日本において、DMOとDMCの話が錯綜する原因は「着地型旅行」にあるのではないかと、考えている。

着地型旅行、すなわち、観光地(デスティネーション)において展開される旅行は、2000年代の半ばに観光振興のメインストリームに躍り出て、現在でも、観光振興の手段として高い期待を担っている。そして、この期待が、着地型旅行を充実させ「稼ぐ」ことが、DMOの活動財源、つまり、デスティネーション・マネジメント(DM)の活動財源の確保に繋がる…というように拡張されてきたと考えられるからだ。

着地型旅行自体は、海外にもあるが、少なくとも、私はDMO自身が「稼ぐ」ことを目的に(※1)着地型旅行を商品化し展開している事例は知らない。着地型旅行を展開しているのは、基本、民間の営利事業者である。
※DMOが、バスや美術館などのチケットを販売している事はある。
※1:コメントを受けて加筆しました(2017/08/11)

では、なぜ、我が国において、着地型旅行なる概念が出てきたのだろうか。

この辺を考察するには、21世紀初頭に生じた「体験型」への注目を理解する必要があるだろう。

1997年を境に、国内の宿泊観光旅行市場は縮小傾向へと転じ、2000年代に入ると、各所で厳しい事態へと直面していた。大型旅館の倒産も顕在化し、地方振興の文脈で観光業の振興は政策課題ともなっていった。
例えば、鬼怒川温泉全体が整理回収機構の管理となる原因となった足利銀行の破綻は2003年11月である。

こういう状況の中、盛んに言われたのが「見る観光から体験する観光へ」という話である。

観光行動の多様化は、国際的な潮流であり、グリーンツーリズムやエコツーリズム、アドベンチャーツーリズム、ワインツーリズムといった「新しい」観光は90年代には形作られてきている。
これらは総称してオルタナティブ・ツーリズム(altnetive tourism)とも呼ばれ、従来の「マス」を対象とした観光ではなく、個々に独立した個人の需要に対応した概念として整理された。

国内での「体験する観光」「体験観光」への注目の高まりは、こうした潮流にのったものであり、ある種、必然的な動きであった。

そこで2000年代前半、各地で展開されたのが「体験プログラム」造成の取り組みである。これにより、蕎麦打ちや、自然体験、農業体験などが各地にメニューとして作られるようになった。
地域によっては、造成されたプログラム数を競ったり、誇ったりするような動きも生じた。

しかしながら、造成・商品化されたプログラムの多くは、(採算を維持し継続的に展開する)事業化には至らなかった。端的に言えば、集客数が乏しく、拡がりを見せなかったのである。

2000年代の半ばになると、こうした「売れない」という現状に対する対応策が検討されるようになった。そこで挙がった課題の一つが「旅行会社が扱ってくれない」ということだった。
古典的なマーケティングミックス4Pが示すように、商品を売るには商品(Product)や価格(Price)だけでなく流通(Place)、プロモーション(Promotion)が必要である。しかしながら、地域で作られる体験プログラムには、後者2つの取り組みがかけていることが多く、それを補完出来るのは旅行会社しかなかったからだ。

ただ、旅行会社からすると、収益源となる手数料収入が総額に比例するコミッション型である以上、単価が安く、かつ、小口の体験プログラムへの対応は難しいのが実状。これについて感情的な批判もあったが、企業としての社会的責任はあるとしても、株式会社である以上、赤字と解っている事業への対応には限界があり、結果、修学旅行に組み込めるものや、集客力の高い地域で展開されているものなどを除けば、体験プログラムへの対応は進まなかった。

そこで、注目されたのが、大資本ではなく、パパママ・ストアであることの多い地域の旅行会社であった。パパママ・ストアであれば、大手旅行会社とは異なり、「金儲け」ではなく、地域のために動けるのではないか、また、採算分岐ラインも低いのではないかという期待が背景にあったのだろう。ただ、これらの旅行会社の多くは、供託金など事業ハードルの低い第3種旅行業として登録されており、自身では旅行商品造成は出来ず、代理販売のみに事業範囲が限られていた。そのため、体験プログラムを旅行商品化することは出来なかった。

この状況を踏まえ、第3種旅行業の特例として、隣接市町村までの範囲なら、旅行商品の造成販売を認めるようになったのが2007年である。これによって、全国区の旅行会社でなくても、旅行商品を造成販売できるようになった。
これは、各地の体験プログラムを組み込んだ着地型旅行の展開に大いに寄与するはずだった。

それから10年。
もちろん、動いているところは動いているものの、全体としてみれば、ほとんど状況は変わっていない。


 

なぜ、こうなるのか。原因は何か。

端的に言えば、パパストアであろうと、観光協会であろうと、観光客の絶対数が少ない地域では採算分岐ラインに乗らないと言うことだ。

こうした検証を行うにあたり、私は「フェルミ推計」をよく使う。
精度はともかくとして、全体として大丈夫なのか否かを確認出来るからだ。

まず、一般論として、売上に占める人件費の比率は30%位である。そのため、目標とする年収を3倍した金額が、概ねの売上高目標となる。

例えば、現在の1人あたり年収の平均額は400万円程度であるが、これを稼ぐには、だいたい、1,200万円の売上が必要となる。

1年間は365日だが、週5日80時間とか祝日、有給休暇などを考えると、稼働日数は200〜250日程度となる。観光の場合、季節波動や曜日波動もあることを考えると、さらに少なくなる可能性があるが、ここでは250日としてみよう。

そうすると、先の1,200万円を250日で単純に割ると4.8万円/日となる。

ただ、実際には、観光集客はいわゆるパレート分布に従うので、2割の営業日で8割の売上、3割の営業日で7割の売上といった分布となる。仮に3:7だとすると、75日(250日×30%)で840万円(1,200万円×70%)を売り上げる必要があり、売り上げ目標は11.2万円/人日となる。

