2021年1月7日。首都圏に緊急事態宣言が再発出されました。

この再発出については「やむを得ない」という意見が大勢を占めますが、主たる規制対象となっている飲食店事業者としては「なぜ、我々ばかり」という思いがありますし、緊急事態宣言が出されても我関せずで、行動を変えない人々も居ます。

緊急事態宣言再発出に先立ち、GoToトラベル・キャンペーンが一時休止し、それが延長された宿泊事業者も「我々は、しっかり感染対策を行ってきたのに、なぜ?」という意識はあるでしょう。

実際、私は前回の緊急事態宣言終了後、数多くの出張をこなしてきましたが、交通機関も宿泊施設も、感染症対策はしっかりと展開されていました。そこにリスクがあるとすれば、客側が、野放図な行動を取ることであり、事業者側の問題とは感じられませんでした。

ただ、夏から秋となっていく中で、対応がおざなりになっていった事業者が出てきたのは、残念ながら事実です。当初、フィジカル・ディスタンシングで、稼働する座席数や部屋数を限定していた施設も、需要が戻る中で、そうした制限をかけなくなったり、入館時の体温測定や消毒液の利用管理が徹底されなくなっていることが散見されるようになりました。

こうした事業者側の「運用」が、顧客側にも「もう良いのかな?」という意識をもたらすことになったのは否定できません。仮に、事業者側としては安全性を確保した上での対応であったとしても、それを理解できる顧客は少なかったでしょうから。

その意味で、事業者も顧客も、感染症対策を徹底する人たちも居れば、疎かにする人たちも居ます。この比率は、経験則的に言えば、8:2とか7:3という偏った分布をします。

感染リスクが高まる組み合わせは4%

この分布を元に、感染拡大リスクを考えてみましょう。

例えば、飲食を想定して、αを事業者の感染症対策に対する態度、βを顧客の感染症に対する態度としましょう。いずれも、感染症対策に積極的な比率を8、そうではない比率を2とすると、積極的×積極的となるA群は64%となります。他方、いずれかが積極的であるB群、C群は、それぞれ16。合わせて32。対して、どちらも非・積極的な組み合わせとなるE群は4%に過ぎません。

言うまでもなく、感染拡大の温床となっているのはE群。B群、C群もリスクはありますが、E群に比すれば、そのリスクは低いでしょう。つまり、100回の飲食機会の内、感染拡大は事業者も顧客も、感染拡大に無頓着で、リスクが高い飲食は、4回程度と考えられるわけです。

この「偏り」が、社会的なストレスの原因と、私は考えています。

社会の圧倒的多数の行動は、ニューノーマルに対応した行動様式に転換しているにも関わらず、4%というごくわずかの行動が、感染拡大リスクを高めているからです。多くの宿泊施設や飲食店からすれば「なぜ?」という疑問が出て当然でしょう。対応できていない少数の責任を、なぜ、我々が負わなければならないのかと。

しかしながら、飲食としては4%だとしても、外食をしない人々からすると「飲食店によって迷惑を被っている」と感じることになります。なぜなら、外食という行為も、100%の人々が行うわけではなく、行わない人々が「飲食店での会食が感染拡大の主因となっている」と聞けば、「飲食店全般を対象に、自分たちは節制した生活をしているのに!」と思うからです。

なお、ホットペッパーグルメ外食総研の調査によれば、2020年9月(GoToイート以前)の外食実施率は60%。実施者の外食数は3.63回です。つまり、国民の4割にとっては外食は「他人事」。さらに、実施者の多くも月に数回ですから、そう身近な存在ではありません。

飲食店関係者(事業者と顧客)からすれば、問題を起こす飲食機会は4%であっても、多くの人々からすれば、飲食店の存在によって影響を受けている…と考えてもやむを得ないでしょう。
※これは、観光旅行、すなわちGoToトラベルも同じ構造です。

リスクの高い飲食機会4%をピンポイントで抑え込めれば、万事解決…ではあるのですが、この関係者は、「ニューノーマルな対応が必要」という社会メッセージでは行動変容を起こさない人々です。

そのため「緊急事態宣言」という形で、全体に網をかけることになるわけです。

非常に小さい穴からの水漏れを防ぐために、水槽全体への水供給を止めるみたいな、とても効率の悪い対応ですが、感染症対策に積極的ではない事業者や顧客を特定できるわけでもなく、他に対応策が無いというのが実情です。

誰かを悪者にしても解決しない

感染症対策は、一部の施設や顧客の行動によって、大きく感染が拡がってしまい、大多数の人々の社会生活に影響が出るという「割の合わない」取り組みです。しかも、ウィルスは目に見えず。新型コロナに至っては、若年層にとっては「ただの風邪」でしかありません。

そのため、どうしても「自分」ではなく「他者」を責めたくなってしまいますし、「自分はちゃんとしているのになぜ?」というのは、多くの人が抱くことになるでしょう。

ただ、感染症の拡大は、社会の弱い所を責めてくるということも認識しておくべきでしょう。いわゆる「夜の街」はリスクの高い場所として非難を集めがちですが、そこで無ければ職を得ることが出来ない、他者との交流が出来ない人々が居ることも、また、事実です。コロナ禍が起きても、事業への影響が無い職業についている人も居れば、そうでない人もいる。単身者は、外出規制がかかれれば、リアルな対人コミュニケーションの機会も失います。

女性の自殺者が増えているという報道もありますが、これは、経済的な要因ではなく、孤立しているしまったことが原因かもしれません。

何かをスケープ・ゴートにすることで、社会に貯まる不満、ストレスを逃がすというのは、ある意味、施政者の常套手段です。コロナ禍においても、いろいろなものがスケープ・ゴートになってきました。パチンコ屋、ジム、カラオケ屋、飲食店、そして、観光…。

そして、スケープ・ゴートとして攻撃される立場になれば、自己防衛的な行動を展開せざるを得なくなります。それは更に社会との分断を招くことになり、自粛警察のような人々を生み出すことにもなります。

まずは、そもそも、寒くなり、乾燥してくれば呼吸器系の疾患は感染拡大することは避けられないということを、共通の見解とすることが必要ではないでしょうか。誰かが、どこかが、不作為であったから感染拡大しているわけではなく、気象条件によって拡大していると考えれば、誰かを責める雰囲気を変えられるでしょう。もっと言えば、気象条件の影響は、北半球共通ですが、その中でも、人口あたりの感染者数は欧米とは段違いに低いということは、日本がこのコロナ禍に、相対的にうまく適用していることを示しているとも言えます。

そういう「基本」を社会全体で共有した上で、改めて、感染拡大リスクについてのコミュニケーションを展開していくことが、コロナ禍を乗り越えていくために必要なのではと思っています。

リスクに向けた対応

とはいえ。個人的には、気象条件に主因を求めるのであれば、なぜ、もっと早くから医療サービス容量を増やすことは出来なかったのか。冬になる段階で、行動規制を事前にかけることは出来なかったのか。という思いはあります。

現実問題として、社会全体が、ある種、運を天に任せていた部分はあるでしょう。

欧州でも制御できていない現実を考えれば、これは「タラレバ」の議論なのだとも思いますが、リスク・マネジメントの基本は、発生確率が低くても甚大な影響がでる事象に対しては、十分な準備をしておくことにあります。リスクは相対的に評価することになるので、これが全てとは言いませんが、事象が起きてから後追い的に戦力を逐次投入していくのは、悪手と言わざるを得ません。

これを教訓に、ポスト・コロナに向けた取り組みを、改めて、整理していきたいところです。

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