絶好調の沖縄観光
現在は、国内各地で観光振興への取り組みが行われていますが、その中でも絶好調と言えるのは沖縄県である。
沖縄県は、リーマンショック後の数年間を除けば、半世紀近く、域外からの観光客数を増大させて来ている。ここまで長期的に、かつ、基本的に右肩上がりで成長している地域は、国内では他に類を見ない。
例えば、同じく、日本を代表する観光リゾート地域である北海道は、同期間、バブル期と今回の2回しか域外からの観光客数は増加していない。
その沖縄県は、2017年、ハワイ州の入域観光客数(人回)を越えた。
長らく沖縄県はハワイ州をベンチマーク先としてきたが、人回だけとは言え、これに達したことは沖縄観光が、また新たなフェーズに入ったと言えるだろう。
沖縄県はハワイ州を越えたのか?
ただ、彼我の差は少なくない。各種データの整理が終わっている2016年を対象に比較してみよう。
※この時点では、まだハワイ州の方が人回は多い。
沖縄県 | ハワイ州 | |
入域観光客数(人回) | 861万人回 | 938万人回 |
平均滞在日数 | 3.74日 | 8.98日 |
入域観光客数(人日) | 3,220万人日 | 8,022万人日 |
観光消費額 | 652,554百万円 | 15,893$mil. (1,716,444百万円/$1=¥108) |
沖縄県とハワイ州では、人回は同水準となっているが、大きく異なるのは平均滞在日数。結果、人日ベースの入域観光客数は、ハワイ州は沖縄県の2.49倍に達する。
一方で、観光消費額も大きな差があるが2.63倍。人日差が2.49倍であることを考えれば、1日あたりの消費額に大きな差は無い。
実際、1日あたりの消費額を比較してみると、その構成には違いがあるものの、総額は為替レート変動で吸収できてしまう差でしかない。
沖縄県 | ハワイ州 | |||||
2016年 | 2015年 | 2016年($) | 2015年($) | 2016年(¥) | 2015年(¥) | |
総額 | 20,257 | 19,682 | 197.7 | 191.3 | 21,514 | 23,148 |
宿泊費 | 6,134 | 6,095 | 84.6 | 81.2 | 9,189 | 9,826 |
交通費 | 2,766 | 2,698 | 19.3 | 17.7 | 2,102 | 2,141 |
買い物費 | 4,401 | 4,476 | 28.0 | 28.2 | 3,047 | 3,408 |
飲食費 | 4,517 | 4,309 | 41.0 | 39.3 | 4,459 | 4,757 |
娯楽費 | 1,852 | 1,749 | 17.6 | 17.0 | 1,916 | 2,063 |
その他 | 582 | 356 | 7.4 | 8.0 | 800 | 963 |
つまり、観光消費額(総額)の差は、平均滞在日数の違いがもたらしている。
そもそも、3.74日という滞在日数は、国内では群を抜いた高さであるわけだが、ハワイ州をベンチマーク先とすれば、その差はあまりに大きく、観光消費のボトルネックになっている。
ハワイ州への来訪者の発地別滞在日数を見てみると、突出して日本人の滞在日数が低い事がわかる。ハワイ州にとって、日本は、現在でも最大のインバウンド市場であるが、その日本市場が滞在日数の平均を押し下げていることになる。
2016年 | 2015年 | |
全体 | 8.98 | 9.06 |
航空機利用者全体 | 9.03 | 9.12 |
U.S. West | 9.16 | 9.28 |
U.S. East | 10.19 | 10.30 |
Japan | 5.86 | 5.86 |
Canada | 12.63 | 12.73 |
Europe | 12.93 | 13.08 |
Oceania | 9.57 | 9.53 |
Other Asia | 7.03 | 6.75 |
Latin America | 11.61 | 11.53 |
Other | 10.49 | 10.50 |
クルーズ利用者 | 4.95 | 4.58 |
注目すべきは、「他のアジア」は日本を上回り7日に達し、また、クルーズ利用者ですら5日弱となっていることだ。これらは、沖縄県のそれを大きく上回っている。
沖縄県とハワイ州の比較で言えば、1日あたりの消費額には大きな差はない。
つまり、滞在日数の増減が1人あたりの消費単価を決定する。
