ブランディングは、マーケティングの一つと整理する事もできます。実際、ブランディング活動も、マーケティング活動も、実際の内容自体は大きく変わりません。

ただ、発想という点では両者は、かなり異なります。

市場調査や来訪者調査をしてみると解りますが、地域(や施設)と観光客との関係は、かなり偏在したものになります。「2割の地域から8割の人が集まっている」といったものです。

これは「パレート分布」と呼ばれる現象です。
一見、非常にアンバランスで、特殊な状態に見えるパレート分布ですが、実際には、ほとんどの事象が、このパレート分布となっています。

マーケティング発想は「自身が効率的に勝てる市場を見出し獲得する」事にあるので、このパレート分布を分析し、前述の「2割の地域」を見つけ出し、その地域をターゲットにする…という展開をとります。ABC分析は、その典型例です。

これは限られた経営資源を有効に活用するという点で、合理的な手法です。

ただ、実際の現場に入り展開してみると、この手法には限界があると感じていました。
なぜなら、観光が移動を伴うものである以上、距離の壁は歴然と存在し、結果、マジョリティは近接地域となるのが自明だからです。つまり、近傍市場を確実に獲得するというのが、多くの地域にとってベストな選択となります。

これはその地域にとっての「個別最適」かもしれませんが、国などより広域で考えれば、非効率な状態です。
なぜなら、仮に、グローバルに戦える「ストーリー」を持っていても、敢えて国際競争には出て行かず、ローカル市場においてリーダー戦略を展開する方が合理的な判断となります。これは、インバウンド振興の足かせとなります。

また、その地域としても、国内需要に過度に適合していくと「ガラパゴス」な観光リゾートとなるリスクがあります。そのままでは、国際化の進む中、スマホに駆逐されるガラケーの道を辿ることになります。

さらに、近傍市場では既に需給関係が成立していますから、「これから」観光客を増やしたいという場合、近傍の地域との競争が激化することになります。

現実問題として、観光地の集客数もパレート分布しています。私の分析では、1割の市町村で7割、3割の市町村で9割の宿泊需要を寡占しています。つまり、圧倒的な集客力を持つ1割、準じた2割、その他の7割という構造にあります。各地域は同じスタートラインに立っているのではなく、圧倒的な寡占状態にあるのです。

では、新興市場や、遠距離の人口集積地、はたまた富裕層など「美味しそうな」市場をターゲット設定すれば良いかというと、それは地域にとって難易度の高い取り組みです。

現在、国際的に観光市場は拡大傾向にありますが、それらの市場を獲得するには、地域が、市場が求める経験を、適切な価格、流通にて提供出来る環境を整え、それをプロモーションしていかくことが必要です。

そもそも、「美味しい市場」の嗜好と地域の特性が合致するとは限りません。これを無理矢理あわせようとすれば、地域に多大な負荷をかけますし、嗜好にあわせないまま地域特性を示すだけでは、集客には結びつきません。

仮に、特性が合致したとしても、新規市場の獲得にむけ価格や流通、プロモーションを有効に行う事が必要となります。ただ、どういった価格設定やプロモーションが有効なのかも明確ではありません。

さらに、重要な事は、マーケティング発想は、本質的に競争戦略ですから、同じ特性を持ち、同じ市場を対象とする地域同士は「競合」だということです。つまり、マーケティングを展開すればするほど、競争は激化することになるわけです。

地域振興して欲しいのに、各地がマーケティング強化をすれば、競争が激化していく…というのは、矛盾です。

つづく。

 

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