Discussion of Destination Branding.

ハードとソフトとサービス そしてデータ

イノベーションのジレンマ

イノベーションのジレンマという考え方があります。

これ、基本的には製造業における競争環境の変化を示した物で、端的に言えば、ある分野で真面目に改善・改良に取り組んでいても、別の所で破壊的なイノベーションが起きてしまうと、そちらに競争の焦点が移ってしまうという現象を示しています。

例えば、ガラケーとスマホで言えば、ガラケーのメーカー(NECやパナソニックなど)は、毎年、商品力を上げるため、その機能改善に取り組んでいました。その結果、「ガラパゴス・携帯」と呼ばれるほど独特かつ多機能な製品となっていきました。

ただ、この取り組み自体は、各社としては競争に勝つために必要でしたし、消費者も望んでいたものでした。

しかし、そこにiPhoneをはじめとしたスマホがやってきます。ガラケーに比べて、バッテリーの持ちは悪いし、でかいし、写真の画素数も低く、ちゃんと使うにはパソコンとの連動が必要…などなど、ガラケーの基準からすれば「全くダメ」な製品でしたが、2〜3年で、消費者はスマホへと流れていくことになります。

こうなると、ガラケーは、どんなに改善・改良に取り組んでも、消費者の心を掴むことは出来なくなり、市場の主戦場は新しく定義された「スマホの世界」での競争へと変わっていきます。

これを「ジレンマ」と呼ぶのは、ガラケーのメーカーが「真面目」に製品の改善・改良に取り組んでいたが故に、スマホという新しい市場への対応が遅れたためです。
今となってみれば、ガラケー・メーカーは、少なくともアンドロイドが出てきたときに、そちらに思い切ったシフトをしておけば、韓国や中国メーカーと互角にやりあえていたかもしれません。しかしながら、一定の市場を抱えており、各種の経営資源もガラケーに立脚していたが故に、その資源を「活かす」、すなわち改善・改良を徹底することで持続性を得ようとしてしまった訳です。結果、まさしく「ガラパゴス」となり、市場を喪失することになりました。

既存製品の改善・改良に真面目に取り組んでいたが故に、新しい環境への対応が遅れてしまう…これが「ジレンマ」の所以です。

インプルーブメントかイノベーションか

イノベーションのジレンマでは、同じ分野での改善・改良を「持続的イノベーション」、ガラケーからスマホへのジャンプを「破壊的イノベーション」と呼んでいますが、私は、前者をインプルーブメント、後者をイノベーションと整理しています。

ガラケーからスマホの例を見るまでもなく、時間の推移の中で、競争のポイントは全く別種の物に変化していきます。この競争環境の変化について行けないプレイヤーは、大きく取り残されていくことになります。

よって、我々は常に自分たちが「常識」と思っているものが、変わってきているのではないか、(破壊的)イノベーションが生じているのではないかということに注意を払う必要があります。

これは観光分野でも同様でしょう。

ただ、インプルーブメントとイノベーションの違いは後から振り返れば見えるものの、リアルタイムには、両者は入り乱れていてよく解りません。
例えば、ガラケー−>スマホにしても、iPhone以前にもブラックベリーやW-ZERO3などは存在しており、一定の注目は集めるものの拡がりは持てませんでした。これは、プロダクトライフサイクル論における「キャズム」を超えられなかったためです。そのため、ガラケー・メーカーが、iPhoneも「以前と同じく失敗する/キャズムは超えられない」と考え、自身の製品のインプルーブメントに取り組む事こそが正しいと考えたのは、合理的でもありました。

観光分野でも同様です。
当時者にとっては、物事は連続的に推移しているように感じるので、現状のインプルーブメントが正しいのか、思い切ってイノベーションしてジャンプするのが正しいのか、その判断は困難を極めます

IBMに見るイノベーションの変遷

ここで、個人的に一つのフレームとなるのではないかと考えているのは、IBMが取ってきた戦略の変遷です。

IBMは、言わずとしれた世界的なIT企業ですが、2000年頃まではパソコンやサーバーといったハードウェアを造る会社であり、例えば、ノートパソコン「ThinkPad」は、とても高いブランド力を持っていました。しかしながら、高いブランド力を持ったまま、2005年にレノボに売却するなど、IBMはハードウェア業から身を引きます。

その代わりに、彼らが注力したのソフトウェアの世界です。企業系の戦略情報システムに特化していくことになる訳です。

さらに2010年代に入ると、ソフトウェア販売業からも身を引きます。変わって、SaaS(Software as a Service)として、ソフトウェアをクラウド上に展開し、その機能をサービスとして提供する企業へと変わっていきます。

ソフトウェアとサービスの違いは解りにくいですが、ソフトのパフォーマンスを発揮にするには適切なハードが必要であり、かつ、ソフトは日常的にバージョンアップしなければなりませんででした。これに対し、(クラウド)サービスは、利用料を払っていれば、それがどういったハードやソフトで動かされているのかに関心を持つ必要がないという違いがあります。サービスの世界では、顧客はハードやソフトに対する専門的な知識を必要としない訳です。

そして、2020年代を見据えて、IBMは「データ」を収集しサービスに組み込む方向へと向かっています。(クラウド)サービスは、「問題の解き方」を提供するものですが、その問題を解くためには、多様なデータを入力する必要があります。例えば、天候によって売上が変わるような商品を扱っている場合、天気予報データをあらかじめ組み込むことができれば、予測精度が高まりますし、利用者も必要最小限のアクションで、最大限の成果を得られるようになります。

このようにIBMは、トップランナーでありながら、走るトラックを環境変化に合わせて変えていっています。彼らが変えたトラックが、ハードからソフト、サービス、そして、データとなります。

そして、このハードからソフト、サービス、そして、データという流れは、初期の携帯電話(自動車電話を含む)から、iモード付きのガラケー、スマホ、そして、現在のIoT端末としてのスマホというように、IT業界全体に適用可能です。

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