東京都は4回目の緊急事態宣言突入ですが、有効なワクチンの開発と普及により、COVID-19によるコロナ禍の終焉は見え始めています。

欧米では、経済的にもライフスタイル的に重要な「バケーション」シーズンを動かすべく、官民の取り組みが展開されており、各種のイベント制限の解除、健康パスポートの普及、実用化も進んできています。

日本は、オリパラという変数があり、かつ、もともと「死亡者数」ではなく「新規陽性者数」をKPIにしてきたことに加え、「バケーション」に対する社会的認知も違いため、コロナ禍が収束するには、もう少し時間がかかるでしょうが、それでも、終わりが見えてきているのは事実でしょう。

では、コロナ禍が収束したら「元に戻る」のか?と言えば、そうはならないでしょう。

ここでは、ポスト・コロナにおいて生じてくるであろう5つの変化について、宿泊事業を軸に整理をしておきます。

1.観光市場の世代交代が起きる

これについては、既に投稿済みの話です。

日本では、団塊世代や少子化の関係で、ここ10年余、高齢者が観光市場を支えてきましたが、世代交代は確実に生じています。

既に市場の中心はミレニアム/Z世代に変化し、これからの成長においても、これら世代が主体になっていくことは、ほぼ確実です。

Gen.Xとミレニアム(Gen.Y)以下では、デジタル社会との関係性において大きな違いあり、価値観、意識、行動も大きな違いが生じてきます。

現在、レスポンシブとかサスティナブルという言葉が多用されるようになっていますが、これらの概念も、こうした世代論と密接な関係があります。

「自分が若い時には、こんな感じだった」では通じないということを意識し、自身の経験や思い込みではなく、対象顧客に直接尋ね、彼らの価値観、意識、行動を理解し、対応策を考えていくことが必要でしょう。

2.旅行する人としない人の差が拡がる

第2の変化は、宿泊観光旅行を実施できる人が減るだろうということです。

基本的に、従来、日本では国民の半数しか年に1度以上、宿泊観光旅行をしていません。宿泊観光旅行を実施するか否かのボーダーは、世帯年収で整理でき、それは概ね500万円程度です。

一方で、国民の3割が、年に2回以上、宿泊観光旅行に出ており彼らの旅行需要によって、全体の宿泊需要の8割以上を占めています。

現在は、政府の大規模な財政出動もあり、経済状況は(不自然な)均衡を保っていますが、GDPの大幅減少が示すように、当面、景気は低空飛行が続くことになるでしょう。

景気の悪化は、人々の所得を直撃することになりますが、今回のコロナ禍は経済全体を直撃とするものではなく、業種によって大きな違いがあります。所得が変わらない人々は、コロナ禍の収束に伴い観光旅行を再開していく(一時的にはリベンジ消費に寄る嵩上げもある)ことになるでしょうが、所得が減少する人々は、好例の観光旅行を短期化したり、取りやめたりすることになるでしょう。

そうしたまだら模様の市場構造となりますから、地域/事業者側では、アフターコロナでも旅行を続ける意思と財力をもった人々を見い出し、確保していくことが必要となります。

例えば、年金受給者は所得が維持されますから、リベンジ消費と絡めた三世代旅行が盛り上がるかもしれません。

また、好調業種の企業においては、断絶した関係性を取り戻すため、インセンティブ旅行を復活させることでしょう。ゴルフ・コンペのような集まりも多く開催されることになるとも考えられます。

ただ、それらは、おそらく、コロナ以前のものとは異なる部分が出てくるでしょう。その変化点を見つけることも重要となります。

3.滞在スタイルの拡張が起きる

コロナ禍において多くの人々が体験したのは、テレワークを含むオンライン・コミュニケーションです。

少し前であれば、それこそSFの世界と考えられていたコミュニケーションを(半強制的に)体験することとなりました。IT系企業では「出社しないのが通常」となった事業者もあり、その他企業でも、既に事業フロアの削減に乗り出している事業者もあり、遠隔地での就労という流れは不可逆的なものとなっています。

これまで国内旅行は、日帰りや1泊旅行が主体で、いわゆる長期滞在需要は、なかなか顕在化しませんでした。この理由は様々に指摘されてきましたし、延泊化の取り組みもされてきましたが、結局、平均泊数は1.2泊からピクリとも動きませんでした。

が、就労形態がいきなり、かつ、半強制的にリモート化されたことで「仕事の都合」「休暇が取りにくい」という問題は、大きく改善可能となりました。

もちろん「先立つもの」は、必要となりますし、全ての就労(業種)で可能なものではありませんが、ワーケーション/ブリージャー的な旅行形態はポスト・コロナにおいても定着、拡大していくことが期待できます。

