なぜ観光振興に取り組むのか

現在、観光は、世界中で注目されるようになっている。

しかしながら、その注目の理由は、国内と海外では異なっている。
この違いを意識しておくことが、観光を考える上で、重要である。

日本で、観光が注目されるようになったのは、これまでも何度かあった。
が、現在は、人口縮小社会における地域創生という文脈が大きい。

非常に端的に言えば、人口が縮小する中で、定住人口だけでは需要確保が難しくなり、その補完を域外需要(=交流人口)に求めるということになる。

このきっかけには、「地方消滅」を扱った増田レポートの影響がある。

もともと、我が国では1970年代の前半(第2次ベビーブーマー世代)以降、出生数は減り続けている。つまり、少子化は半世紀近くの時間軸の中で生じたものであるが、それがもたらす「人口縮小社会」をリアリティをもって伝えた訳だ。

実のところ、私も、このロジックを、かつてはよく使っていた。

産業構造のシフトと捉える諸外国

これに対し、海外での観光振興への注目は、グローバルに進むサービス経済社会へのシフトに対応したものである。

経済の中心は、産業革命を経て第2次産業が中心となったが、1990年代に入ると情報革命を経て第3次産業が主体となる。
日本でも、これは同様であり1990年代には第2次産業の就業者数は減少に転じ、2005年にはサービス業(第3次産業から不動産や金融、卸売り・小売りを除いたもの)と製造業のGDPが拮抗し、それ以降、サービス業が製造業を上回るようになっている。

製造業が「強い」とされる日本であっても、この状況であることを考えれば、諸外国においてはより重要な位置づけにあることは容易に想像がつく。

この「経済のサービス化」の先鋒となるのがホスピタリティ産業であり、それが観光振興の注目へと繋がっていくのである。

「きっかけ」が変われば「政策」も変わる

こうした「きっかけ」の違いは、同じ観光振興であっても、政策を変える事になる。

海外の場合、サービス経済化への対応としての観光振興であるため、ホスピタリティ産業の新規形成、生産性向上が主たる目標となる。これは産業政策であるが、ホスピタリティ産業を含むサービス産業は、集積の経済が働くことに加え、観光は、来訪者を呼び込み滞在させる空間が必要となるから、物理的な空間や交通インフラも関連してくることになる。

結果、諸外国においては、観光政策は、都市政策と連動させた産業政策に帰結する。

例えば、フランスのマルセイユは、フランス最大の貿易港であったが、物流の変化や治安の悪化などによる閉塞感を抱えていた。これを観光によって再生していく訳だが、それは地域内の空間イノベーションという大規模な都市計画的手法に、資本やノウハウを持った、ホテルオペレーターや不動産事業者の誘致という産業政策を組み合わせたものである。

マルセイユの中心にあるインターコンチネンタルホテル。 元々は病院(閉鎖状態)の建物にアクサが出資し、ホテルとして再生させた。

これに対し、日本では人口縮小社会への対応としての観光振興であるため、基本的に、地域内の空間や産業などには手を入れない。出来るだけ、今ある空間や産業に、域外需要が張り付くようにすることが望ましいからだ。

また、産業政策から考えれば、「一定の集積」がスタートラインとなるため、都市やリゾートが政策の対象となる。が、人口縮小社会への対応となると、より人口減少が深刻な地方部が観光振興の政策の対象となる。

そのため、日本での観光政策は交通政策との繋がりが強くなる。

例えば、クルーズ船誘致のためにバースを整備することは、一見、都市計画的な取り組みにも見えるが、交通政策として地域への動線を強化しようというものであり、その需要の受け皿となる宿泊施設やアクティビティの整備とは連動していない。そのため、「来訪してくれたけど、消費単価が伸びない」という事象が起きる。

世界モデルと国内モデルの併走を

日本の観光政策が交通政策と繋がるのは、政策の対象が「人口縮小に苦しむ地方」である以上、当然のことであるし、また、合理的な判断でもある。

高齢化も進展する地域に、ともかく、交流人口を呼び込み、賑わいを形成し、文化やコミュニティを維持していくように対応していくというのは、大きな政策課題であるからだ。

これはこれで、大きな課題であり、これに対応しうる観光の可能性を検討し、実践していくことを重要だろう。

一方で、ホスピタリティ産業は、既に国際的な競争環境に至っており、(既に遅れ気味ではある)我が国は、これにキャッチアップし、サービス経済社会への対応度を高めていかないと成長は無い。

自動車産業がそうであったように、国際競争力を持つには、自国内で、ある種の予備予選を経て、ノウハウを高めていく事が有効であるが、人口や事業者の集積度の低い地方部は、サービス産業への対応を苦手とする地域であり、産業振興との相性は非常に悪い。

我が国は、人口縮小社会への対応だけでなく、サービス経済社会への対応も重要であることを考えれば、ポテンシャルのある地域では、攻める観光振興、産業政策としての観光振興を考えて行くことも必要では無いだろうか。

具体的には、既に東京や福岡、札幌などで都市計画的な視点から展開されている都市部や、海外からの投資が入りつつある北海道や沖縄などのリゾートでは、世界モデルに基づいた展開が求められるのではないか。

つまり、同じ観光振興ではあるが、人口縮小社会への対応という地域政策と、サービス経済社会への対応という産業政策を、しっかりと区分し、かつ、同時並行させながら展開させていくことが求められているのではないだろうか。

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