コロナ禍の襲来を誰も予想できなかったように、我々には未来を予見することはできない。

ただ、基本的に時の流れは、波のようなものであり、過去から現代の流れが未来にも繋がっている。その意味で、現在は過去の結果であるし、未来の原因でもある。

そうした時の流れ、連続性を考えれば、近未来に、ほぼ確実に生じるであろう事象を予見することは出来る。

私が再三指摘する「サービス経済社会」の到来はその一つ。社会で創造される価値はGDL(グッズ・ドミナント・ロジック)からSDL(サービス・ドミナント・ロジック)へと「ほぼ確実」に変化する。これは、生産能力の向上、増大が進めば、いずれは供給>需要となりモノが飽和した状況となるため。実際、1980年代には既に価格や性能だけでは競争力を持ち得ず、社会的価値を持つこと(社会志向)が重視される時代が来ることは指摘されていた。SDLは、その流れから生まれた一つの概念となる。

もちろん、流れには多くの支流があり、逆流する箇所もあるだろう。ただ、大きなうねりを伴った流れは、多少の時間差はあっても、いずれ、至るべきところに行き着くことになる。

中長期的な時間軸を持った戦略を考える際には、こうした大きな潮流を捉え、そこから生じるであろう変化を推測し、それを与件として対応策を検討していくことが重要となる。

生じた変化への対応には時間がかかるが、その「変化」が生じる前に予見し、それを織り込んだ準備を進めておくことが出来れば、効率的な対応ができるからだ。

これから起きること

そして、現在、観光に大きく影響する「ほぼ確実に起きる変化」がある。

それは、脱プラ、ノーカーボン、そしてEVだ。

環境への意識の高まりは、不可逆的なものとなっている。今後、ミレニアムやZ世代が市場の中心となっていけば、それは更に強固となっていくだろう。

既に、世界的に「コンビニ袋(プラスチック・バック)」は姿を消しつつあるし、ペットボトルも衰退の一歩。ストローも一気に紙ストローへの転換が進んでいる。ハワイでは、カップ麺すら消えつつある。これらを無頓着に使い続ける地域は「支持するに値しない古臭い地域」とみなされていくことになるだろう。

カーボン(二酸化炭素)も、大きな関心事項となってきている。カーボンは見ることはできないが、世界で頻発する豪雨災害に加え、欧州のスノーリゾートは、暖冬・少雪に悩まされているし、ビーチリゾートはサンゴの白化減少に見舞われている。これからの時代を生きていく若年層にとって、カーボン問題は「自分の問題」であるが、同時に「親世代からのツケまわし問題」でもある。それだけに脱カーボンにとりくむことは、社会に対する責任を示すことになる。

脱カーボンの取り組みは、再生可能エネルギー利用や、緑化促進、省エネプラントへの切り替えなど多岐に渡る。それだけに、戦略的、総合的な取り組みが必要となるが、観光領域において特に象徴的な存在となっているのはEVとなるだろう。

なぜなら、着地でEV対応が進んでいないと、観光客がEVで訪れることができないからだ。

プリウスがそうであったように、高学歴/高所得/環境志向の人ほどEVへの転換は早い。彼らの支持を取り付けることは、マーケティング/ブランディングにおいて重要である。特に大都市から200−300km圏内は、着地での給電が不可欠となるから、EV対応は重要となるだろう。

対応策

環境対策は、単純にその対応を考えるとコストアップ要因にしかならない。

どうせ起きる変化であり、対応しなければならないのであれば、マーケティング/ブランディングと接続し、前向きに活用するほうが良い選択であろう。

その意味で、環境対策は、ちゃんと顧客に伝わるように「見える化」しなければ意味がない。例えば、日本では実際にはペットボトルの回収率は高く、環境負荷は低い。しかしながら、そこを敢えて客室でのミネラル・ウォーターは瓶で提供するとか、水筒への給水設備を設けるといった対策を行うことで、廃プラの姿勢を示すことが出来るだろう。

脱カーボンについては、なかなか「見える化」することが難しいが、例えば、通常宿泊とは別に、有料の脱カーボン・オプションとして、脱カーボンにつながる消耗品提供を行ったり、再エネや植樹プログラムの資金援助を募ったりするなど、顧客を活動に参加させることが検討できる。

EV対応についても同様に「良い場所」にEV駐車スペースを用意すると共に、EVでの来訪者には、アップグレードやチェックアウト時間の延長、ワンドリンクサービスなど、特別な対応をしていくことが考えられる。

「裏でしっかりやってます」ではなく、対策を顧客の経験に結びつけ、顧客自身が実感出来るように仕立てていくことが重要だろう。

また、こうした環境対策の取り組みを、自社、または次地域内で対応できるように事業を展開していくことも重要となる。例えば、紙ストローは、いずれ、「当たり前」の存在となるだろう。であれば、域内で紙ストローの製造拠点を創り、地域内で生産し利用できるようにする方が効率性も経済的な効果も高まることになる。同様のことは、水筒、エコバッグ、木製歯ブラシ、マイ箸、EVの充電設備などなど多岐に渡る。観光分野に対応しうる、これらのモノやサービスを確立することができれば、それは、域外に移出していく(他地域に展開していく)ことも可能となる。

言い方を変えれば、産業面にまで拡げられる地域は限定される。どこかが、普遍的なシステムを開発、運用すれば、それを移入してしまう方が経済合理性が高いからだ。

重要なことは、環境対策をコストと考えるのではなく、投資と考え、その乗数を高めていく戦略を実践していくことだろう。

生じるであろう変化を捉え、準備をすすめることで果実を得るというのは、こういう波及効果も含めての体制を作っていくことで得られる成果であるということを認識しておきたい。

重要なことはやりきること

カーボンによる地球温暖化も、プラスチックによる環境負荷も、再生可能エネルギーのライフサイクルも、異論・反論が多く出されている。極端に言えば「すべて陰謀だ」という指摘すらある。

そのため「やらない理由」は、いくらでも立てることができる。

しかしながら、コロナ禍におけるワクチン議論が示すように、大きな流れの中で生じる様々な異論は、基本的にノイジー・マイノリティの言説であり、実態が変わっていくことで、いずれ、サイレント・マジョリティが考える世界へと収束していくことになる。

いろいろな時系列的な変化から、玉突き的に起こっていく事象を展望し、いち早く変化に対応する取り組みを展開していく…。

ポスト・コロナにおいて求められるのは、そうした視野と視点であると考える。

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