言い方を変えれば、何日滞在出来るのかは、どこまで滞在に費用をかけられるのかという事になる。
また、「富裕層を取り込め!」でも述べたように、同じ国(市場)からの人数(人回)を増やせば、所得階層は低下していくことになる。
すなわち、観光消費額を確保するには、バカンス需要を持った人々から旅行先として選択してもらうことが不可欠であることが沖縄県とハワイ州との比較でも解る。
観光消費と地域経済の関係性
もう一つ、沖縄県とハワイ州との比較で見えてくることがある。
それは、観光収入と宿泊飲食部門の生産額との関係性の違いだ。
まず、ハワイ州においては、両者はほぼ完全にシンクロしている。
※既出のグラフが間違っていました。修正しました(2018/08/02)。
一方、沖縄県においては、両者の関係はかなり曖昧だ。観光収入の下落時には大きく下落する一方で、観光収入が増加傾向に転じても、生産額の立ち上がりは鈍い。
※既出のグラフが間違っていました。修正しました(2018/08/02)。
宿泊・飲食の消費額と、宿泊・飲食部門の生産額の比率(付加価値率)を試算してみると、ハワイ州では7割を越えているのに対し、沖縄県では6割に満たない。
Okinawa | Hawaii | ||
対象年 | 2015 | 2016 | 2015 |
宿泊・飲食の消費額 | ¥312,569,432,000 | $10,063,817,268 | $9,475,414,394 |
宿泊飲食部門の生産額 | ¥182,440,000,000 | $7,328,000,000 | $6,931,000,000 |
付加価値率 | 58.4% | 72.8% | 73.1% |
また、就業者1名あたりの生産額(狭義の労働生産性)をみてみると、ハワイ州では観光収入や生産額(総額)の伸びにあわせるように1名あたりの生産額も増大しているのに対し、沖縄県ではほとんど変化していない。
なお、前述のように沖縄県とハワイ州では観光収入の差は2.63倍であるが、就業者数は沖縄県は5.6万人に対し、ハワイ州では10.3万人と1.84倍でしかない。すなわち、ハワイ州では沖縄県の就業者1名あたり1.4倍の観光消費を処理していることになる。
さらに、宿泊・飲食部門の生産額の推移と、他の部門との(県及び週全体の生産額を制御変数とした)偏相関を見てみると、両者は似た構造にあるものの、ハワイ州は卸売り・小売りや運輸など関係に関連の高い業種との相関が高いのに対し、沖縄県ではこれら業種との繋がりは弱い。
沖縄県 | ハワイ州 | |
農林水産業 | 0.67 | 0.88 |
卸売り | 0.53 | 0.82 |
小売り | -0.61 | 0.74 |
運輸・郵便 | -0.63 | 0.79 |
情報通信業 | 0.96 | -0.51 |
金融保険業 | 0.94 | 0.66 |
持ち株会社 | – | 0.91 |
公務 | 0.67 | -0.88 |
その他のサービス | 0.95 | 0.82 |
※沖縄県およびハワイ州の資料を元に2006年から2015年までの10年間を対象に算出。沖縄県またはハワイ州で、0.6以上の偏相関が確認出来た部門を抽出し掲示。
つまり、ハワイ州は観光収入を付加価値形成に直結させ、労働生産性向上に繋がり、関連業種との連動性も高いのに対し、沖縄県は観光収入を伸ばすことは出来ていても付加価値形成との相関度は低く、労働生産性向上にも繋がっていない。
この結果は、沖縄県とハワイ州には、絶対的な観光収入に差があるだけでなく、その観光収入を生産額、すなわち付加価値へと転化していく経済構造に違いがあることを示している。
観光消費を地域経済の活力に繋げるには
観光消費を高められるかどうかは、マーケティングに寄る部分が大きい。
観光消費は、観光客数(人回)×消費単価で算出されるが、人回についてはプロモーションや航空路線開設が重要となるし、消費単価については、バカンス需要を持ち、長期滞在出来るような資力を持った人々を惹き付けられるかどうかということになるからだ。
ただ、その観光消費が地域経済の活力に繋がるかどうかは、付加価値を生み出すビジネスモデルや雇用形態、他産業との関わりが重要となってくる。
このことは、デスティネーション・マーケティング(やブランディング)といった取り組みとは別に、ホスピタリティ産業を対象とした産業政策をきっちりと行う事の重要性を示している。
めちゃくちゃ面白い分析
いかに飽きさせず、泊数を増やせるか
考えみれば、そこを突き詰める先に
移住増加も見えるのかもしれませんね