こうした状況変化によって、観光は、これまでのように一時的な刺激を求める非日常から、日常生活の側面を持ちながら、より快適、理想的な生活を実現する手段として滞在先を選ぶという側面が出てくると考えられます。

私は、この変化によって、これまでの観光が、いわば、日常とは切り離された仮想現実(VR)的な世界を作り出そうとしてきたのに対し、今後は、日常をアップグレードするいわば、拡張現実(AR)的な世界に拡がりを見せるのではないかと考えています。

もともと、リゾートは、非日常というより、家族との時間や趣味の時間を充実させるという意味で、本来の日常を取り戻す、理想とする日常を実現させるという側面がありました。その軸線で考えれば、はからずもコロナ禍に寄ってリゾート需要が顕在化することになるかもしれません。

4.強いところと弱いところの差が拡がる

とはいえ、インバウンド需要が2019年レベルに戻るには、数年の時間が必要。国内需要も総量としてみれば減ることはあっても、増えることは難しい。

となると、2000年代のように市場縮小の時代を迎えることになります。

市場縮小期は、強いところと弱いところの差が付きやすくなります。

弱いところは、価格を下げて集客を維持しようとするため、市場は混乱することになります。端的に言えば、2ー3割くらいのところは、勝ち組として堅調に推移する一方で、残り地域は価格下落 AND/OR 客数減のダブルで苦しむことになります。

市場縮小期には既存顧客の評価が重要な意味を持つため、「勝ち組」となれるか否かは、「これから」というより「これまで」に依存するところが多いのが実情です。コロナ禍の1年余でも、顧客に評価され、信頼されているところと、そうでないところの差が見えましたが、これが、今後、更に強まっていくと考えておくべきでしょう。

「勝ち組」になれない場合、単純に量を求めていくと、際限ない価格競争に巻き込まれ、それに伴う経費カットは、更に評価を落とすことに繋がります。競争戦略上、価格競争は「経営資源を持っている」強者の戦略であり、弱者が選択することは、甚大な影響を受けることになります。

自身が市場の中で、相対的にどのポジションにいるのかを見極め、ニッチャーまたはフォロワー戦略のいずれかを選択肢、実施していくことが必要となるでしょう。

5.異業種からの参入が起きる

そのポジショニング検討における「変数」として考慮しておかなければならないのは、異業種からの参入です。

コロナ禍で痛めつけられ、大きな被害をうけたホスピタリティ産業に新規参入?と違和感があるかもしれませんが、現在のビジネスは「利回り」で損得が計算される世界です。

コロナ禍によって痛めつけられたということは、それだけ資産価値が下がったということを意味しています。加えて、オリパラが誘導してきた建設投資も息切れをおこなしているため建設工事費も一息ついています。新規資産を取得し、新規事業を展開するには好適で、資金を持った事業者からすれば「買い」のタイミングとなります。

更に、「モノやサービスが売れない」時代に突入した現在。各社は、自身のブランディングのために、顧客とのタッチポイントを増やそうとしています。「宿泊サービス」は、そのタッチポイントとなるのではないかと、大きな注目を集めてきています。例えば、ブルガリも全世界にホテルを広げつつありますが、国内でも無印良品は銀座にホテルをつくりましたし、スノーピークも本格的なリゾート施設の建設に取り組むことを発表しました。これらは、「モノ」の販売(提供)にとどまらず、自社が重要と考えているコンセプト、ライフスタイルを伝える手段として、宿泊サービスが選ばれるようになっていることが理由です。

2000年代の異業種参入は、「価格破壊」的なアプローチが主体でしたが、これからの異業種参入は、独自のストーリー、世界観を持った事業者の参入となっていくことになります。

これは、宿泊サービスの競争環境を変えていくことになるでしょう。

ポスト・コロナは直ぐには来ない

ここで、一つ認識しておきたいのは、コロナ禍が終了が、即、ポスト・コロナの世界とはならないことです。

この秋以降、おそらくは、GoToトラベルの再開があるでしょう。

また、部分的にせよ、インバウンドについても再開されていくことになると思います。

これに伴い「リベンジ消費」の波が、国内観光を急速に覆うことになります。

が、問題は、その「波」は、持続するものではないということです。その波が過ぎた後が、本当の「ポスト・コロナ」となります。

その「波」にうまく乗り、傷んだ財務、人事を修復しつつ、波の後の世界に備えた戦略を展開していくことが、ポスト・コロナを生き延びていくのに重要となるでしょう。

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