いわゆる第3波が襲来しています。

第1波、第2波と異なり、感染拡大から数週間が経ってもピークアウトの様子は見られず、高止まりする傾向が続いています。これにより、社会的なストレスは極度に高まり、比例してGoToトラベル・キャンペーンへの風当たりも強まっています。

ただ、もともと、冬になれば感染拡大は生じるというのは、疫学系の専門家からは指摘がなされていました。それを受け、私が春や夏に出した「展望」においても、11月くらいからの感染拡大は一つのシナリオとして提示していました。例えば、5月22日のトラベルボイスLiveでは、以下の展望を示しています。

推測が当たったと喜べる状況ではありませんが、感染症に対しては門外漢の私が推測できたことに近い形で、事態は推移しているわけで、いわゆる「想定外」ではありません。

冬になれば、感染が再拡大すると言われる理由は、呼吸器系の感染症は、気温や湿度が感染拡大に影響することが、これまでの研究で明らかになっていたためです。例えば、インフルエンザは平均気温10度以下、湿度50%以下、水蒸気圧6ヘクトパスカル以下で感染拡大するという指摘があります(「気象と感染症流行の相関に関する研究第二報 -インフルエンザ流行の拡大因子は気温か、湿度か、その他か-」庄司, 1988)。

現在の「事態」を正しく理解するには、まず、こうした関係性が新型コロナにおいても成立するのか否かを明らかにすることが必要だと思いますが、なぜか、そういう整理に遭遇したことがありません。

そこで、自分でやってみました。

使ったデータは、気象庁の気象観測データ(日別平均気温、日別最低気温、日別平均水蒸気圧)と、各自治体が発表している日別の陽性確認者数。期間は9月1日〜12月12日。対象地域は、札幌市、東京都、大阪府、福岡県。ただし、気象観測データは当日を含む過去4日間の移動平均、陽性確認者数は、感染日を2W前と設定。その2W前の日までの1Wの移動平均としたものを利用した。

札幌市

東京都

大阪府

福岡県

平均水蒸気圧の影響

4地域の状況を見てみると、平均気温については、地域によって反応が異なり、共通的な相関は見られませんでした。一方、最低気温は、札幌市を除けば、それなりに法則が見られ、10度くらいに下がると、感染拡大につながる傾向が見えます。

最も共通項的な動きが見られたのは「平均水蒸気圧」でした。

各地域の状況を見てみると、平均水蒸気圧が10ヘクトパスカル前後まで低下すると、急激に陽性確認者数が増えたことがわかります。インフルエンザを対象とした、先の研究では、6ヘクトパスカルがボーダーとされていましたが、新型コロナは10ヘクトパスカルあたりが境目のように見えます。

もちろん「乾燥」だけで感染拡大する訳ではありません。我々はエアコンが効いた室内にいることも多いことを考えれば、気候だけで自動的に増殖するものではないと考えるほうが合理的でしょう。一方で、夏の第2波は、沖縄県から始まったことを考えれば、エアコンによる乾燥が影響していたのかもしれません。

いずれにしても、呼吸器系疾患に関する知見も踏まえれば、第3波と呼ばれる感染拡大と、気象条件が密接な関係にあることは否定できないでしょう。

そう考えれば、現在、政府などが呼びかけているにも関わらず、第1波や第2波のように収束状態に至らないのは、人々は、自粛モードに転換したものの、気象条件がより乾燥する方向に向かっていることで、感染力が高まり、これまでの自粛モードでは対応できなくなっていると整理できます。

これは、感染拡大のペースが鈍ったものの、感染拡大が続いている現状との齟齬もありません。

韓国ソウルでも同様(2020/12/29追記)

勤務先の同僚の協力を得て、韓国ソウルのデータを入手。同様の分析を行ってみました。

結果、ソウルでも、平均水蒸気圧が10を下回ったあたりから、陽性確認者数が急増していることが確認できました。ただ、平均気温(10度)、最低気温(5度)の方がリニアな関係にあるとみることもできます。

平均水蒸気圧よりも、気温のほうが相関度が高い状況は、韓国内他都市でも見られます。この違いの理由については、判然としませんが、いずれにしても、GoToトラベルのような施策の有無ではなく、気象条件の変化が感染拡大に大きく影響しているのだろうということは指摘できる結果となっています。

コミュニケーション問題

つまり、第3波は「来たるべきして発生した」ものと考えるのが合理的でしょう。言い換えれば、GoToトラベル・キャンペーンが感染拡大の主因とは言い難い。おそらく、医療関係者の多くも、そのことは認識しているでしょう。

しかしながら、社会的には「GoToトラベル」が元凶のように指摘される傾向が続いています。

この原因は、観光と社会とのコミュニケーション不足にあると私は考えています。

7月末から始まったGoToトラベル・キャンペーンですが、実際に、これを利用して人々がグッと動き出したのは9月下旬。10月に入ると東京都も解禁となり、さらに、地域共通クーポンも動き出すことで、その勢いは増していきます。

