はガイドラインを設定し、感染拡大防止策を展開しています。
  • 皆様にも、来訪する前から私達の取り組みに協力してください。

その上で、来訪前から顧客に実践してほしい取り組みについて具体的に提示し、予約時に旅行会社から顧客に対して伝えてもらうようにします。

この取組を実効的なものとするには、こうした広報活動に協力してくれる旅行会社を、地域からも利用アピールを行うと共に、ある種の宣誓書を用意し、宿泊施設チェックイン時に提示することを求めるといった取り組みも必要となるでしょう。

こうした取り組みができるようになると、確率的に感染拡大リスクを低下させることが期待できますし、さらに、地域住民や事業者の不安も低減することが期待されます。

例えば、宣誓書を持参した人には、宿泊施設において、何かしらの特典カードを渡すようにすれば、それを提示することで、地域の飲食店やアクティビティ事業者も、より安心して対応することが可能となるでしょう。そういた「光景」は、地域住民の不安を低減することにもなるでしょう。

姿勢を示すことが重要

新型コロナの感染状況がどうなるかは、全く、わかりません。

ただ、6月中旬以降の感染状況を見る限り、このまま収束していくということは想定しにくい状況です。

さらに言えば、このまま感染拡大が続けばGoToキャンペーンの実施も無理という政治判断が出てくる可能性すらあります。

であれば「感染拡大もある」ということを想定し、その中で、どのように観光を開けていくのかという戦略を立て、実践していく必要があるでしょう。

感染拡大防止と観光活動の両立は、無理ゲーかもしれません。

しかしながら、その無理ゲーには、世界中の観光地が参加しています。

どこにも真似できるモデルはなく、自分たちで、知恵出しを行い、実践してくことが求められています。

Share