再燃するオーバーツーリズム
パンデミック後の急速な人の戻りとパンデミック中の穏やかな生活とのギャップもあり、オーバーツーリズムが、再度、叫ばれるようになっています。
ただ、これは、2つの事象が合わさっています。
A.絶対的な人数が多い場合
B.来訪者のマナーが悪い場合
Aについては、バルセロナやベネチアが顕著ですが、それでも
・特定の時間帯(曜日・シーズン)
・特定の地域
の話であって、都市全体が大混乱となっているわけではないです。
これは、国内で言えば京都市なんかもそうですね。
Aについての海外の対応は、入域税をかける(特に日帰り客の抑制=クルーズ客を含む)というのが増えてきてて、強権発動としてクルーズ船の寄港を止めるというのがあります(アムステルダム)。
ただ、実は、Aは本質的な問題ではない…と私は思っています。
アムステルダムは、強権発動しましたが、そもそもアムステルダムは「飾り窓」などの文化があるところで、イギリス人が「乱痴気騒ぎ」に訪れる場所でした。
ある意味、それで「食べていた」観光地だったのですが、パンデミック中に地域は「静かな時間」を経験してしまった。対して、顧客側は、パンデミック中の抑圧が強かったために、エンデミックにおいては、リベンジ消費となり、従前よりも一層と羽目を外し「旅の恥は掻き捨て」状態が横行していたのだと思います。
※2022年から、アムステルダム&イギリス人の問題についてはコラムが出ています。
つまり、地域とのハレーションを生じさせやすいのはBと考えられるのですが、量が少ない間は、まぁ、なんとかなっていた。が、人数が増えると、Bに起因する問題が臨界点を超え、社会にとっての大問題として扱われるようになる。その時にはA状態になっているから、問題はAなのだと思われてしまう。
ただ、これには、もう一つ、違う見方もあります。
Aは人数に起因するから、人数が多すぎるー>「オーバー」ツーリズムということになる。
A問題は、前述のように着地側での制御について具体策があるのに対し、B問題は、来訪者の意識と行動の問題であり、着地側が制御することは難しい。そのため、A問題を「問題」として捉えるという考え方です。
これは、問題のすり替えなんですが、実際、量を減らせば、Bに起因する問題の総量も減るから、対応できた…ということにもなる。でも、それが本質的な問題解決となるのか?という疑問は残ります。仮にそれが本質的な問題解決なのだとしたら、観光は集客してはいけないという話にもなります。
観光施策の展開を批判したい人の「錦の御旗」とされてしまうかもしれない。
とはいえ。B問題への対応は難しい。
B問題への対処としては、来訪者に意識や行動を正してもらうことになりますが、政府観光局などが、どんなにマナー向上を呼びかけても、SNS時代の顧客に届くはずは無いし、そもそもの旅行目的が「それ」であるのですから、顧客が変えるはずもないという現実があります。
実は、ハワイも同様の問題に直面しています。
ハワイは世界的大流行中に、「リジェネラブル」として、Bの対策に乗り出しましたが、(あくまでも私の個人的見解ですが)メインランドから来る来訪者には、全く、刺さっていません。
それでいて、人数が急激の回復してしまったために、地元コミュニティは大反発。
怒りの矛先は、DMO(ハワイの場合はHTA)に向かっている状態です。
細いながらも顧客とのパイプを持っていたDMOを解体して、どうやってメッセージを伝えるんだ?というのが素朴な疑問ですが、ともかく、住民は「怒って」おり、その怒りが政治にも及ぶようになっています。
対策として、パンデミック中から、ハナウマ湾やダイヤモンドヘッドはA対策として、人数制限、有料化(ハナウマ湾は断続的に値上げ)し、一部のビーチについては公式ページから観光スポットとしての掲載が無くすなどの対策を行っています。
しかしながら、先日、ハワイにいってきた印象で言えば、米国本土人の身勝手な行動は、全く、変わっていませんでした。
これを見る限り、人数抑制は強権発動でできるけど、それはB対策につながるわけじゃないなということ。
他方、深刻な副作用も起きています。
ハワイのリジェネラブルのメッセージは、(真面目な)日本人にはメッチャ刺さります。ハワイ好きな人ほど、ハワイに行くのは止めておこうという意識を高めることになります。ただでさえ、旅行費用が高騰しており、回復は遅れる傾向にあります。
着地に対する意識
このハワイの例を見ていると、B問題は、着地✕訪問者属性によって生じるものだと考えることが出来ます。
先のアムステルダムで言えば「飾り窓」は、一つの観光資源ですが、それがあるから行こうという人もいれば、そんなのがあるなら避けようと思う人も居ます。なかには、純粋に文化的な面白さで惹かれるという人も居るでしょう。
で、問題が起きるのは、言うまでもなく「それがあるから行こう」という人たち。
こういう「旅の恥は掻き捨て」的な意識で旅行したい人たちが、それができる(できそうな)旅行先を選んだ結果であるわけです。
