リテンション発想から芽生えるもの
(他地域と競合しながら市場を獲得する)シェア発想から、リテンション発想に切り替えることで見えてくるものがある。
それは「市場が減っているから」という他責的な思考から、自身の取り組みの結果、蓄積の成果であるという自責的な思考に変わる事である。
また、セグメント・マーケティング思考から、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)を主体としたデータベース・マーケティング思考へと変わることでもある。
こうした思考の転換は、マーケティングを相対的なものから、主観的なものへと変える効果ももっている。
「相対性に対する認識 〜戦略立案に必要な考え方〜」で述べたように、社会は相対性を持っている。これが様々な施策展開の難しさの背景にあるわけだが、リテンション発想では、主たる主体は自分自身と来訪した顧客(とその顧客の周辺の人々)に絞り込む事ができる。
つまり、自分自身で事態を動かしやすくなる訳だ。
この発想の違いは、マーケティングとブランディングというように区分することも出来る。
ブランディングについては、何度か述べてきているので、ここでは割愛するが、観光地ブランディングにおいて最も基本となるのは地域での顧客経験であり、相対性を抑えた自責的思考、CRMによる顧客との繋がりが重要な要素となる。
市場が増減することは、地域では対応のしようがない。
その中でも観光振興を実現していくためには、市場ボーナスに頼るのではなく、来訪経験を通じて、自らの顧客との繋がりを深め、広めていく取り組みが重要だろう。
「インバウンド需要はバブルかファンダメンタルか」で示したように、全体の市場規模が減っている時でも、客数を増やすことが出来る地域は「必ず」存在する。
そうした地域となっていくきっかけはリテンション発想、そして観光地ブランディングにあると考えている。
国内市場が中長期的に減っていくという予想から、インバウンド市場に注力しようというのは、マーケティング的には正しい。しかしながら、ブランディング的には、異なる考え方、戦略も出てくるということを意識しておきたい。