これによってGW、夏休みの需要を逸していた観光業界は、ようやく一息つける状態となりました。これは、経済面では、喜ばしいことではありましたが、感染が終息しているわけではないのに、なぜ?という疑問は、棘のように社会に残されていました。

もちろん、宿泊施設を始め、多くの施設・地域は、しっかりとした感染症対策を行っていましたが、感染症対策は、顧客との共同作業であり、事業者・地域だけでは展開できません。その意味で、自制的な行動ができる人たち、日常から接触のある人たち(バブル)の旅行を主体とすべきであると私は思いますが、そういう「フィルタリング」を展開した地域は、私の知る限りほとんどありません。

8月頃には「県外者は来訪自粛ください」と言っていた地域も、いつの間にか「誰でもウェルカム」状態になっていってしまいましたし、旅行会社も高齢者のグループ旅行や、民泊を含む修学旅行を復活させていきました。

また、各種交通機関も当初はディスタンシングの関係で、稼働率に制限をかけていたものの、満席での運行も再開。単に同乗しているだけであれば、感染拡大する可能性は低い…というのは科学的な話ではありますが、不特定多数の人々が、一つの空間に集まるという「姿」がもたらす視覚情報のインパクトは少なくありません。

政府についても、コロナ禍は終息していないのですから、いずれ、GoToトラベルと感染との関係性について問われる時が出てくることは自明であったのに、それに耐えるようなデータ収集の枠組みも設定されていない。ココアについても、義務化などの措置をとっていない。

これら一つ一つは、その場の状況の中での判断として「間違い」とは言えませんが、それらが総体として積み重なることで、観光がコロナ禍に無頓着に、その活動を再起動させているとの印象を、社会に与えてしまったことは否めません。それでも、GoToへの批判が抑制されていたのは、感染が一時的な収束状態にあったためでしたが、それが第3波によって崩されると、根拠を失い、「GoToなんかやっているから感染が拡大するのだ」という意見が、社会に広がるのはやむを得ない話でしょう。

多くの人が、コロナ禍で強いストレスを感じています。収入が減った人たちも少なくないでしょう。その中で、GoToで賑わいが形成されることについて、ネガティブな意識を持つ人は居ることは自然なことです。

今となっては、タラレバですが、10月のフルスペックでのGoToトラベル・キャンペーンの展開にあたり、抑制的なオプション(例:利用者のココア義務化とモニタリング、不特定多数グループ旅行の抑制、対象施設への覆面調査)も設定しておけば、こういう事態(悪者にされる)となる前に、風当たりを抑えることもができたかもしれません。

今後の展開

今年上期の気象データを見ると、平均水蒸気圧が10ヘクトパスカルを超えてくるのは、福岡県では1月からありますが、東京や大阪では3月頃、北海道では4月の終わりとなります。

つまり、気象条件を見る限り、本州で2月上旬くらいまで、北海道では4月まで、感染確率を押し上げる状況が続くことになります。しかも、ベースとなる陽性者が多くなっているため、少しでも感染確率が上がれば、陽性者の絶対数は大きく膨れ上がることになります。

これに対するには、夏はもちろん、春も上回るくらいの行動抑制が必要かもしれません。
しかしながら、それは現実的なのでしょうか?

欧州では、強い行動自粛が展開されていますが、それでも、感染を封じ込めることには至っていません(ピークアウトには成功)。

個人的には、ともかく、新型コロナに対応できる医療サービス容量を増やすことに、注力すべきだと思っています。いろいろな制約はあるのでしょうが、自制では収束に持ち込めなくなった現状では、感染拡大へのセーフティーネットを拡充することが、何よりも必要でしょう。前線が支えきれるかどうかは「神のみぞ知る」世界なのですから。

他方、GoToトラベル・キャンペーンについては、コミュニケーションを再構築することが必要となるでしょう。今からでも、視覚的にも感情的にも、そして、論理的にも「限定された旅行での感染リスクは低い」ということを社会に示していくことが求められます。

既に、GoToを止めた札幌市や大阪市、止めていない東京都で、大きな違いが無いこともわかってきています。また、止めていない東京都において、感染速度が減速したことも事実です。また、第1波、第2波と異なり、地方部において、観光に対する理解(未練?)も出てきています。

ただ、感染拡大が暴走している現状、そうした傍証だけでは、うねりのような波は変えることはできないでしょう。

困難ではありますが、一度、各関係者において「ニューノーマルな観光スタイル」ということを、改めて考え、行動し、社会とのコミュニケーションを行っていくべきではないでしょうか。

状況によっては観光側から、一時的な条件強化(例:家族などのバブルのみを取り扱う。会食が生じやすい出張利用拒否を徹底する。旅行前の行動履歴を申告させる。)を提示しても良いでしょう。

コミュニケーションを徹底し、トロッコ問題から脱却することが重要です。

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