逆に「文化」として惹かれる人ばかりであれば、人数が増えてもB問題は起きにくいでしょう。
こう考えると、B問題というのは、来訪者が旅行先をどのように認識しているのか、もっと言えば、旅行先を「下」に見ているか否かということに起因しているのではないでしょうか。
例えば、日本人は、ハワイにとってはマナーを守る上客だけど、沖縄では、必ずしもそうではない。もちろん、ハワイに行っている日本人と、沖縄に行っている日本人が完全に重なるわけじゃないけど、日本人にとってハワイは、アメリカであり、海外であり、憧れの場所。対して、沖縄は自然は素晴らしいけど、国内でも所得水準の低い辺境と見ている人は少なくない(でしょう)。
こうした着地に対する意識は、そのまま、現地での行動にも繋がっていく。
ハワイにおいて、米国本土の人々が野放図なのも、米国内でもハワイは「下」の地域であるという潜在的な意識に基づくのだと考えればスッキリします。
先のアムステルダムの例も、イギリス人が欧州の中でも安価な旅行先であるオランダ、スペイン、イタリアなどを「下」に見ていると考えれば説明がつく。
構造的な問題を含む
もともと、観光は、経済力の強いところから弱いところへの移動が主体です。経済力が強くなければ旅行費用を確保できないし、経済力の低い地域は、地域が持つ自然や文化に、労働力を投入することで観光を成立させ収益を確保しようとするからです。
そのため、こうした上下関係意識が生じやすい。
訪日する中国人でも、問題を起こしやすいのは、自分たちは経済力で日本を抜いたという意識が強いセグメントの人達でしょうし、一方で、アニメなど日本文化にあこがれて来訪している人たちは、A問題は起こしても、B問題は起こしにくい(無知によって起こす場合はあるが、敬意があるので、話せば伝わりやすい)でしょう。
日本人同士の「土下座問題」なんかもそうですが、結局は、相手が「下」だと思うと増長する人たちは多い。しかも、少々、羽目を外しても、それに対する罰則が乏しいと、さらに増長します。
富裕層誘致は状況悪化リスクもある
このように考えると、近年、主張されることが多い「富裕層を呼ぶことが重要」という話が、オーバーツーリズム問題を激化させるかも…という危惧もでます。
基本、収入≒社会的地位≒学歴≒社会モラルの関係性は成立するので、いわゆる富裕層は自律的な行動をとってくれるという期待は持てます。
が、それは、あくまでも「彼ら」が着地に対して敬意を感じてくれるということが前提となります。
学歴が高く、社会的地位が高い人達は、自身の「努力の結果」が今の自分の位置を作っていると認識する傾向にあります。そうした人達は、自分たちと同様に「努力し成果を出している」人には(人種や性別などに関係なく)尊重するのに対し、そうでない人にはとことん冷淡です。
声高に人権を叫ぶのに、隣のブロックにいる怠惰が故にホームレスとなった人には冷淡だということです。
闇雲に富裕層誘致に取り組んでも、その地域の取り組みが、彼らの眼鏡にかなうものになっていなければ、敬意の対象とならず、搾取の対象となる可能性すらあるということです。
さらに、いわゆる「成金」の人達は、先に示した構造式が成立しません。
むしろ、「自分が豊かになった」ことを確認したいための消費活動(ディスプレイ消費)ですから、不輸送を呼ぶほど、地域とのハレーションは拡大することにもなります。
CRMへの展開
日本では、ようやく、宿泊者拒否ができるようになりましたが、これだけでは不十分だと思っています。
宿泊拒否は、排除を目指したディス・インセンティブですが、それだけでは、量を減らすだけで担ってしまうからです。ディス・インセンティブを展開するなら、インセンティブ施策も展開すべきでしょう。
AirBnBなどのシェアリング・エコノミー陣営では、ホストが顧客から評価されるだけでなく、顧客もホストから評価される双方向性が基軸となっています。もともと、サービスは、両者の共創によって付加価値向上されるものであり、サービス・ドミナント・ロジックの基本セオリーに沿った取り組みであると思います。
こうした仕組みがあれば、ちゃんと旅行先に敬意を払える、自律的な行動が出来る顧客にはインセンティブを与えることが可能となります。それは、結果として、B問題の抑制も繋がっていくことになるでしょう。
ハワイの戦艦ミズーリには、清掃ボランティア・プログラムがあるのですが、それに参加した人々にはバッチが渡され、それがあると特別価格でグッズなどを購入することができます。これは、(私の知る限り)ミズーリ単体のプログラムですが、例えば、これをハワイ全体に広げ「善行」をした人には、ポイント付与し、それによって「中の人」に近い存在となれる…といった展開ができたら、地域と来訪者の関係を強める一助になるのではないでしょうか。
オーバーツーリズムの抑制には、排除の論理ではなく、インセンティブ付与に寄るファンやサポーターの育成が重要なのではないかと各地の事例をみていて感じています。