管理型ツアーの実施が発表され、訪日観光再開の機運が高まっています。

別稿で整理しているように、個人的には、訪日観光の再開については慎重な見方をもっていますが、可能性が拡がってきた以上、それに対応する取り組みを展開することはリスクマネジメント上、必要でしょう。競争環境で劣後すると、取り返すのが難しいので。

そこで、提案したいのは「おかえりなさいキャンペーン」の実施です。

鎖国を続けている日本ですが、ありがたいことに、各種の調査が示すように、海外の人々の訪日意欲は高い状態にあります。とはいえ、彼らからすると「いつ行けるか解らないデスティネーションに義理や恩義を感じる必要はない」というところでしょう。特に、多くの国で、今年の夏休みはバケーション爆発となることは必至であり、国内旅行や日本以外(例:欧米、オセアニア)に旅行先を設定しつつあると考えるべきです。

他方、日本の地域、施設側としても「開国して欲しい」という気持ちは高くあり、政府もその方向にじわじわと動いているとは言え、それがいつになるのか、誰が対象となるのかといったことを断定的に言える状況にはありません。なにしろ、国内施策であるGoToトラベルですら、開始して数ヶ月で「一時停止」して、そのまま1年半が経つという状況ですから。

こうしたジレンマの中で、検討できるのではと思っているのが「おかえりなさいキャンペーン」です。

これは、以下のような仕様イメージとなります。

  1. 「開国」確率の高い期間(例:2022年9月1日〜11月30日)を対象とする
  2. (来訪経験があり、かつ、ロイヤルティの高い/発信力のある)リピーターを対象とした「モニター」型にする
  3. 地域レベルで連携し、特別プログラム(宿泊プラン、イベント、体験など)を造成する
  4. 開国しなかった/早まった場合のプランB,Cを用意しておく(キャンセルポリシー含む)
  5. 医療機関や保険会社などと連携し、万が一の罹患時への対応体制をアピールできるようにする

こうしたキャンペーン仕様であれば、開国の正式発表前から募集を始められますし、対象顧客とのコミュニケーション手段が確立されるため、仮に、開国タイミングがずれたとしても次善策を展開することが可能となります(例:オンライン・ツアーの展開、ギフトの送付)。

モニター的な扱いとすることで、訪日前からモニタリング、コミュニケーションできるようにしておくことが鍵となります。

仮に、このキャンペーンを実施する場合、留意して欲しい事項は以下。

  1. 安売り設定しない
  2. 過度に枠をつくらない(部屋数を限定する)
  3. 地元住民と丁寧なコミュニケーションを取る

「いざ開国」となった時、人数確保のために価格競争が生じる恐れがあります。特に初期は、国が開国しても航空路線が持たないので、人数は限定されており、取り合いになりかねません。

もともと、日本は「安い」デスティネーションであり、かつ、現在は異常な水準まで円安が進んでいるのですから、安売りをする必要は一切ありません。むしろ、訪日客には国内客よりも高めの価格設定をしても良いくらいです。

ただ、単純に値上げをして割高感が出てしまうのは避けるべきです。その回避先として、特別なイベントや体験プログラムなどを組み合わせるということが求められるわけです。そうすれば裸の価格が露出せず、かつ、それらの内容を地域ブランド強化のベクトル上で揃えることで、ブランド強化にも繋がります。

2点目は、開国となっても、訪日客にいきなりのめり込まないということです。COVID-19は終息したわけではありません。また、検疫体制は政治的、情緒的な事情で簡単に推移するということは、過去2年で学んできたことでもあります。そのため、仮に国が相手も、それが一本調子で拡大していくとは限りません。GoToトラベルをあてこんで、予約をどんときたものの、その後の陽性者増大で、一気にキャンセルされた…という経験は大切にすべきでしょう。

また、域外客に対するわだかまりが残っている地域もある中、いきなり、外国人が大挙して押し寄せてきたら、住民感情を刺激することは必至です。

そこで、このキャンペーンに拠出する部屋等には、一定のキャップをかけ、コミュニティへのハレーションを抑えつつ、仮にキャンセルされたとしても事業へのダメージが甚大なものにはならないようにしておく必要があります。このへんの塩梅は、各事業者次第ではありますが、地域において、ある程度の目安水準は決めておいたほうが良いでしょう。

3点目も重要な視点です。観光業界は、自身をコロナ禍の犠牲者と捉える傾向にあります。これは間違ってはいませんが、多くの一般の人々も、閉塞した先の見えない生活を送ってきましたし、今でも恐怖を感じている人達は多くいます。また、もともと観光振興に否定的な立場出会った人々も一定数いるでしょう。

コロナ禍前は、空前のインバウンドブームがあり、マスメディアも含め肯定的な論調で扱われてきましたが、それは過去のことだと認識する必要があります。「政府が国を開けたのだから」ということを旗印に、訪日客誘致に邁進するようなことになれば、コミュニティとのハレーションは取り返しのつかないものとなりかねません。

訪日対応については、開けつつある市場に、仕掛けは投げ込みつつ、状況に応じて対応を変えていくという取り組みが、当面、必要なのだと思います。

Share