収益還元法による値付けの一般化

さらに、同時期、事業用不動産の価格自体の考え方が大きく変化します。

バブル期くらいまで、不動産の価格は周りの取引価格や、物価変動などから決まったり、その開発にかかった原価から算出されたりしていました。しかしながら、証券化技術の普及に伴い、収益還元法が普及します。

収益還元法は、端的に言えば、その不動産がいくらの収益を生み出すのかということを元に、価格を決定する方法です。

例えば、事業体Aが、5%の利回りを期待するとします。
投資を考えている物件βから生み出される収益が1,000万円だとすると、1,000万円÷5%=2億円となり、その物件の価格は2億円となります。

仮に、その物件βが、これまで100億円の投資がなされていようと、周囲の同規模の物件が10億円で取引されていようとも、収益還元法では事業体Aが目標とする利回りから値付けされることになります。

増大するホテルオペレーターの経営力への注目

こうした値付けが一般化してくると、収益を生み出す事業体Bのパフォーマンスがとても重要となってきます。

例えば、先にあげた物件βを事業体Aが2億円で購入し、運営力に定評のある事業体Bに運営を委託したとします。事業体Bは、自身のノウハウを元に経営再建を行い、5年後には年間1億円の収益を上げられるようになったとしましょう。

そうなると5年後の、その物件βの価値は、1億円÷5%=20億円 となります。
つまり、事業体Aは、5年間で18億円を「荒稼ぎ」できる訳です。

このように、事業体Aとしては、高い経営力を持った事業体Bとコンビを組むことが出来、かつ、ポテンシャルはあるのに経営力の低さによって低収益となっている物件を確保する事が出来れば、宿泊事業を錬金術的な投資として取り扱うことも可能となったわけです。

これによって、長期保有ではなく、売り抜けることを出口としたホテル系の「投資ファンド」が出てくる事になります。

また、経営力に自信のある事業者の場合、自身で一旦、不動産も含めて買収し、その後、価値の上がった不動産を売却(運営は継続)するというビジネスモデルも誕生します。

こうした展開を大規模に進めているのは、星野リゾートです。例えば、2003年に20〜30億円で買収した(とされる)トマムを、その後、米国系の投資ファンドに移管。さらに2015年に185億円で中国系資本に全株を売却し「売り抜けて」います。
※現在の「株式会社星野リゾートトマム」は、星野リゾートの株式はありません。

また、沖縄県恩納村の「サンマリーナ」は、2004年にレーサムリサーチが28億円で取得−>2006年にイシン・グループが57億円(推定)で取得−>2016年に「シェラトン」にリブランドの上、森トラストが210億円(推定)で取得と、10年余りで7.5倍に資産価値を高めています。

いずれの場合も、それなりの追加的な設備投資も行っていますが、何より重視されているのは、きっちりと収益を確保できるホテルオペレーターの存在となります。

なお、多くの海外ブランド・ホテルは、日本国内に進出場合、実際の運営については、国内のホテル・オペレーターが行っていることが一般的です。例えば、森トラストはマリオットグループと提携し、ホテル展開を進めていますが、中身は従来のラフォーレです。

つまり、ブランド・ホテルは「そのブランド力」と「CRM」、「マネジメントのノウハウ」を国際的な経営実績を元に提供する一方で、実際のオペレーションは(国際的なブランド力は無いが)地域での状況に通じた現地法人が行う事で、互いに補完関係を構築しているわけです。

また、近年、ブランド・ホテルは、そのブランド数を増やしてきています。これは、ブランド・ホテルの展開が一般化してきたことで、一つの都市やリゾートに、複数、同じチェーンのホテルが展開することが求められるようになったためです。看板となるブランドが一つしかないと、ホテル同士で共食い(カニバル)が生じる可能性があるため、複数施設を展開する事が難しい状況にありました。契約によっては、事業体Aから、同一ブランドでの別施設展開を制限されている場合もあります。そこで、チェーンは同じでも複数のブランドを用意することで、共食いを避けつつ、市場シェアを高めることが志向されているのです。このことは、それだけチェーンホテル系のブランドが重視されるようになっていることを示しています。

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