着地型旅行の販売は、手数料商売(コミッション・ビジネス)である。仮に、その手数料を10%とすれば、旅行商品の金額としては11.2万円÷10%で、112万円/人日を売り上げないとならないことになる。

「体験プログラム」の多くは数千円。バンジージャンプや熱気球など高額なものでも2〜3万円である。さらに、高額なプログラムは1日の最大利用人数も限られる事を考えれば、112万円/人日を達成することはかなり難しい。

補助的な収入とはなり得ても、旅行販売で「稼ぎ」、それを他の事業の事業費に充当するというのは、とても困難である。

DMOとしては、体験プログラムについては、これで稼ぐというよりは、体験プログラムの提供事業者が自活できるように、「マーケティングを考える」という方が適切なアプローチであると思う。滞在人口が増大すれば、それだけ事業者の事業機会は増大するので。

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「「着地型旅行の販売で稼ぐ」という幻想」に4件のコメントがあります

  1. いつも楽しく拝見させていただいております。

    欧州ではDMOがツアーを紹介しているのをときどき見ます。
    自前で催行したり、ツアー会社の商品を紹介したり、いろいろのようです。

    例えばですが

    ロンドン
    http://tickets.london/gt/tour/wembley-stadium-tour/172

    リヨン
    http://www.jp.lyon-france.com/node_32089

    これはDMO主催
     https://www.visiterlyon.com/les-coulisses-de-l-opera-national-de-lyon.html
     ガイドツアーくらいならDMO自身がやるにはそんなにむずかしくないですね。

    イタリア・パルマ

    http://www.turismo.comune.parma.it/en/thematic-channels/discover-the-area/routes-and-tours/guided-tours/the-unusual-parma-with-aperitif

    旅行者にとっては、DMO自前のツアーでもDMCのツアーでも、DMOのサイトで着地型旅行が紹介されているととても便利ですね。

    1. コメントありがとうございます。
      昨年、イギリスでDMOへヒアリングをしたところ、日本同様に「自立して稼ぐ」ということを求められており、その流れで自身でツアーを主催したり、仲介したりしているという話は聞いています。ただ、収益が上がっているか(黒字になっているか)というと、微妙(実態は赤字)とのこと。

      ただ、DMO(やDMC)が、地域の体験プログラムを紹介し、予約や決済機能を持つことは地域のブランディングや観光客の利便性向上に繋がるので、取り組む意義はあるということでした。イタリアなどの状況は解りませんが、同様なのではないかと。

      持ち出しがあっても全体最適のために取り組む(=他に収益源はある)のか、単体の採算(稼ぐ)を目指して行うものなのかということは、大きな違いがあるので、それを意識して取り組むのであれば、無問題だと思います。

      1. ご丁寧に、お返事ありがとうございました。

        歴史文化施設などを訪れるガイドツアーでしたら、ある程度の対価をいただいていれば持ち出しなしでやることはそれほど難しくないかもしれません(直接的な経費が収入を上回るようなこと)。逆にDMCが利益ベースでは手掛けられないところとして、しかし貴重な歴史文化財を知る手段としてのツアーをDMOが手掛ける意義はあるかもしれませんね。

        それとふとおもったのですが、フェルミ推計では着地型旅行の販売のケースを取り上げられていますが、DMOが直接旅行を手掛けるのであれば、ビジネスモデルは販売手数料を得るものではなく、胴元収入(造成収入、催行収入)を得るビジネスモデルになるかもしれません。

        またDMOがサードパーティーの商品を販売すれば(DMOが自ら手掛けない旅行)、販売手数料で収入を得られますから原価はかかりませんし、商品ラインナップをある程度そろえることができますし、ご指摘のようにブランディングや観光客の利便性向上に繋がりますね。

        いろいろと勉強になります。ありがとうございます。

        1. ブランディングに資するけど、民ベースでは難しい(=採算は微妙)という活動にDMOが取り組むのは無問題ですし、意義があると思います。

          ご指摘のようにガイドツアー系は、(有償)ボランティアでコストを抑えられる一方、顧客側も支出しやすく(=サービス内容が見えている)、ロットも大きめに出来るので、採算を得やすい活動だと思います。
          ※国内でも展開例が多いのも、その証左かと。

          ただ、見方を変えるとガイドさんの「やり甲斐」につけ込んでいるとも言え、これで「収益を確保しよう」「稼ぐぞ」とするのは、どうなんだろうと思います。

          また、ガイドツアーを含め、みずからツアーを行う場合、手数料収入だけではなくなりますが、他方、固定費を抱えることになります。これも、営利事業者が手を出さない時点で低収益または赤字となる事業だといえます。
          前述のように取り組む意義があるか否かは、ブランディングとの関係での判断になりますが、「稼ぐ」という事には繋がりにくいかと。

          なお、DMO的で、かつ、安定収益とブランディングが両立できる取り組みもあります。
          例えば、黒川の「入湯手形」。旅館組合が販売を独占できるため安定収益となりますし、湯めぐりを促進することでブランディングにもなります。人気になっても、他の民間(例:旅行会社)が割り込むこともできません(旅館組合から仕入れるしかない)。
          また、沖縄県の北谷町では、駐車場収入をマネジメント財源としています。これも、マネジメント組織の独占で、かつ、駐車場を提供する事で町歩き(といっても商業地域ですが)を促進させる事になります。
          このように、地域のキラーコンテンツや交通などを何らかの形で独占できるところだと、違う形が出てきます。そういう仕掛けを考えるのは有効でしょう。

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