Discussion of Destination Branding.

デジタル時代の観光地マーケティング

以下のコラムで既に示しているように、観光地の価値、競争力は提供する「経験」によって規定される。そして、その経験の評価は地域や施設ではなく、消費者(顧客)の主観によって行われる。

これを踏まえ市場に対していくのが、観光地マーケティングであり、教科書的に言えば、その基本はSTP(セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニング)から始め、マーケティング・ミックス(4P/4C)に展開することになる。

マーケティング実務の難しさ

実務上の問題は、STPの実践が非常に難しいということだ。

セグメンテーションとは、顧客属性によって市場をいくつかに細分化することだが、これも闇雲にやれば良いわけではなく、自地域との「相性」に影響する軸(セグメンテ)を特定し、それで区分しなければならない。

よく「市場分析」として性別や年代、居住地での分析(クロス集計)が行われるが、これは性別や年代などによって、自地域との相性が変わるということが前提となっている。実際、そういう事例は多いだろうが、多様化の進む現在、それで十分かと言えばそうでは無いだろう。

例えば、既に既往研究によって観光に対する意識や行動や、所得水準や学歴、未既婚などのライフステージ、これまでの旅行経験、生活に対する価値観などが影響することが明らかとなっている。特定の地域との相性を考えれば、さらに細かい軸が現出する可能性は高い。

が、何が自地域にとって有効な「軸」となるのかというのを明らかにするのは、そう簡単ではない。自地域にとって有効な軸が見つかれなければセグメンテーションは不全となり、ターゲッティングは曖昧となり、ポジショニングに至っては実施すら難しくなる。つまり、マーケティングを展開すること自体が難しいということになる。

2つの対応策

私が考えるこの事態への対応策は2つ。

1つは、来訪者を徹底的に分析し、そこから「軸」を見つけ出し、自分たちにとって相性の良い「ロイヤルカスタマー群」を特定していくことである。

これについては、以下で詳細をまとめているので、参考としてもらいたい。

ただ、このアプローチは、既存顧客(=既に来訪している人々)を主たる対象としている。つまり、それなりに市場を獲得できている地域でこそ有効に機能する。その一方で、新興地域や先行地域であっても「インバウンド向けに新しいコンテンツを作り攻めていこう」という場合の対応は難しい。そうした地域には、売り出そうとするコンテンツを目当てに人々が来訪していないからだ。

こういう場合に第2の方策として推奨できるのが、ネットを活用したプロモーションに「見せかけた」マーケティングリサーチである。

デジタル時代の市場調査手法

こうした地域と顧客の関係性には、3つの大前提がある。

  1. 地域側は顧客が欲しているものはわからない。
  2. 顧客は地域のことを知らない。
  3. 言葉では「現地の経験」を伝えるのは限界がある。

まず、1点目だが、市場調査を未実施の状態で地域側が考える「地域の魅力」とは仮説に過ぎない。この仮説を検証しないまま、本格的なマーケティング・ミックスに展開していくことはギャンブルでしかない。

2点目。ほとんどの顧客は、細かい地名は認識していない。仮にその地名を知っていても、そこに何があるのか、どういうところなのかということは知らない。これを知らしめるのがブランディングであり、新興地域/新しいコンテンツにはブランド力(CBE)が無いのだから当然である。

3点目は、人は経験をしたことの無い経験を理解することは難しいということだ。新しい取り組みは、当然として、これまでに無いユニークな経験を提示していくことが重要だが、そういう経験を(経験することなしに)理解してもらうことは難しいという問題が生じる。

さて、こうした難しい状況において有効であろうと思うのは、
「自分たちが売り出そうとする経験を動画にまとめ、WEB/SNSを通じて発信し、それに対する反応を計測することで、市場調査する」
というやり方である。

ネットは、従来メディア(旅行博への出典のような取り組みを含む)に比して、情報発信にかかるコストは圧倒的に低く、動画のようなリッチコンテンツの発信も容易。しかも、そのアクセスは、物理的な距離を無とし、具体的な地名を知っているかどうかも関係ない。
さらに、そのコンテンツに対する反応を全て定量的に計測できるという特性も持っている。どの国や地域の人々が、何に関心を持っているのかをリアルタイムに近い形で収集し把握できるというのは、インバウンド時代の観光地マーケティングにとって特に大きな意味を持っている。

この特性を踏まえた対応策が、前述の「やり方」となる。

要は、情報発信レベルにおいては「たくさんの弾」を打てるようになったのだから、打ち続けて、その中で「当たった弾」を見つけ出し、強化していこうということだ。

例えば、以下は私のサイトのアクセス記録である。私のサイトは、私の課題感に基づき脈絡なく投稿をしているが、それでも、こうやったアクセス記録を見れば、社会的に関心が持たれている話題はなんなのかということがわかる。
個人がメディアをもち、社会と繋がり、その反応についても把握できる…というのが、ネットの力である。

サイトへのアクセス状況(グーグルアナリティクスより)

ブランディングへの接続

地域の経験と顧客との関係性を見つけるには、多様なコンテンツを、色々な形で展開していくことが有効となる。「たくさんの弾」を打つことが重要だからだ。

同じ動画コンテンツであっても、説明文やタグ付けによって反応が異なるかもしれないし、複数の経験を一体化したり、分離したりすることによっても反応は変わるかもしれないから、色々な試行錯誤こそ重要となる。

ただ、こういう「とっちらかった」コンテンツ構成では、その地域がどういう地域なのかということを打ち込んでいくことには逆効果となる。

よって、こうした市場調査用のコンテンツサイトとは別に、整理された情報を発信していくサイトも必要となる。

例えば、観光地ブランディングのロールモデルとされるニュージーランドを例にあげれば、彼らはYoutubeをはじめとしたソーシャルメディアに多量のコンテンツを流している。他方、彼らのオフィシャルWEBサイトはシンプルな構成でスタイリッシュだ。

ソーシャルメディアを中心にネット上で分散配置している各種コンテンツを入り口として使いながら、マーケティング分析を行い、その情報を見ながら顧客に伝えるべきメッセージを明確にし、WEBサイトはブランディングに展開しているわけだ。

デジタル時代には、ともかく走りながら、顧客からフィードバックを受け、持続的に修正をくわえながら展開していくことが重要だということを明記しておきたい。

NZは雄大な自然景観に経験を組み合わせたアドベンチャーツーリズムを概念化し展開している

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