2021年2月。昨年末からの陽性確認者数の増大は、峠を超え、収束の方向へと向かいつつあります。未だ、重症者の人数は多いですが、新規陽性者が減少している以上、重症者も時間差で減少していくことになるでしょう。

このまま、11月頃の水準にまで収束していくことになれば、緊急事態宣言の発出が影響したのであろうと考えることができるでしょう。それは、すなわち、飲食店の営業規制が功を奏したということになります。

他方、欧州では、罰則規定付きのロックダウンを展開していますが、陽性者数はピークは超えたものの、減少とはなっていません。面的に、強制的なロックダウンをかけた欧州で抑え込めていないにも関わらず、日本では、かなりピンポイントな対応で感染が抑え込まれた形となっているわけです。

こうした「違い」は、2020年の春頃から存在しており、「東京は30日前のNYCだ」とか言われながら、そういう事態にはならず、何かしら、日本人(やアジアの人々)には、免疫的なものがあるのではないか、ファクターXがあるのではないかという話題が出ていました。が、現時点まで、そうした「抗体」的なものは確認されていません。

私は、以前、気温や湿度との関係性について整理をしています。COVID-19は、呼吸器系の疾患ですから、気温が下がり乾燥が進めば、感染拡大するということは経験的にも明らかであり、実際、データ的にもその関係性は確認できました。

ただ、気温や乾燥という要素は、北半球であれば、多かれ少なかれ同様の条件であり、日本だけ特別な場所にいるわけでは有りません。

もう一つ。感染症において重要な要素は、人と人の接触です。旅行は、その筆頭とされるわけですが、GoToトラベルのような国を上げての需要喚起を行った日本が、相対的に感染拡大が低いことや、GoTo停止後も感染拡大が生じていることなど、少なくても、日本においては、いわゆる「旅行者」が感染を拡大しているとは言い難い状態です。
この辺については、いずれ、データが出てくるはずなので、ここでは割愛します。

もともと、感染拡大しているような都市部においては、人流に占める旅行者の数は、たかが知れています。通勤、通学で動く人々の方が圧倒的であるということです。さらに、地域住民は買い物や各種用務(例:医者に行く、ジムに行く)でもでかけていきます。その比率は、都市によっても異なりますが、1−3%くらいとされます。これは、住宅の件数と宿泊施設の件数に圧倒的な違いがあることを考えれば自明でしょう。

そう考えれば、「人と人の接触」というのは、旅行者がどうという話ではなく、その大部分が住民の行動によって生じるものであると考えることができます。

人がどれくらいでかけているのか、移動しているのかということについては、コロナ禍において、グーグルとアップルがスマホデータを提供しています。本稿では、このデータをもとに、人手と感染拡大との関係について見てみることにしましょう。

なお、対象期間は2020年の2月15日から2021年1月14日までとしています。

まず、グーグルのデータを使って、日別の(生活必需品系ではない)商業施設やレジャー施設の人手と、陽性確認者数、感染拡大トレンド(1週間の増減状況を元に単回帰直線を引き、その傾きを算出)との関係について見てみることにしましょう。

これを見ると解るように、(生活必需品系ではない)商業施設やレジャー施設への人手と、感染拡大については、ほとんど関係がありません。

第2回の緊急事態宣言以降、マスメディアは繁華街への「人手が減っていない」ことを大きく報道していましたが、実際には、両者の関係はもともと「薄かった」ことがわかります。

次に、アップルのデータを使ってみましょう。アップルのデータは、iPhoneの「マップ」アプリで経路検索を行ったものが利用されています。わざわざ、経路検索を行うのですから、日常的な移動ではなく、初めていくお店などを検索したものと言えます。
なお、グラフではアップルのデータを正規化(平均がゼロ、分散が1)処理をしています。

この結果から見えるのは、経路検索量と感染拡大は、どちらかといえば「負の関係」にあるということです。

つまり、経路検索料が増えると、感染拡大は抑制される…ことになります。これは、どう見ても因果関係は逆で、感染が拡大してきたら、経路検索がされなくなるということを示しています。

