以前、海外、主に欧米でDMCと呼ばれる組織は、グループ客(団体客)であるMICE需要を主たる対象としている事について述べた。
では、DMCはどういった料金体系で収益を得ているのだろうか。
もう20年ほど前となるが、DMCの「料金」が、どういったものなのかという事についてコラムがあったので、引用しておきたい。
Demystifying DMC Pricing(Glimaldi, 1999)
やや長文だが、ざくっと概要をまとめると以下のようになる。
- DMCの値付けについて、(ミーティング)プランナーは、少なからず不透明感(不信感)を持っている。
- DMCの値付けに対する混乱原因の1つには、DMCが設定する課金方式が複数あることが指摘できる。
- 具体的には「人数単位方式」「イベント単位方式」「手数料方式(コストプラス)」の3つがある。
- 人数単位は、参加者一人あたり「いくら」という形で提示されるもので、最も一般的。この価格は、各種の費用を人数で案分したものから設定される。
- イベント単位では、参加者数にかかわらずパーティーや式典の内容で設定する。
- 手数料方式では、DMCが支出する直接費に、一定の料率を手数料として課金する。
- いずれの方式でも、純粋な原価だけでなく、費用が隠されて加算されている事もある。
- こうした不透明さの背景には、DMCには原価とは別に、サービス提供のために、負担すべき費用があり、それが盛り込まれているということがある。
- 負担費用の1つは、法人を運営するためのオーバーヘッドで、機器やオフィスだけでなく、スタッフの経験という無形財もある。
- 2つめは、顧客の事前視察に対するプロポーザル費用。
- 3つめは、地域内のアクティビティの視察や検証にかかる費用。
- 4つめは、ホテルなどからDMCを紹介してもらう場合に支払うリベート(kickbacks)。
- これらの費用はDMC事業において必要な支出であり、その必要性をプランナーにも理解いただく必要がある。
- そのため、各種の間接費用についても、明瞭に示していくことが必要ではないかという議論が出ている。
- 他方、DMCを利用することで、プランナーが自力で手配するよりも費用が安くなることもある。例えば、以前、行ったパーティーと同じような仕様で行うのであれば、料金を大幅に圧縮することが出来る。
- また、基本的な企画料のみDMCが受け取り、その他の費用(食事代、会場費など)は、直接、サプライヤーとプランナーでやりとりすることで、総額を抑えるというやり方も出てきている(アラカルト方式)。
このコラムは20年近く前のものですが、その後、DMCの料金は明朗になったのか?、大きく変化したのか?というと、実は、あまり変わっていないようです。
例えば、2012年のミーティング・プランナー向けのコラム「What’s Behind DMC Pricing?」では、前述のコラムと同様の話題が提供されています。
また、囲み枠では以下のような指摘もあります。
Should You Use a DMC?
• YES, if you don’t have the time, or don’t want to do everything yourself but DO have the budget
• NO, if you want to do everything yourself and DO have the time and expertise
• NO, if you don’t have the budget
結局のところ、欧米においてもDMC事業は順風満帆ということではなく、その顧客は、「その地域に対する深い知識をもとにした、もろもろのアレンジ」をプロのサービスとして認知でき、かつ、費用負担が可能な人に限定されるというのが実態なのでしょう。
では、日本ではどうか。
発地か着地かという違いはありますが、DMCの業務内容は、日本では「受注型企画旅行」に相当します。仕組みだけでなく、顧客の9割が団体客というあたりも重なります。
この「受注型企画旅行」は、2005年の法改正によって整理されたものですが、その制度化背景については、JATAが行った以下のセミナー講義録がわかりやすいのではないでしょうか。
これも、かなり長文ですが、ここでの弁護士の指摘は、「企画料」が計上できるものの実際には難しく、その対応で原価にコストを忍ばせることが詐欺行為と見なされかねない事、「企画」についてもパクられるリスクがあることなど、赤裸々に指摘されています。
こうした現状に対し、一つの理想型として「受注型企画旅行におけるフィービジネスの可能性(石川, 2014)」のように、原価に一定の比率をかけるコミッション・ビジネス(手数料商売)ではなく、作業量で課金するフィービジネスへの転換を促す意見もあります。これは、本来2005年の法改正で目指されていた方向性だと思いますが、これを実現するには、顧客側が、DMCが行う活動を「対価を支払うべきプロの活動だ」と認識してもらえるかどうかが鍵になるという点は、欧米のDMCと変わりません。
ITが進展し、多様な情報を顧客がダイレクトに得られるようになっている中、何を持って「プロ」の活動だとしていくのか。なかなかに難しい問題です。