観光におけるイノベーション

私は、この流れが、観光分野においても適用できるのではないかと考えています。

国内において90年代前半までは、著名な観光資源や、立派な施設、大きな施設があれば人が来ました。旅館の大型化はその産物でもあります。この時、人々は施設というハードに注目しており、その施設がどのように経営されているのかという点には、無関心でした。
これはITの世界で「CPUのクロック数がどうだ」とか「メモリ容量がどうだ」とハードの仕様に注目が集まり、少なくない人達が自作パソコンに夢中だったのと同様です。

90年代後半になってくると、大型施設の破綻が相次ぎ、また、大規模開発による環境破壊についても取り上げられることが多くなり、施設のハードだけでなく、経営状態や経営ポリシーに関心が拡がっていきました。これに平行して、観光活動の点でも、エコツーリズムやグリーンツーリズム、産業観光といった多様な形容詞観光が世界中で生まれ、これに伴い体験プログラムも増えていきます。狭義の観光資源(=ハード)の優劣ではなく、その上に乗るソフトの優劣が重要となりました。
これはITの世界に、インターネットが出てきて、そのネットを使うにはハードがどうこうではなく、どのブラウザ(例:インターネット・エクスポーラーかクロームかサファリか)を使うのかということが争点になったのと同様です。

さらに海外では2000代前半、国内でも後半になってくると、産業側からもOTAやダイナミックパッケージが提供されるようになり、顧客が交通から宿泊、飲食などなど自ら経験を設計し、手配する事が出来るようになりました。これによって、顧客は、従来のように旅行会社が造成する既成商品ではなく、自由に旅行先も現地での体験も選べるようになりました。

旅行会社の場合、部品となる観光資源や施設といったスポット、すなわちハードやソフトを取捨選択し旅行商品をくみ上げるのが一般的です。これは旅行会社が、各スポットに対する情報(取引関係を含む)を豊富に持っているから出来ることでもあります。

これに対し、多くの顧客は旅行先(デスティネーション)選定から入ります。北海道に行こうとか、京都に行こうという発想が先に来ると言う事です。そこにある期待は、北海道なら雄大な自然の中で遊べるだろう、京都なら悠久の歴史に触れられるだろうといった「顧客経験」に対する漠然としたものとなります。旅行先のイメージが明確であればあるほど、具体的にどこに泊まるのかとか、何で行くのかといったことは、顧客にとってさほど問題ではなくなります。クラウドサービスを利用するように、ハードやソフトの仕様では無く、そこに出かけたら楽しそうか否かという事が重要であることに加え、宿泊先や交通は、そういう地域であれば「なんとかなる」という信頼感があるためです。
スペックを気にせずブランドで購入するアップル・コンピューターのようなものだとも言えるでしょう。

そこからデスティネーションマネジメントやマーケティング、そして、ブランディングといった概念が形成され、DMOという組織論にも繋がっていきます。
このように、観光の場合は、「サービス」は「顧客経験」と読み変えることが出来ます。

仮にこういう段階で整理できるのだとすれば、我々は現在、ソフトからサービス(顧客経験)の段階へシフトしてきており、その先にはデータの世界が待ち受けていると言うことになります。

 

  • 【機能性】 初期の市場では、商品やサービスには機能性が求められる〈商品のイノベーション〉
  • 【信頼性】 機能性が満たされると、品質と信頼性が求められる〈業務プロセスのイノベーション〉
  • 【利便性】 機能性と信頼性が満たされると、利便性とカスタマイズ性が求められる〈ビジネスモデル・イノベーション〉
  • 【価格】 機能性・信頼性・利便性が満たされると、市場はコモディティ化し、競争は価格面に絞られる〈ビジネスモデル・イノベーション〉

市場の成熟に伴う「競争の基準」の変遷*ListFreak

 

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