前述したように、グーグルのデータ(単純な人手)に比して、アップルのデータは「経路検索」という人々の移動に対する主体的な意識や行動を示していると考えられますが、そのデータが、感染拡大と負の関係にあるということは、人々が、感染状況を見ながら行動を自制していることを示していると考えられます。

さて、では、海外ではどうなのでしょう。グーグル/アップルのデータの良いところは、基本的に全世界を網羅しているということです。本稿では、感染がなかなか収束しない欧州の国々と比較してみましょう。

なお、多国比較する関係で、各データは増減トレンドを除き、正規化しています。

まずはドイツ。

グーグルが左で、アップルが右。
まず、両者が結構、近い形にあることがわかります。この理由は判然としませんが、経路検索が日本よりも日常的に使われているのかもしれません。

もう一つ。データの多くは、第1、2、4象限に固まっており、第3象限は少ない。感染が抑え込まれているが人手や移動量が多い第4象限のデータは、やや直線的な関係があり、他方、感染が多い/拡がっている第1、2象限はばらつきが大きい。

この解釈も難しいですが、第1、2象限はロックダウン的な措置が取られている(特に第2象限)ことによって、移動が制限されていると考えることもできます。元データは日別データなので、ロックダウン日と重ね合わせれば、明らかになりますが、すいません、そこまではしていません。

ただ、この推測が正しいとすれば第4象限が、行動制限がかかっていない日常と考えることができます。そこで、第4象限だけを取り出してみると、以下のようになります。

グーグルの方はなんとも言えませんが、アップルの方は、正の関係が見て取れます。これは、明らかに日本のそれとは異なる傾向です。

この傾向は、感染の増減トレンドでみると、さらにはっきりします。
※スペインは、陽性者数の報告がデイリーではないため、少し歪になっています。

グーグル(人手)も、アップル(経路検索)も、1Wの増減トレンドと正の関係が見て取れます。特にアップルのほうが、その傾向が顕著です。

この増減トレンド、イギリスや、スペインでも正の関係が見て取れます。

イギリス
スペイン

このように、欧州では、ある種、セオリーどおり、人が動くことが感染拡大につながっている…と言える状況にあります。が、日本は、それとは違う。

ロックダウンという強制的な行動抑制が行われることによる影響や、スマホの利用形態の違いなど単純な比較はできませんが、この結果を見る限り、人の移動(人と人の接触)と感染拡大との関係は、日本と欧州では異なっているということが出来るでしょう。

では、なぜ、違うのか。日本では、人が動いても、ゆるーい行動規制であっても、感染が拡大しないのか。

一つのヒントは、経路検索が感染拡大すると抑制されるということにあるように思われます。これは、日本には強制的なロックダウンはありませんが、社会的に感染が拡大すると、個々人が行動を自制していくことを示していると考えられるからです。

対して、欧州では感染拡大によってロックダウンが生じるまで、行動拡大が続いているように読み取れます。

もう一つは、感染症対策の徹底です。グーグルの人手データが示すように、日本の場合、商業やレジャー施設に人々の集まっても、感染拡大とは無相関です。これは、人々が集まったとしても、それだけでは感染拡大とはならないことを示しています。

疫学系の研究では、人手や気象条件、または、GoToトラベルのような施策についての注目はあるものの、感染症対策による抑制効果については、あまり関心が払われていないように感じます。

コロナがある世界において、我々は、以前とは全くことなる生活様式で暮らしています。
その生活様式は、コロナ禍に対応するために編み出されたものであり、日本は、それを多くの人々が律儀に守っている環境にあります。

こうした「努力」を評価し、その上で、さらに対策のレベルをあげていくことが重要なのではないでしょうか。

感染症に対する「これまでの常識」を、杓子定規に適用するのではなく、日本の実態に合わせたコロナ禍対応を展開していきたいところです。

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