人手不足とAI

避けられない構造的な人手不足

以前、地域においてホスピタリティ産業の人手は、福祉分野によって確保されていくため、宿泊や飲食物販などは更に人手確保が難しくなるだろうという整理を行った

政府は、「人づくり革命」の方針の中、福祉分野の基準賃金を増大させる方向で政策検討を行っており、この方向が顕在化してくれば、各地域における宿泊事業などにおける人手不足は、更に構造的なものとなっていくだろう。

また、政府では現在、税制改正を議論中だが、本決まりとなってきているのは、給与所得者(サラリーマン)について、年収の高い人達への控除額を引き下げ増税するという方向性だ。
現在の平均年収は400万円+αといった所だが、読売新聞の記事に掲載されている年収分布を見ると明らかであるように、400万円代以下の人達が多くを占めているのが実状である(いわゆるパレート分布をしている)。

考察編」で指摘したように、サービス経済化の中で、労働生産性(=1人当たりの生産額)が低下する中、日本のGDPは「就業者数の増大」によって維持されて来た。それが、ある種の限界に達したのが、ここ数年の状況だと言えるだろう。

今は小康状態とはいえ少子化の流れは止まっていない事を考えれば、従来のようにサービス業を若年層に頼ることも出来ない。

そのため、今後もGDPを維持増大させて行くには、年齢性別にかかわらず、多くの人達に「働いて」もらう必要があるし、また、それで得た所得を消費に回してもらう事が必要となる、と政府は考えている。
だからこそ、政府は地方創生から「一億総活躍」、さらには「人づくり革命」へと舵をきっている訳だ。
教育の無償化や保育環境の拡充、平均年収以下の人達の相対的税負担軽減、副業規定の緩和などは、そうした方向性に沿ったものであり、政府視点としては戦略的だ。

一方で、サービス業の中で高収入とされていた銀行において、大幅な人員削減が行われる見込みとなっている。

これはサービス業の中でも、労働生産性の高い業種は、その労働生産性の高さ故にリストラ対象となっていく可能性を示している。
このまま労働生産性の高い業種・職種を創造できないまま推移すると、日本全体が「かなりやばい」状態になっていくだろう。

ホスピタリティ産業における人手とAI

サービス経済化と人口縮小によって生じるこれらの状況を縦糸とすれば、横糸のように出てくるのがAIである。

AIの進化はすさまじく、対しているのがAI(人工知能)なのか、リアルな人なのかを判別する事でAIの「出来」を評価する「チューリング・テスト」を突破するものも出てきている

AIとホスピタリティ産業との関係をみると、3つのタイプが想定できる。

タイプ1は、AI単体での対応である。チューリングテストやスマートスピーカーの展開が示すように「ネット」の世界での対応のほとんどは、AIが対応していくことが可能だろう。

タイプ2は、AI+機械によるいわゆるロボットである。自動運転車や荷物運搬、掃除、保安などはすでにテスト段階に入っており、これも普及していくことになるだろう。

タイプ3は、AI+人型というヒューマノイドである。「変なホテル」では既に導入されているものの、最もハードルの高い分野だろう。

タイプ1で重要な事は、ビッグデータの取得と解析である。言語化能力については、ほぼ目処が立っているので、あとは、事態をどのように理解し対応するのかという部分に集約されてきているからである。銀行のリストラは、このタイプ1による代替でもある。
当初はメールや電話によるコンタクトセンターの一次受けから始まり、コンサルテーションへと拡がったり、アクセスログによるWEBデザインの自動変更や、SNSやメールなどによる情報発信の自動化といったマーケティング・オートメーションの世界が拡がっていくだろう。
これを制することができるかどうかは、ともかくデータを集めること。そして、そのデータから有意な情報を見つけ出し、アクションへと繋ぐ道筋を作っていく事になるだろう。
これは先行者利益がモロに出てくる分野だと考えられ、早急なキャッチアップが必要だろう。

タイプ2は、タイプ1と平行して動いていくことになる。ただ、タイプ1ほど「多様性」は求められず、かつ、横展開が容易(例:掃除ロボは一度確立されれば、そのまま他の場所でも使える)なので、ある時を境に、ドカンと普及していくと考えられる。
このタイプは、ある種、工業的な世界であるため、人柱的にパイオニアになるも良し、一定程度普及してから導入して行くのも良しだろう。

タイプ3については、最もSF的。技術的にはタイプ1と2の延長にあるが、ホスピタリティ産業が生み出す付加価値は少なからず「人が人に対するサービス(接遇)」にあることを考えれば、これをAIに代替すべきか否かは、ポジショニングによって判断が異なるだろう。
端的に言えば、ファーストフードやバジェット型ホテルと、フルコースレストン/4星ホテルでは対応は異なるだろうということだ。後者では、敢えて「人」が対応することが価値となる可能性は高い。その場合、小規模だが「付加価値の高い労働集約産業」が生まれる可能性もあるだろう。

AIが作る近未来のホスピタリティ産業

こうした展望に立つと、ホスピタリティ産業の近未来のビジネスモデルも考えて行くことが出来る。

現在直面している「人手」の問題に直結するのはタイプ2である。AIロボットが人件費より安価となるには、まだ、間があるが、バックヤード業務についてタイミングをはかっていくことが必要だろう。仮に、これから施設のリノベーションなどを考えている場合、AIロボット向けの設計としておくことも有効かもしれない。ただ、安価に供給されるようになっても、それは現在の取り組みを代替するだけであり、ホスピタリティ産業の付加価値が上がるわけでもない。

ホスピタリティ産業のビジネスモデルを大きく変える可能性があるのはタイプ1だろう。
すでに、マーケティングは定量データに基づいた科学の世界になってきているが、最終的なコミュニケーションについては人手に頼っている部分は少なくない。これがAIとして自動対応できるようになれば、極端な話、全ての顧客に対して個別対応することも可能となる。
さらにビッグデータが繋がってくると、従来、ホスピタリティ産業や観光地側からアプローチが難しかった顧客の日常生活にまでリーチが可能となる。これは、ホスピタリティ・マネジメントの仕組みを大きく変える可能性を持っている。
この世界にリーチし、顧客と新しくかつ多面的な関係性を作れた事業者は、非常に強靱な隔離システムを持つ事になるだろう。蓄積されたノウハウは知財となり、保護の対象ともなるし、一度構築された顧客との関係性を崩すハードルは高いからだ。

他方、派手さはあるが、先行きが見えないのがタイプ3だ。仮にヒューマノイドが実用化されてきたとして、そのニーズがあるのかは解らない。その位置づけからタイプ2より高額となるだろうし、ファストフードやバジェット型ホテルで、そうした費用負担をしてまで「人間らしい外観や所作」が求められるのかどうか解らないからだ。
むしろ、あり得る世界は、顧客の側が、現在のスマホのように、デジタル・コンパニオンとしてヒューマノイドを伴う可能性だろう。障がい者や高齢者のアシストや、いわゆる秘書業務、場合によって育児などに、この種のヒューマノイドが進出してくる可能性があるからだ。
仮に、そうしたヒューマノイドがソフトウェア(プログラム)によって、行動を変えることが出来るなら、タイプ1と繋がることによって、顧客が持参したヒューマノイドが、ホテルのコンシェルジェやポーターのように振る舞うことも可能となる。そうなれば、施設側は、プログラムだけを用意しておけば、いわゆる民泊でも、高級ホテル並みのサービスが可能となる。イメージとしては、スマホアプリを提供する事で、豊かな経験を提供するようなものである。
これは、ホスピタリティ産業にとって、大きな転換点となろう。

さて、どうなっていきますか。

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