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ホスピタリティ産業と観光産業の違い

ホスピタリティ産業と観光産業

「ホスピタリティ産業とはなんぞや」という話は、以前も少し整理したが、観光産業と混同されることが多く、かつ、その混同が地域振興に対する行き違いを招くので、観光産業とホスピタリティ産業の違いについて改めて整理しておきたい。

観光産業は英語で言えばTourism Industry。ただ、地域や学術界では、Hospitality Industry(ホスピタリティ産業)という用語の方が多く使われる。これは、DMOなどの施策の方向性が、観光産業ではなく、ホスピタリティ産業の方によりフォーカスされているためだ。

とはいえ、両者の概念は、明確に区分されている訳ではない。

それは、下図に示すように両者は共通部分を持つ従兄弟のような関係にあるからだ。

Pizam氏の整理を元に筆者作成

両者の共通部分は、どちらも地域外からの来訪者(観光客や旅客)に対して物品やサービスの提供を行う事業だと言うことだ。

その上で、観光産業は、その来訪者となる顧客が地域内外にいるかに関わらず事業を行う。例えば、ネット・エージェントが商品を売るのは発地でであるし、航空会社や鉄道は、発地から着地まで移動させるのが事業である。

これに対し、ホスピタリティ産業は、その地域に居る人に対して事業を行う。その地域に居る人であれば、それが地域外からの来訪者であろうと、地域住民であろうと関係は無い。

つまり、観光産業とは旅行者を対象とした産業というように対象者によって規定され、一方のホスピタリティ産業は宿泊や飲食、会議、娯楽といった顧客の時間を経済価値に変えていく事業というように事業内容によって規定されるものである。

概念整理に使われる整理軸が異なる事が、両者の区分が不明瞭となっている理由だと言える。

地域振興との関係

でもこの「不明瞭」な部分をクリアにしておかないと、地域振興と観光との関係は語ることが出来ない。

観光産業は、前述したように、旅行者を対象とした産業である。
ホスピタリティ産業の対象需要にも旅行者は大きな意味を持っている。

よって、両者とも、利害関係は一致しているようにみえるが、地域振興という視座からみると、両者の位置づけは異なってくる。

話を整理するため、前図のベン図から産業を3つに区分してみよう。
まず、ホスピタリティ産業と観光産業が重なっている部分を産業B、産業Bを除いたホスピタリティ産業を産業A、そして、産業Bを除いた観光産業を産業Cとする。

ここで産業Cの立場からみると、旅行先(着地)は、どこでも構わない。さらに、産業Cの事業者の多くは、域外に立地しているので、雇用や税収の点でも地域とは無関係である。

つまり、産業Cは、観光が振興されれば良い訳で、その活動自体は具体的な地域と紐付けされたものとはならない。

これに対し、産業Aは、対象顧客の多くは地域住民であるため、観光客が増えたからといっても、必ずしも収益が拡大するわけではない。

観光×地域経済という視座において、最も重要な産業は産業Bとなる。産業Bは、地域において、旅行客と地元住民双方に事業を行う産業であるから、地域との関係性(繋がり)は強い(事業が良化するためには、その地域が盛り上がることが必要)し、雇用や税収の効果も期待できるからだ。

すなわち、観光による地域振興を目指すということは、産業Bの振興を目指すということと同義である。

では、産業Aや産業Cは不要なのか?

前述の通り、産業Cの振興は、かならずしも地域振興に繋がる訳ではないが、産業Cは、産業Bに対して旅行客という需要を運んでくれる存在である。そうした区分、役割や位置づけの違いを踏まえた上で連携策を検討していくことが必要だろう。

よくある事例として、地域に産業Bが無いのに、産業Cと連携し、観光客を連れてこようとする事が挙げられる。これは一見、観光振興に取り組んでいるようにみえるが、観光客が来たとしても、その行動を経済行為に変えることが出来なければ、地域振興には繋がらない。
※経済効果を目的としないのであれば、話は別ですが。

一方、産業Aは、産業Bを生み出していく母体となる産業として整理できる。観光客の「地域オリジナル志向」は高まる傾向にあり、その中では「地元の人達が楽しんでいる」事が重視される。その意味で、産業Bは産業Aから移行したものであることが望ましいからだ。

産業政策としての地域振興

このように観光を地域振興の手段としていくには、それに適合した産業政策が必要となる。

すなわち、まずは産業Aを育て、その上で産業Cとの連携を行いながら、産業Aの事業者を産業Bへと移行させていくということだ。

ここで留意しないとならないのは、産業Aを産業Bにしていく際、過度に、原材料の域内調達率にこだわらないということだ。むしろ、地元の人の雇用の場となり、従業員がそこで得た所得を地域内で使っていく(この場合も産業Aの厚みが重要)ように取り組むべきである。

観光客が来れば地域振興になると単純に考えるのではなく、地域住民の需要も取り込みながら、どのように産業Bを育てていくのかという事について知恵だししていくことが求められる。

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