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「都市の時代」における観光地域づくり

21世紀は都市の時代

地方創生に沸き立つ日本では、あまり報じられる事がありませんが21世紀は都市の時代と言われています。

これには複数の意味があります。

まず、事実として都市への人口集中が強まっており、既に世界の総人口の半数が都市に居住しており、さらに今後、より強まるだろうということ。

次に、成熟経済の時代となり、経済価値(付加価値)を生み出す産業が製造業からサービス業にシフトしたため、サービス業が集積、集積の経済を指数的に高めた都市が世界レベルの経済の中心になっていくということ。

第3に、従来、都市は政治的な中心で、国家という枠組みを象徴するものであったが、都市にグローバル化が進むサービス業が多量に集積することによって、都市が国家の枠組みを超える可能性が出てきたということ。

こうした動きに、肯定的な立場の人も居れば、否定的な立場の人も居て、それぞれに多様な論点が派生的に生じますが、好むと好まざるとに関わりなく、大きな流れがあるということは理解しておく必要があるでしょう。

地方創生または観光地域づくりにおいても、こうした流れを展望した上で戦略を検討することが重要と考えます。

サービス経済社会時代の「集積効果」

なぜ、都市に人が集まるのか。歴史的に見れば、政治的な面と、経済的な面の2つがあります。その中でもサービス経済化において重要度が高まっているのは経済面です。

都市には、多様な主体が量的に集積する事によって生産性が高まるという効果があります。これは「集積の経済」とか「集積の利益」と呼ばれます。

例えば、豊田・三河地区には、トヨタ自動車を中心に関連する事業者が多く集積することによって、高い生産性と競争力を持った自動車産業を形成している訳です。こうした製造業(地場産業を含む)を核に「街」や「都市」が作られて来たケースは少なくありません。

ただ、物流と通信が整備されてくると、どこでも製造拠点の立地が可能となり、物理的な空間への集積はあまり影響しなくなってきました。集積度よりも、安価な労働力の方が重要な因子になったわけです。
その結果、海外に製造業が流出するという動きがおきました。

製造業の海外移転は否定的な文脈で語られることが多いですが、1980年代くらいまでは、国内の地方部でも、製造業の移転先として名乗りをあげ、工業団地などを整備していたわけで、製造業はそういうものだと思うしかありません。

変わって都市において重要な要素となって来たのが、サービス業の集積です。
GDPの大部分をサービス業が占めるようになり、物流や通信が発達してきたからこそ「人と人のコミュニケーション」が重要になってきたというのは、多くの人が指摘する所です。実際、我々はメールやIM、SNSなどによって、以前よりも多くの人々と「繋がる」ようになっています。

人と人のコミュニケーションの充実には、人々が物理的に近い空間に集い、さらには、コミュニケーションを促進させる様々な仕掛け、仕組みも重要となります。これは事業者側から見ると、事業機会が増大することでもあり、さらに事業が集積する事になります。こうした「ある特定の地域」に対するサービス投資が、更なる投資の呼び込みに繋がっていくことで、成長していくというのが、サービス経済社会時代の「集積効果」であり、地域の成長セオリーとなっています。

ゴールドカラーの登場

こうした地域成長セオリーにおいて、重要なプレイヤーとなって来ているのが「ゴールドカラー」と呼ばれる職種です。

これまで、職種を大きく肉体労働系と頭脳労働系に大別し、前者をブルーカラー、後者をホワイトカラーと呼ばれてきました。しかしながら、技能の高度化や、雇用者と会社との関係性の変化によって、従来のホワイトでは整理できない職種としてゴールドカラーという概念が出てきたのです。

このゴールドカラーは Robert Earl Kelle氏が1985年に提唱した概念で、高い専門性や経営力を武器に自立的、主体的に働く人材となります。仮に企業と労働契約を結んでいるとしても、労働者と使用者という上下関係のある労使の関係ではなく、人材側が職場を選び、企業側はその高度な能力に対する対価を払うという対等かつ独立的な関係となります。

このゴールドカラーは、生涯での移動距離が数千キロになると言われています。
ブルーカラーの多くは、生まれた場所の教育機関を出て、近くの職場に就職。その移動距離は数十キロ程度となります。
ホワイトカラーの場合、遠方の大学に進学したり、就職した企業の転勤で東京から福岡に移動するなど移動距離は数百キロに達します。
これがゴールドカラーになると、日本から米国の大学に進学し、オーストラリアで働くなど、その移動距離は地球サイズ、数千キロに達します。

