観光を地域振興の手段としていく場合、よく言われるのは「地産地消」の推進である。
これは、地域で産出されたものを、地域で消費しようという取り組みであり、農作物を対象に1981年の「地域内食生活向上対策事業」で取り上げられた概念とされる。
当時の概念は、健康のためにはバランスの良い食生活が重要だが、必ずしも地域内の農産物はバランスが取れたものではなく、かといって、移入に頼ると食費がかさむことになるため、地域内で足りない農作物を生産しようという「地産地消による食生活の向上」が目的とされていた。
その後、輸入食物の流通拡大もあり、安価に食物が入手できるようになると、地産地消は「顔の見える生産者から安全・安心な農作物を得よう」という運動へと変化する。これは価格競争力が低下した国内産品を、質という視点から捉え直すことで競争力を持たせようとするある種のマーケティング施策である。
この流れが2000年代に入ると、観光振興と合流していくことになる。
例えば、2006年には「地産地消による観光地づくり」という資料が観光庁より出されている。
この背景には、観光が地域性を重視するような方向へと進み、特に日本では、地域ならではの「食」が強いコンテンツへと変わってきたことがある。
- 20世紀には「名物に美味い物無し」と言われていたにも関わらず、21世紀に入ると食がブレークしたのは、飲食店事業が激しい競争の中で価値を高めたという供給側の変化と、高齢化という需要側の変化があるのではないかと思っているが、それはまた後日。
さらに、観光消費による経済波及効果は、3つの要素で決定される。
それは、人数、単価、域内調達率である。
人数と単価は、地域の観光特性とマーケティング(ブランディング)で定まる競争環境にある。
つまり、顧客(観光客)と、競合(地域とは限らない)との相対的な関係性で定まる。これに対して、域内調達率の関係者は、地域内の事業者であり、人数や単価よりも対応しやすいとされる。
つまり、地産地消に注目する、事業上の調達先を域内優先とすることは、観光集客面でも、経済効果面でも有効だと考えられおり、現在では、農作物や食に限らず、土産品、さらには雇用やエネルギーなどにも拡がるようになっている。
ただ、観光消費の波及効果を高める、地域が「稼ぐ」という視点言えば、実は、原材料などの域内調達率よりも重視すべき事がある。
それは、従業員の(根っ子となる)居住地と、消費先である。
なぜなら、多くの業種で、いわゆる「売上原価」よりも、人件費の方が支出額が大きく、かつ、波及効果増大へ繋げられる可能性が高いからだ。
経済「波及」効果は、直接効果から2つのルートで導かれる。
1つは、A社による原材料などの調達が他社(B社)の売上となり、その売上を立てるためにB社がC社からさらに調達する…というB2Bルート。
もう1つは、A社が支払う給与が、従業員の所得なり、それが新たな消費となっており連鎖していくというB2Cルートである。
なお、B社の売上は資材調達と人件費に別れるので、B2BルートとB2Cルートはクロスする。
ただ、物流が発達している現在、B2Bルートを域内に留める/波及効果を高めるのは限界がある。例えば、地域で生産された農作物であっても、それを育てるための肥料や農機具は、通常、地域外からの移入であろう。
これに対し、個人消費は、地域内での循環を作りやすい。仮に移入品ばかりのスーパーで買い物をしたとしても、そこに働いている人が得た給与をもとに地域内で消費をしてくれれば連鎖していくことになるからだ。
ただ、一方で、観光事業で働く人達が域外からのアルバイトであったり、仮に住民であっても地域内に消費する場が無ければ、経済効果は拡がらず、地域が「稼ぐ」ことは出来ない。
つまり、資材調達の域内調達率をあげること同様に、または、それ以上に重要なのは、地域に根ざした雇用をつくり、住民達も地域内で消費をしていくこととなる。
人手不足が顕在化する中、雇用を確保するには住宅制約や福祉、教育政策を連動させて行く必要があるだろう。また、消費についても、アマゾンなどの通販が拡大する中、住民の地域内で消費は、観光客のそれと同様に、サービス(コト)消費を主体となっていくだろう。
このことは、地域政策として観光を考える場合、地域経済自体をサービス経済へ対応した形へと転化させていくことの重要性を示している。