公務員時代に取り組んだものの一つに、空間とサービスとの連動があります。
私はもともと、CSやロイヤルティを研究フィールドにしていましたが、では、それはどのように高めていけるのかという点については、大きな課題になっていました。
サービスは製品と異なり、姿や形がありません。また、在庫を持つことが出来ず、生産と消費が同時に行われます。さらに、そのやりとりは顧客と従業員の相対的な関係性に大きく依存します。これらはIHIP特性と呼ばれますが、これらは、サービス品質は、提供される顧客の意識によって評価が異なるということを意味しています。
そのため、サービス品質は、正確には知覚サービス品質(Perceived Service Quality)を呼ばれます。つまり、サービスの品質は、絶対的なものではなく、顧客の主観によって左右されるわけです。
知覚サービス品質は、CSやロイヤルティ形成の基礎となるものですが、その基礎部分が、顧客側の意識にゆだねられる部分が多いとなると、供給者側はCSやロイヤルティ形成を主体的に促す事が難しくなります。
さらに、研究を進めていくと、事前の期待の大きさが知覚サービス品質を介してCS、ロイヤルティへ影響することが解ってきました。
すなわち、事前に高い期待を持った人は知覚サービス品質の評価も高まり、期待が低い人は知覚サービス品質も低いということです。
ここから見えてくることは、供給側は、顧客の事前期待を高めることで、CSやロイヤルティを高める事に繋がるということです。
※この整理が、ブランディングへの注目へと繋がっていきます。
では、どのように事前期待を高めるのか。
一つは、別項で示したように、魅力的な現地での「経験」を具体的に示すことです。これによって、顧客は、「ここに出かけて、こういう経験をしたい」と期待を高めてもらえるからです。
ただ、これは旅行先を決定させるには有効ですが、現地への来訪後(滞在中)は、必ずしも有効ではありません。前述のように、IHIP特性によって、現地での実際の経験は顧客の主観や偶然性が左右する部分が大きいからです。
この変動幅、特にマイナス幅を抑えていくことが、求められます。
そこで注目したのが「サービススケープ」という概念です。
これは、視覚から入った情報によって、顧客がそこで受けるサービスに対する期待/評価を誘導するという考え方です。
例えば、我々は、立派な設えのホテルロビーに入れば「ここでは、きめ細かいサービスを提供してくれるのだろう」と考え、自然と落ち着いた行動となり、スタッフなどとのやりとりもそれをふまえたものとなるでしょう。逆に、手狭でシンプルな造りのホテルロビーであれば、機能性のみに注目し、手厚い人的サービスは期待しないでしょう。
このように、本来、目に見えないサービスが、それを提供する空間の設えによって、見えるようになります。これがサービススケープの考え方です。
空間の設えは、供給者側が設計し整備することが可能であり、一度、整備すれば中長期的に同じ価値を提供出来ます。
つまり、知覚サービス品質という、極めて不安定なものを、供給者主体の安定的なものへと転換させる可能性を有しています。
サービススケープは、従来、レストランやホテルなど、単体施設、狭い空間を対象に論じられていましたが、町という空間においても有効なのではないか?と考えていました。
すなわち、顧客に積極的に滞在してもらい、消費してもらうためには、目に見えないサービスを充実させるだけでなく、空間の作り方も重要なのではないかということです。
この課題意識をふまえ、経産省において調査事業として展開したのが「国内の観光リゾート地等における空間構成及びサービス業集積状況調査」となります。
これについては、トラベルボイスにて概略が出ていますので、こちらから参照いただくとよいかと。
旅行者の消費が活発な観光地の傾向は? 「街の見た目」と「店舗・飲食店の配置バランス」がポイントに ―経済産業省
限られた時間内での調査でもあり、学術的な検証に耐えられるようなレベルでの分析は出来ていませんが、概ね、当方の仮説を裏付ける結果が得られました。
このことは、観光はサービスではあるが、ハードとしての空間整備もセット行っていく事の重要性を示す物となりました。