これは、ゴールドカラーは、(語学力を含めて)職場の選択力が高いため、自身が住みたいところ、働きたいところを自立的に選択していけるということを示しています。

ゴールドカラーは、サービス経済をリードする存在であり、ホワイトカラーと比して高い生産性も有します。そのため、サービス経済社会において、集積効果を得るには、彼らをどれだけ「集積」出来るかが、企業にとっても、地域にとっても重要となっています。

ライフスタイル・ファースト

言い方を変えれば、サービス経済社会における地域振興においては、職場があるということだけでは不十分で、有為な人材に「住みたい」と思ってもらう事が重要だと言うことです。

都市部では、そうしたパラダイム変化に対応し、職場となるオフィスビルだけでなく、住宅や文化施設などをセットにした開発が行われるようになっています。六本木ヒルズはその好例だし、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアでもサービス・アパートメントや旅館(星の屋)、緑地帯などの整備が行われてきています。

こうした取り組みは、ゴールドカラーの呼び込みにおいては、彼らが魅力的だと思うような「ライフスタイル」を提供する事の重要性を示しています。

現在の「地方移住」でも、ライフスタイルが先にあり、そこから移住先が探され選ばれるという流れはあります。ここでの対象者の多くは「職場」が無いと働くことの出来ないブルー/ホワイトカラーなので、ライフスタイルがあるだけでは移住は成立しませんが、都市部だけでなく地方であっても、有為な人材が、憧れとなるようなライフスタイルを有するというのは、重要な要素となります。

例えば、地域が憧れの場所となれば、役場へより有為な人材が応募してくる事になるでしょう。彼らはゴールドカラーではないかもしれませんが、よりゴールドに近いホワイト、言わば、白金(プラチナ)カラーとして、中長期的な地域振興のエンジンとなってくれるでしょう。

このように都市や地方では、集積度や規模の大小はありますが、最大の地域経営資源である「人材」の獲得に向け、憧れとなるようなライフスタイルを創造していく事が「都市の時代」に対応した地域づくりとなるわけです。

重要度が高まるホスピタリティ産業

この「ライフスタイル・ファースト」を実践していくにあたり、重要度が高まっていくのはホスピタリティ産業です。

住居と職場ではない、第3の場所(サード・プレース)となるようなカフェ。家族や友人との豊かな時間を演出するレストラン。アウトドアレジャーを楽しむことの出来るキャンプ施設やスキー場。音楽や演劇を楽しむことの出来るシアター。ガーデニングやDIYの楽しみを支援するホームセンターなどなど、人々のライフスタイルと地域のホスピタリティ産業(事業者)は密接な関係を持っているからです。

さらにホスピタリティ産業は、具体的な「地域」に密接に関係しながら、その地域内の需要だけでなく、地域外からの需要にも対応出来るという特徴を持っています。これは、地域振興に置いて非常に重要な特性であり、観光産業と異なる部分です。

地域において、ゴールドカラーの人達すら惹きつけるようなライフスタイルを創り上げていく核となり、また、地域の経済的振興にも直結するのがホスピタリティ産業な訳です。

地域政策との連動

ここで留意が必要なのは、ホスピタリティ産業は勝手には振興しないと言うことです。

産業が成立するには、一定の需要が必要です。観光需要を呼び込むことはもちろんですが、「ライフスタイル」を考えるなら、ベースとなる需要は地域から生まれてくる事が望ましい。言い方を変えれば、時代に合った地域の楽しみ方を、地域の人達が知っていて、実践していくことが重要となります。人は、新しい事を始めるのはおっくうですし、余暇活動には時間と必要が必要です。こうした現実をふまえ、その地域の文化となるようなライフスタイルを創造し、更新していくことが求められます。

その意味で、地域を楽しんでいくことの出来るような活動を盛り上げていくNPO活動とか、コミュニティビジネス、または、住民参加イベントの展開といった取り組みは重要な意味を持ってきます。

さらに、観光需要を呼び込むことを考えれば、景観は、非常に重要な要素です。

こうした事を考えると、観光による地域振興を実現するには、単にDMOを強化すれば良いというわけでは無く、地域としてのビッグピクチャーがあり、それを実現していく総合的な戦略が必要となります。

言い方を変えれば、そうしたビックピクチャーと戦略を持てないと「都市の時代」に取り残されていくことにもなります。
※「都市の時代」に追随するのではなく、敢えて、逆張りするというのも選択の一つですが、それも戦略的な対応が重要となります。

実際、海外のリゾートにおいては、観光の振興(ホスピタリティ産業の振興)に留まらず、ホスピタリティ産業を基幹産業とした地域振興、ゴールドカラーを惹き付けることで都市としての競争力を高めていくという都市戦略が展開されつつあります。

多様な要素の変化によって、都市戦略、地域振興戦略も変化しているということを理解し、咀嚼した対応をしていきたいところです。

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