本記事は、私が事務局をしている「観光地マーケティング研究会(http://cs-t.jp )」のMLに投稿したものです。(一部、アレンジしています)
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先日、ダウンロードと絡めた投稿をしましたが、それに関連して、音楽CDの話にふれた記事があったので、ご紹介します。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/hot/20090811_308311.html
確かに、こちらオーランドで生活していて、この筆者の指摘は実感できます。ウォルマートやベストバイで、DVD、CDは売っていますが、これらは家族向けが対象で、日本で言えばジャスコなどで売っているのと変わりません。レコード専門店のような店舗は確認できませんし、実際、amazonなり iTunesStoreがあれば、それで十分という状態です。
敢えて、本MLでこの記事を取り上げたのは、旅行についても、実は同じ事がおきているのではないか?という事です。
CDが、テーマに沿ってパッケージングされた商品であるとすれば、それは、旅行会社のパッケージ商品も同様でしょう。そして、音楽がダウンロード販売に転化したように、旅行もまた、ダイナミックパッケージのように顧客が嗜好に合わせて選択する形へと転化してきています。
これは、自由度の増大と価格の下落という点で、顧客の利便性向上に繋がっていますが、製品(サービス)の価値創造という点から見ると課題もあります。
価値連鎖、バリューチェーンの考え方で言えば、リソース(音楽であれば楽曲、観光であれば観光資源・施設)が、パッケージング(CDアルバム化、旅行商品化)され、デリバリー(販売、サービス提供)されるという流れがあります。ダウンロード販売の増大は、リソースとデリバリーを直結させ、かつ、デリバリーにかかるコストを著しく低減させています。これによって、前述のようなメリットが生じている一方で、本来、リソースの価値を相乗的に高める機能を担っていた(はずの)パッケージング機能がすぽっと抜けてしまうことになりました。つまり、バリューチェーンが、価値を高めるように動かなくなってしまっているのです。
これが、参考記事の中で筆者が指摘している「エコシステムの維持を困難に」という事に繋がります。
まぁ、CDアルバムがそうであったように、旅行商品が造成する旅行商品が、必ずしも「相乗的に価値を高める」ものとはなっていなかったとは思います。だからこそ、テクノロジの発展の中で、顧客はダウンロード販売システムの利用を選択していったのでしょう。
ただ、この新モデル(リソースをバラバラにして、必要なところだけを、選択される)では、ばら売りなので、価値を高めることが難しく、結果、価格の下落圧力のみが高まることになりやすい。音楽CDと同様に、この動きは不可逆と考えて良いでしょう。
では、この新モデルの中で、価値を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。
音楽の場合は、その一つの解が「ライブ」にあったわけです。ライブを考えてみると解りますが、ライブは単に音楽を聴いているだけの時間ではありません。2 時間なら2時間という時間の中に身を置くことで、例えば、親しい人と一緒に時間を過ごす、光や映像と音楽が一体になった空間を感じる、アーティストや他の観客と一体感を感じる、聴覚だけでない総合的な「経験」をパッケージングされて体験しているのです。
こうした「経験」は、1つ1つを分解することは難しいですし、仮に出来たとしても、その単体では価値を持たないことが一般的です。つまり、因数分解できない形でパッケージされているわけです。
観光の場合も、同様の事が考えられるのでは無いでしょうか。
例えば、CS研究をしていると、個別満足度の積み上げによる説明力は50%程度にとどまり、その他、見えない部分が存在しています。これは、個人の嗜好や、経験、施設に対する信頼感などが背景にあるとされ、研究が進められていますが、個別ではなく、全体として見たときには、異なる感じ方が存在していることに違いはありません。
このことを考えれば、前述したバリューチェーンで言えば、リソースレベルにパッケージング機能を入れ込み、ホテルや観光地単体で、因数分解できない魅力的な活動、経験を提供していくことが重要なのではないかと思います。
それは、テーマ性ということなのではないか。と思いますが。この議論はまた後日。